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Level.20.5:「暁 神楽」

 神楽は和也の身体に抱き止められ、忘れていた……忘れるようにしていた記憶を、思い出していた。




 首を吊り、意識を失った神楽は、廃墟となったビルの屋上で目を覚ました。

 ……変だ。自分は死んだはずなのに、何でこんな所に。

 それに、こんな建物に見覚えは―いや。―いや、ある。

 自分を"産んだ人間"と、生活……否、寝泊まり……否、戸籍上の関係で産みの親に縛り付けられていた、あの場所に―似ている。

 神楽は耐え難い恐怖に呑まれ、ビルを駆け降りる。

 暴力、罵倒。また暴力、罵倒。人間らしい扱いをされなかった、その場所を―。

 この暗闇から自分を救い出してくれたのは、一体誰だったか? ……全く、思い出せない。顔も、名前も。ただその存在の……"母親の存在"という記憶しか、思い出せない。

 忘れたいのに……忘れられない。

 思い出したいのに……思い出せない。


(……誰か、誰か。この輪廻の渦から私を……私を、連れ出して―)


『―大丈夫だよ』


 悠然としたような、しかしどこか幼いような、そんな―女の声。


『貴女が強くなれば、貴女が弱さを克服出来れば、きっといつの日か、――――が。』


 それだけを言い残して、女の声は消えてしまう。最後の言葉は、何かノイズが掛かったように聞き取ることが出来なかった。

 しかし神楽は、決心した。弱さを―無くす。ひたすらに自らを―鍛え上げる。

 ふと、目の前の空間にステータスウィンドウが表示されているのに気付いた。レベルは―20。

 ここがどのような世界かは分からない。……だが。―ならばこそ、レベルなど―関係無い。ただ……ただ、強く。

 そして神楽はコロシアムに足を踏み入れ、強敵との戦いを望むようになっていった。

 



 ―そして、4年後。

 神楽はこの世界に来て初めて―負けた。自らが追っていたレベル1の少年に―負けた。負けて、自らの身を、その少年に―預けた。今まで"母親"にしか預けたことの無かった、その身体を―。

 だが、不思議と嫌な気分はしなかった。そうすることによって、どこか心が安らいでいく自分も感じられた。

 それと同時に、自分がまだ弱さを克服出来ていないということが分かってしまった。

 何が足りなかったのか? まだ鍛え方が足りないのか?

 



 神楽は未だ―気付けていなかった。

 自分の、弱さ。

 その答えは、目の前にあるというのに―。

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