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Level.25.5:「リッカ=ベルフレイル=スカーレット」

 その子に、友達はいなかった。

 大企業の社長の一人娘……いわゆるご令嬢なその子は、お嬢様として家内では飯使い達にも可愛がられていた。

 小・中学校と、お嬢様学校に通い不自由の無い生活を送ってきた。

 しかし、その子の住むマンションの近くには、高校はたった一つしか無かった。少し古いながらも、ごく一般的な男女共学校。偏差値は高くも低くも無く、入学することはさほど難しく無く、卒業後の進路もある程度は幅が広かった。男女比率も半々程度で丁度良く、そこの生徒達は良い生徒だと近所でも評判だった。実際通っている生徒達からも、楽しい学校生活を送れているとの声が上がっていた。―一般的な生徒からすれば、だが。

 甘やかされて何不自由無く育ったその子は、友達というものを作ることが出来るはずなど無かった。

 否。正確には、自分から作ることを拒んでいた。

 ―何故自分がこんな貧相な子供達と。

 ―何故自分はこんな老朽化した建物で。

 その子の不満はエスカレートする一方で、その子に声をかける生徒も次第と減っていった。

 カールがかかった金髪という髪形も相まってか、職員や周辺住民達からの評判もあまり良く無かった。

 その子は何度も両親に「学校を辞めたい」と訴えようとしたが、丁度その時は両親の仕事が忙しくそれを伝えることが出来ず、その子は毎日中庭のベンチに座って本を読む毎日を過ごしていた。


「ねえ……それ、何の本?」


 『私』が話しかけると、その子は怯えたようにその場を離れようとした。


「あ、それ……。『私』も持ってるんだ。面白いよね」


 『私』がそう言うと、その子は逃げるのを止めた。そしてゆっくりとベンチに座り直し、その声を初めて聞かせてくれた。


「そう……ですの……? わ、私も、好き……ですわ……」


 お嬢様らしい独特な喋り方。まだどこかに照れ臭さがある様子のその子に、『私』は何故か惹かれていった。


「ねえ、名前……何ていうの?」


「……リッカ……ですわ」


 その子……リッカは、自分の名前を言うのにさえ、顔を真っ赤にさせていた。


「クスッ……良い名前だね。『私』はね、―っていうんだ」


 こうして、『私』とその子の交流は始まった。

 元々友達もほとんどいなかった『私』にとっては、その子との交流が学校で唯一楽しみな時間だった。その子もようやく柔らかい表情を見せるようになっていた―そんな矢先だった。




 ある初夏の夜、その子の父親が家族を道連れに焼身自殺を図った。その子と母親が寝ている部屋で、自らガソリンを被って火を着けたのだという。

 後から聞いた話によれば、その子の父親は経営難に陥っていたらしかった。破綻して借金を背負うことを怖れたその子の父親は、家族を巻き沿いにしてあの世に行こうと考えたのだ。

 その子の父親は即死、母親とその子は酷い火傷を負い、意識不明の重態へと陥った。

 母親は3日後に息を引き取り、その子も危険な状態だとされた。

 数日して命の危機を脱したその子だったが、しばらく経ってもその子の意識が戻る様子は無かった。

 こうして『私』は、大切な友達との日々を失ったのだった。




「……ん、眠っていたのかしら……。何か……忘れていた、昔の夢をみたような……」


「……まあ、気のせいですわよね。眠気覚ましに、散歩にでも行こうかしら……」


 リッカ=ベルフレイル=スカーレットは、金髪を(なび)かせて、外へ向け歩き出した。

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