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辺境世界にレベル1で迷い込んだ俺は最強の戦士でした。  作者: 鷹峯 彰
Stage.4 ~影絶つ冷徹な暗殺者<上>~
24/63

Level.20:斬影の暗殺者

『準決勝第2試合勝者は……アカツキ選手だ~!』


 割れんばかりの大歓声。

 リング上に倒れているティカと、その横に突っ立つ黒髪の少女。

 ……一体、何が起こったと言うのか?

 準決勝を終え、意識を失ったレイネを医務室へと運んだ俺は、エレナと共にティカの試合をモニターで観戦することにした。

 ウィルの選手紹介もそこそこに、試合は始まった。

 ―刹那、黒髪の少女の姿が消えたかと思うと、ティカがその場に崩れ落ちた。黒髪の少女はその背後に現れ、ティカの身体を支えて、ゆっくりと横たえた。時間にして、僅か3秒。優秀な《治癒魔法》を持つティカが、何一つ出来ずに一瞬でやられた。その事実は、試合を観ていた俺とエレナに、大きな衝撃を与えることとなった。




「すいません……。手も足も……出ませんでした……」


 医務室に運ばれてきたティカは、弱々しくそう言った。驚いたのは、その身体に全くと言っていい程外傷が無かったことだ。


「……そっか。……それより、怪我は大丈夫か?」


「はい……。外傷は……無いみたいです。カズヤさん……私」


 ティカが言わんとすることを悟った俺は、ティカの頭にポンポンと優しく手をやった。


「……大丈夫。ティカは頑張った……そして確かに、力が全く及ばなかった。でもティカは、全力で戦おうとした。それが……それだけが、事実だ。お前の(かたき)を撃ってやる……なんては言えない。……ただ俺は、お前を倒して決勝に上がってきた相手を倒して……優勝してやる」


「カズヤさん……。……はい、応援していますっ」


「ボクの分も……頑張ってね!」


「その言葉……忘れるんじゃ無いわよ」


 ティカとエレナ、そしてレイネの声援を受けて、改めて優勝を決意する俺。


(……って、ん……?)


「……レイネ!? お前、目が覚めたのか!?」


 ティカとエレナも、驚いた顔でベッドの上のレイネに目をやっている。


「あのねぇ……、勝手に重症扱いしないでくれるかしら……。誰かさんに使えって言われたから使った《諸刃の氷槍(ブリューナク)》の反動よ。……別に怪我とかした訳じゃ無いんだから」


「へぇー……そうですかー……ふーん……。『私は貴方には……勝てない』とか弱々しく言ってたレイネさんはどこに行ったんですかね~?」


「んなっ!? そ、それは違……っ! 気の迷いって言うか何て言うかっ!」


 顔を赤らめ、狼狽するレイネ。ティカとエレナはその様子に笑いをこらえているようだった。


「……でも、その……。ア、アンタのおかげで《諸刃の氷槍(ブリューナク)》に対する恐怖心が和らいだっていうかその……あの……だから……。あ、ありが……と……」


「んー? 最後の方がよく聞こえませんね~?」


「……っ! うるっさいわね! その節はありがとうございました! これでいい!? それよりアンタ、決勝戦は大丈夫なんでしょうね! 」


「あー……まあ……ぼちぼち……?」


 そう。問題は決勝である。ティカを一瞬で倒した相手となれば、相当な実力の持ち主だと考えられる。いくら俺のステータスが高くても、簡単に倒しきれるかどうかは分からない。


「相手がどんな人かも分かりませんしね……」


 ティカの言葉によって、さらに重い雰囲気になる俺達。―その時。向かい側のベッドを囲っていたカーテンが、勢いよく開かれた。


「そいつはこの俺が説明してやろう!」


 逆立った金髪が特徴的な青年。彼の身体には、至るところに包帯が巻かれていた。


「えーっと……誰?」


「誰アンタ?」


「誰だっけかー?」


「誰……でしたっけ?」


 レイネ辺りは本気かも知れないが、皆ノリが良くて何よりだ。


「うぉい!! 俺の扱いヒドくない!? ねえ!? カイルだよカイル! カイル・グランディア!」


「「「「あー……」」」」


 適当に相槌を打つ俺達。カイルの扱い方が半ば自動的に決まったような気がした。


「反応薄っ! もっと何かあってもいいだろ!?」


「だって……なあ……?」


「「「特になにも……」」」


 女性陣のこの反応は、カイルにとって痛いダメージだろう。実際カイルは目の前でがくりと肩を落としていた。


「ひでぇよおい……。……まあいい。俺様はこんなことではへこたれないぜ! それよりカズヤ……決勝相手の情報が知りたいんじゃないのか?」


「……! 何か知ってるのか!?」


「おうとも! この俺を誰だと思っていやがるんだ! 歴戦の強者カイル・グランディア! だが、タダで教えるってわけにもいかねぇな。何せ! この俺様は歴戦の……」


「いいからさっさと教えなさいよ」


「はい……」


 目前に突き付けられた《アイス・ニードル》の鋭さと冷たい声音に力無く返事をするカイル。……というかレイネは魔法の使いすぎで意識を失ったのでは無かったのか?


「……名前はカグラ・アカツキ。性別は見たまんま女だ。職業は《暗殺者(アサシン)》で、影魔法を使う。まあとにかく……メチャクチャ強い。この俺でも、アイツが出た1~3回大会では準優勝に終わってるぐらいだからな」


「それじゃあカイル君はそのアカツキちゃんに3戦全敗してるんだね」


「うぐっ……!?」


 何気無いエレナの言葉に、またもダメージを受けるカイル。まあ、カイルもそれなりの実力者なのは確かなので、やはり、そのアカツキという選手はかなりの強さなのだろう。


「まあとにかく……だ。カグラ・アカツキは強い。そしてソイツに勝たなきゃ優勝は出来ねぇ。……お前はどうやって倒す? カズヤさんよ……?」


「……相手がどんなに強かろうが、俺は……負けるわけにはいかねぇ。最初は興味本意で参加したこの大会だが……今は、どうしても優勝しなくちゃいけない理由が出来たからな」


「「「……?」」」


 女性陣が不思議そうに首を傾げるなか、俺は試合への決意を新たにしたのだった。


(このシュバルハイトの現状……。カイルの名声……。そしてアカツキという選手……。……この推測が確かなら、俺は―)




『皆さん、お待た致しました! ついに……ついに決勝戦がやって参りました! 皆さん早くして欲しいという気持ちだと思うので、早速選手紹介に参りましょう!』


 大会スタッフの合図で、俺はリング中央へと歩み出た。


『まずはこの方……! 己が拳一本で数多の強敵達を倒して来ました……初出場、カズヤ選手ぅ~!』


 大きな歓声が俺を包む。続いて向こう側から、黒髪の少女が歩いて来た。


『対するは……! 出場した1~3回大会全てで優勝してきたこのコロシアムの王者……! その影に呑まれた者は一人残らず斬り捨てられる……! 斬影の暗殺者……アカツキ選手~!』


 割れんばかりの大歓声が、彼女を包んだ。

 アカツキ選手はこちらに向かって歩いてくると、俺の目の前で歩を止め、真っ直ぐと俺の目を見て……抑揚の無い口調で、それを―口にした。


「私はここで待っていた―レベル1の、貴方を」


「……っ!?」


 俺の脳裏に、衝撃が走った。

 俺のレベルは、1。その事実は、俺とレイネとティカとエレナしか知り得ないはずだ。正確に言うならば、ヒロトやバンケットの街で交戦した男達も知っているはずだが、ヒロトが情報を漏らすとは考えられないし、男達は守衛兵団に保護されているはずである上にそもそもここは守衛兵団の管轄外だ。だとしたら、なぜ彼女は、俺のレベルを……? ……いや、それよりも問題なのは、俺のレベルがバレているという事実そのものだ。以前レイネが言っていた。レベル20の壁を越えた者に対する、この世界での扱いは―。

 この場をどう切り抜けるか―俺が思考を巡らしていると、黒髪の少女はそれを察したのか、次なる言葉を口にした。


「……安心していい。私のレベルは―20だから」


 そう言われ、俺は彼女のステータスを確認した。[暁神楽(あかつき かぐら):レベル20:暗殺者(アサシン)]……成程、確かにレベルは20だ。彼女もレベル20を越えし者ならば、その辺の事情は把握しているのだろう。


(……それよりも、この子の名前表記って……)


「君……、えっと……アカツキ……でいいか?」


「……カグラ。『アカツキ』は……好きじゃ無い」


「……分かった。えっと……カグラ。カグラは、日本人……なのか?」


 言った後で、俺は後悔した。日本……現実世界の事を知っているのは、俺の知る限りでは俺以外に存在しない。これではカグラに不審に思われてしまう。しかし、そう思った矢先、カグラは更なる衝撃的な言葉を口にした。


「……ええ。私は、この異世界に迷い込んだ……日本人」


「……!? 嘘……だろ!?」


「嘘では無い。《看破(ペネトレイト)》を持つ貴方にはもう見えてるのだろうけど、私の名前は暁神楽。折原和也……貴方と同じく、日本……現実世界から来た」


「なん……だと!?」


 あまりの衝撃の連続に、頭が付いていかなくなりそうになる。なぜカグラは日本……現実世界のことを、そして俺の名前・レベル・スキルを……知っているというのだろうか?


「……貴方は今、なぜそれを? と思っているはず。貴方の事については……ある人に聞いた。でも、ここが異世界だということは……皆『記憶に無い』だけ」


「記憶に……無い?」


「……そう。この世界の人々は皆……現実世界から来たのだから。そしてレベル20に達していない人々の記憶は―封印されている」


「皆……現実から……!? それに……封印……だと!? ……カグラ。お前……この世界のこと……どこまで知っている?」


 俺が聞くと、カグラは首を横に振った。


「……それはまた後。貴方には聞きたい事もある。……まずは試合。私は優勝して、今度こそ―」


 カグラは途中で言葉を濁したものの、さっきまでのカグラの話を聞き、俺の中での推測は、確信へと変わった。


『2人とも、準備はいいね? 第5回大会優勝の栄冠はどちらの手に!? 決勝戦……スタート!』


 ついに決勝が始まった。

 ―刹那。カグラの姿が、消えた。俺はそれを見計らって、斜め上……太陽と逆の方向へと向かって、ジャンプした。


「チッ……!」


 カグラは舌打ちと共に、俺がさっきいた空間を斬り裂いた。


「女の子を傷付けるのは趣味じゃねーけど……!」


 空中で身体を(ひね)り、6割の力を込めた右足でのオーバーヘッドキック。カグラはそれを後方宙返りで避けた。


「《影》を……見抜いた?」


「へっ……。お前さんに3度もやられた奴が知り合いにいるんでね。……それより流石レベル20だぜ。6割出しても避けられるとはな」


「今のが6割……。流石はレベル1……。だが私は負ける訳にはいかない。私は優勝して―」


「―願いを叶える、か?」


「……っ!? 何故……それを……」


 今まで無表情だったカグラが、初めて動揺を見せた。


「……やっぱりな。……最初におかしいと思ったのは、お前が準決勝で戦った相手―ティカが、カイルのことを知っていたのにカグラのことは知らなかったっていう事だ。……思い返してみて俺は気付いた。そもそもここシュバルハイトは、少なからず情報が規制されているんだろ? だったら何でコロシアムの優勝者―カイルの名前をティカが知っていたか。……大会規模なんて関係無かったんだ。それは、カイルが優勝して願ったのが―自らの名声だったからだ。そしてカグラ、お前がさっき俺に教えてくれた事は―優勝して、願いを叶えて知ったことなんだろ?」


「……私は貴方を見くびっていたのかも知れない。……その通り。『人々はどうやってここに来たのか?』『何故人々は記憶を失っているのか?』私は1~3回大会で、これらそれぞれについて知りたいと願った」


「ん……? 1個足りなくねーか?」


「……ええ。本当はもう1つ叶えたい願いがあった。もう1つ知りたいことがあった。私の『母親』の―名前を」


「……! ちょっと待て……お前は現実世界の記憶を持っているんじゃ……」


「……勿論、持っている。ただ何故か……その人のことだけが、鍵がかかったかのように思い出せない。―貴方に心当たりは?」


 心当たり……。俺は父親・母親・妹の顔も名前も覚えているし、友人達の名前も誰一人欠かすことなく覚えている。俺が忘れている記憶など―。……いや。1つだけ……ある。俺が交通事故に巻き込まれたあの日、『俺が救った女の子の顔』が、どうしても思い出せない。


「……ああ。俺にも―ある。……でもそれで……願いは叶えられたんじゃ無いのか?」


「結論から言うなら―無理だった。……いかに『ティア様』と言えども、叶えられる願いには限界があるということらしい。だから私は代わりに―」


「ちょっ……ちょっと待て! 『ティア様』って……この世界で信仰されてて……シュバルハイトに外壁を作ったっていう……か?」


「……ええ。そしてこれは推測だけど……その壁によって、ここシュバルハイトは『世界から』隔絶……もしくは隔離されている。私が記憶を取り戻す代わりに願った願いは、『人々の中から私の記憶を消すこと』だった。でも、シュバルハイトの人々は、私を忘れはしなかったの」


「それで世界から隔離、か……。なら、シュバルハイトと世界を繋げるためには―」


「……そう。『シュバルハイトの外』から、壁を崩壊させる。その願いを叶えるため、そして私は今度こそ『母親』の名前と、顔を思い出すため、そのために貴方を……倒す」


 カグラはそう言うと、1本のクナイを構え……俺目掛けて投げ放った。


「いきなりは無しだろ……っ! ……けど、そんなもん……!」


 その軌道を読み取った俺は、半ば反射的に身体を真横へと動かした。これでクナイの一撃は無駄に終わる―はずだった。


「《影縫(かげぬ)い》」


 クナイに出来ていた影が、俺の方に向きを変える。するとクナイ本体までもが俺の方を向き……突き進んできた。


「マジ……かよっ……!」


 俺はさらに身体を移動させるが、影とクナイは尚も追従してくる。


「くそ……しつけーな……!」


 俺は前方へと思い切り跳躍して着地すると―動くのを止めて、クナイが向かってくる方向を向いた。そして身体を貫かんとするそのクナイを……右手で、掴み捕った。


「……あのスピードを、素手で……?」


 俺の中では、8割以上の力を出すギアが入っていた。レベル20で本金の彼女を倒すには、それぐらいしないといけないと思ったからだ。


「ならば……これで……! 《影兵増員(シャドウ・インクリース)》」


 カグラの影から、カグラを形どった影……いわゆる影分身が生まれた。そしてそれらは、一瞬のうちに俺の周囲を取り囲んだ。


「《影縫い》」


 そしてカグラが魔法を使うと同時に、影分身達もそれぞれが魔法を発動する。あっという間に俺の周りは影の網によって包囲された。


「これで……終わり……。《全ての存在を絶つ一矢(イグジスト・ダーツ)》」


 黒い魔力を帯びたクナイが、四方八方から凄まじい勢いで向かってくる。


「チッ……! こうなりゃ一か八か……!」


 俺はその場で垂直に跳び、右足を高く上げた。


「何を……」


「砕けろっ……!」


 9割の力を込めた、リング床への踵落とし。

 ミシッ……! リングに、ヒビが入る音。―果たして、賭けは成功した。ほぼ全力の踵落としにより砕けた周囲の床の破片が、俺を囲うように飛び散る。カグラの放ったクナイは全て、それに……突き刺さった。


「くっ……!?」


 俺はカグラの動揺を見逃さない。飛び散った大量の破片は、それぞれが影を作り、地面へと落下していった。―その際、カグラの影分身に接触しながら。

 ―影自体は、影を生まない。カグラが動揺した隙にカグラ本体を見付け出した俺は、一気にその懐へと肉薄した。


「しまっ……!?」


「……言うの2度目だが、女の子傷付けるのは―趣味じゃねーからな!」


 俺は右手で手刀を作り―それを、カグラの鳩尾(みぞおち)へと突き立てた。


「かはっ……!」


「……俺もお前に聞きたいことがある。だからまた今度―話をしようぜ」


 カグラの身体は、ゆっくりと―崩れ落ちた。


『け……決着~! 第5回大会優勝は……カズヤ選手だ~!』


 この2日間の中で一番大きな歓声が、俺を包み込んだ。

 華奢なカグラの身体を支えながら、俺は叶えるべき願いを思い浮かべた。


(俺が……俺が叶えたい、願いは―)




 この時の俺は、知る由も無かった。

 カグラの語った世界の秘密は……まだほんの一部のものであるということを。

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