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辺境世界にレベル1で迷い込んだ俺は最強の戦士でした。  作者: 鷹峯 彰
Stage.4 ~影絶つ冷徹な暗殺者<上>~
20/63

Level.16:影の国

 エレナを仲間に加えた俺達は、影の国へ向けて歩いていた。


「で、結局俺の荷物は増える……と」


 エレナは当初大きなバッグを背負っていたが、誰の入れ知恵か、《魔法化収納空間(マジック・トランス・ストレージ)》を有効に活用して、そこに服類などを収納すると、例によって余計な荷物を俺に押し付けてきた―正確に言うならば、俺が引く荷車へと載せてきた。エレナ当人には悪気は無い……と思いたいが、結局俺の負担が増えることには変わり無い。


「……一体いつから俺は荷物持ちになったんだよ」


 俺は嘆くように呟いた。すると荷車の上から、それに対する返事が返ってきた。


「そんなの最初からに決まってるじゃない」


 さも当然のように言ってきたのは、(外見だけなら)美少女の、レイネ・フローリアだ。

 俺の今の旅が始まったのはコイツに出会ったからだが、この荷物持ちとしての旅が始まったのも、コイツに出会ってしまったからである。


「だいたい何でお前は荷台に乗ってるんだよ……!」


 ティカもエレナも普通に歩いているというのに、レイネは荷台に乗り、自ら歩こうとはしなかった。


「……私、病人だし」


 ……そう。確かにレイネは、魔障病という恐ろしい病気にかかり、一時は生死の境を彷徨(さまよ)った。……しかし。


「それは4日前の話だろーが……!」


 ウィズラムの村を出てから、もう3日が経過している。魔障病はいくら何でも完治しているはずである。


「……別にいいじゃない。……減るもんでも無いし」


「体力も気力も勢いよく減ってくんだけどな……!」


「こんなんでHPが減るわけ無いでしょ? ……レベル1なんだから」


 確かに俺のHPは全くもって減っていない。だが、それとこれとは全く別の問題である。


「ふ~ん、レベル1なんだ~……って、え!? カズヤ君のレベルが!?」


 目を見開き、エレナが驚きの声をあげた。


 「ん? 何でそんな驚いてんだ?」


「何で……って、ボクそんなの聞いてないよ!? それにレベル1って言うことは、つまり―」


 ォォォォォ……!


 突如、岩に擬態していたらしい、巨大なゴーレムが襲いかかってきた。看破(ペネトレイト)によるステータス表記は[アイアンゴーレム:レベル30]。

 拳を振りかざすゴーレム。ティカとエレナが悲鳴をあげて伏せる中、俺は左手を目の前に(かざ)して―その拳を受け止めた。


「嘘でしょ!?」


 驚愕(きょうがく)の表情を浮かべるエレナ。対してティカは安堵の表情を浮かべ、レイネに至っては表情を一切変えていなかった。


「よい……しょっと!」


 俺が2割ぐらいの力で蹴りを放つと、ゴーレムの身体は粉々に砕け散った。


「ま、こういうことね」


 ゴーレムの身体が粒子となって霧散していく中、レイネがあっけらかんと言う。

 エレナは暫くの間呆然としていたが、やがて苦笑いを浮かべながら言った。


「あはははは……。カズヤ君、ボクの想像以上に強かったよ。それにちょっぴりカッコ良かったかも……」


「ん? 最後何か言ったか?」


「う、ううん何でも無いよ! これで心置きなく荷物を任せられるな~……って」


「それはやっぱり変わらないのかよ……」


 俺の悲痛の声を後に、一行は旅を続けるのだった……。

 



「な……なんじゃこりゃぁぁぁ!」


 暫く進むと俺達を待っていたのは、円周状に広がっていると見受けられる、約100m程の高さの(さく)だった。

 レイネとエレナが俺同様に驚きを露にする中、ティカが言った。


「これですか? ここから先は影の国―シュバルハイトだということを表す柵ですよ。……シュバルハイトは守衛兵団の管轄外、でも凶悪犯をここから出す訳にはいかない……。だからティア様がこの柵を創られた……と、守衛兵団で教わりました」


「ん? それだと俺達も出れなくないか?」


「それは大丈夫ですよ。1年に1度、バトルトーナメントが開催される時期に限っては、出入りの制限が緩和されるんです。まあ、どちらにしろ身分を隠せば大丈夫だと思いますけどね」


「ふーん、そんなもんなのか。あ、そういえばさ、さっきのティア様ってのは誰なんだ? 名前似てるけどティカの家族か何か―」


「「「……!?」」」


 俺が疑問を口にした瞬間、3人の表情が凍り付いた。


「アンタ……本気で言ってるの……?」


 震えた声で、レイネが。


「アハハハハ……さっすがに冗談……だよね……?」


 乾いた笑いと共に、エレナが。


「例え冗談でも、言って良いことと悪いことがありますよ……?」


 冷たい目で見ながら、ティカが。

 ……それぞれが俺に対し、非難の声を浴びせてきた。


「えっ……ちょっ……。何で皆さんそんな怒っておられるの……!? 何と言われようと知らないんだって! 俺、日本人! ジャパニーズ!」


「「「あー……」」」


 すると3人は、(さげす)むような目で俺を見ながら、妙に納得し合った。


「そういえば、守衛兵団のことも知らなかったですもんね……」


 落胆の声で、ティカが。


「異世界から来た……っては聞いてたけど、ここまでだとはね……」


 苦笑いを浮かべながら、エレナが。

 続くレイネが、溜め息を吐きながら語り出した。


「いい……? ティア様ってのはね、この世界―レイトノーフの信仰神よ。バンケットの街で教会があったでしょ? あれはもともと、ティア様にお祈りを捧げるために建てられたものなのよ。そしてティア様はこの世界に害が及ばないよう、私達のことをどこかで見守って下さっているの。……貴方もこの世界に来たからには、ティア様をちゃんと(うやま)うことね」


「……へーい」


「返事はしっかり!」


「はいはい……」


(この世界の神様……か。そいつに会えば、俺は元の世界に戻れるのかな……? でも……でもその時―レイネ達は、どうなるんだろうか……)


 チラリとレイネ達の方を見やると、そんな俺の思いとは裏腹に、俺への罵倒(ばとう)を並べているようだった……。


(まずは今の方が問題だけどな……)


 ……俺の心情を分かってくれる人は、この場には誰も居などしなかった……。




「ん? ティカ、その帽子……」


 柵の間に(もう)けられた入口兼検問所の前まで来て、ティカがいつの間にか、俺と初めて会った時に被っていた白い幅広の帽子を身に着けていたことに気が付いた。


「あ……えっと……ですね。一応ここは守衛兵団の管轄外ですので、私の身分がバレることで皆さんに悪印象を及ぼすのではないか……ということで……。変……でしょうか……?」


 頬を朱に染め上目遣いで見詰めてくるティカ。……どうやら俺はこの表情に弱いようである。


「いや……むしろその……可愛い……と思う……」


「ふえぇっ!?」


 一層顔を赤くするティカ。……いつもそうだが、見てるこっちが恥ずかしくなってくるようだ。

 その横で、レイネとエレナが俺を軽く(にら)んでいたのは、気のせい……であって欲しい。




 特に問題も無く検問所を通過した俺達は、影の国の中へと足を踏み入れた。


「なんつーかこう、普通……だな」


 影の国という名前から、(さび)れて荒廃(こうはい)した街を想像していた俺は、至って普通過ぎる街並みに驚くことになった。


「それはそうですよ。《影の国》なんて怖い名前付いてますが、元は大きな貿易都市だったんですよ?」


「へー……。……でも何でそれが、出入りが制限されるような国になったんだ?」


 俺が聞くと、ティカは困ったように首を傾げた。


「それが分からないんですよね……。ティア様が、悪人を街の外に出さないようにこうした……って教えられたのは事実ですが、そもそも何で悪人がこの街に溜まるようになって、それを普通の住人ごと閉じ込めるようなことをしたのか……」


「天下の守衛兵団様にも分からないことはあるのね」


 レイネが意地の悪い口調で言う。


「レイネ……。ティカは……!」


「いえ、良いんです……。守衛兵団とはいえ、山ほどの問題を抱えているのは事実ですから……」


「ふん……。……別にティカに恨みがある訳じゃないわ。ただ私は『アイツ』と……『何もしなかった』守衛兵団が許せない……それだけよ」

 そう言ってレイネは1人で先に歩いて行ってしまった。


「レイネ……」


(アイツ……やっぱり何か隠してるんだよな……。でも、アイツを傷付けずに聞き出す方法も分からないし……。もう少し心を開いてくれればいいんだけどな……)


 俺達はレイネの後を追って、街の中心のコロシアムへと向かった。




「はあ……やっと追い付いたぜ……」


「遅かったじゃない。待ちくたびれたわ」


「お前が勝手に先進んだからだろうが……」


 コロシアムの前で、レイネに追い付いた俺達。レイネの様子は、いつも通りに戻っていた。


「まあまあ2人とも……。……それよりティカちゃん、ここがその、バトルトーナメント……が行われるっていうコロシアムなの?」


 エレナがコロシアムを見上げながら言った。


「はい、そうですよ。ちなみにここも、ティア様が悪人を街の外に出さないように……ってことで創られたものなんですよ」


「ふーん……。じゃあそのトーナメントの参加者には、悪人達も含まれているんだ?」


「はい、そうなりますね」


「俺も世間ではその悪人の(たぐ)いに含まれるんだよな……」


「わわ、ごめん! 別にボクはそんなつもりで言ったんじゃないよ!?」


「はあ…………」


「ちょ、ちょっとカズヤ君~!?」


「はぁ……。いいから早く入りましょうよ……」


 レイネの溜め息を後に、俺達はコロシアムの中に足を踏み入れたのだった……。



 

 エントリーを済ませる和也達の姿を、黒装束(くろしょうぞく)(まと)った少女が『影に隠れて』見詰めている。


「見付けた……衣装が違くとも分かる……。レベル1、折原和也……」


 和也達が先の通路に消えたのを見計らって、少女は受付へと姿を現した。


「……エントリーを頼む」


 少女の姿を見た受付の男は、一瞬目を見開くと、すぐに笑顔になった。


「お、カグラちゃんじゃないか! 去年は参加しなかったから心配したんだよ?」


「……すまない、去年は人探しをしていた」


「そうだったのか。……怪我とかじゃなくて何よりだ! いや~今年は盛り上がりそうだな!」


「……善処(ぜんしょ)する」


 こうして、コロシアム第1~3回大会覇者、暁神楽(あかつき かぐら)の第5回大会参戦が決まった。

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