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Level.15:吹き止まぬ風

「レイ……ネ……?」


 ティカとエレナを庇い、谷底へと落下した俺。激流に呑み込まれる寸前の俺を救ったのは、魔障病にかかり寝込んでいるはずのレイネだった。


 ヒュンッ


 呆然とする俺の目の前に、1本のロープが降りてくる。


「ほら! さっさと掴め!」


 どこかで聞いた覚えのある声。見上げるとそこには、鎧に身を包んだ長身の男が―俺が村長の家で殴り飛ばした、衛兵ジンクの姿があった。


「なん……で……?」


 いや、ジンクだけでは無い。あの日、村長の家で見かけた村人達が、上からこちらの様子を覗いてきているではないか。


「ボウズが俺らのためにこんなに頑張ってんのに、俺らが何もしねぇわけにはいかないからな! よし皆、後ろに続けぇ!」


 ジンクの後ろに、屈強そうな男達が続いていく。


(くそ……いいとこあるじゃんかよ……!)


 俺はそのロープを、しっかりと掴んだ。

 



 それからすぐに、俺の身体は引き上げられた。


「カズヤさん!」「カズヤ君!」


 地面に座り込み肩で息をする俺に対し、ティカとエレナが駆け寄ってくる。

 俺は片手を挙げてそれに答え―ようとした瞬間、俺の胸にレイネが飛び込んできた。


「レイネ……?」


 俺はその華奢(きゃしゃ)な身体を受け止める。


 レイネはゆっくりと顔を上げると……


「バカ……!」


 パァン!


 俺の右頬に、痛みが生まれる。レイネが平手打ちをしてきたのだ。


「いって……何す……」


「バカ! バカ! バカ! アンタはいつもそうやってカッコつけて……! 死んじゃったらどうすんのよ!」


「レイネ……。……悪い。……それとありがとな、心配してくれて」


「べ、別にそんなんじゃないし! ただ荷物持ちがいなくなると困るだけだし! ……ホント、バカなんだから……」


 レイネはそのまま、俺の胸に頭を預けてきた。

 少しドギマギしながらもその背中に手を回す俺。と、ここで俺はあることに気付いた。


(ん……? そういえばなんでレイネがここに……? 魔障病で寝込んでいたんじゃ……)


 疑問に思い、レイネの額に手を当ててみると、焼けるような熱さだった。


「レイ……」


 声をかけようとするも、レイネに反応は無い。荒い息をあげて、苦しそうにしていた。


(コイツ……無理してたのかよ……! そうだ……薬……!)


 慌てて向こう側の陸地を見やる。心配そうにこちらを見ているドワーフ族の人々。しかし、吊り橋は無情にも分断されているままである。


(くそ……! 吊り橋が直らなきゃ、レイネも村の人達も助からねぇじゃねぇか……!)


 俺の目の前が、真っ暗になっていく―その時だった。


『大丈夫だよ』


 ふと、頭の中に声が響いてきたかと思うと、突如、吊り橋を謎の光が包み込んだ。

 そして次の瞬間……橋が元通りになっていた。


(嘘だろ……!? 一体何が……。お前は……お前は一体……?)


 俺は瞬時の出来事に驚愕(きょうがく)しながらも、脳裏に語りかけてきた声に対して問いかけた。


『今……は……えない……世界……私の……代わり……倒……』


(おい……、おい……!)


 ノイズのかかったその声は、意味の分からない断片的な言葉だけを残し、消えてしまった。


(何だったんだ一体……。……! それよりも今は……!)


「……ユリエールさん!」


 俺が声をかけると同時に、ドワーフ族……いや、ドワーフ族に変えられてしまった元バンケットの村人達が次々に橋を渡ってくる。その外見に対し、バンケットの村人達は怯えた様子を見せる―かと思いきや、一瞬怯(ひる)んだだけで、彼らを輪の中に受け入れた。


「あ……あの……」


 困惑するユリエールさんとドワーフの人々。そこに、衛兵ジンクが歩み出てきた。


「……アンタ達が、ドワーフ族か……?」


「は、はい……。あの……貴方は……ジンク……ですよね?」


「……! 俺の名を……!? ……なあ、さっきボウズが言ってた、ユリエールってのは……」


「……はい。私は……私の名は、ユリエール・ジオルーン。エレナ・ジオルーンの母でありこの村の副村長だったものです」


 ざわっ……!


 その言葉を受けて、村人達の中に、明らかな動揺が広がる。


「ユリ……エール……。本物……なのか……?」


「……ええ。本物……です。あの……詳しい事は後でお話しします。まずは……」


「おっと、そうだな。まずは何よりも、勇敢な少女レイネちゃんに、魔障病を治す薬―古の丸薬を……!」




 約半日前。

 ベッドで寝込んでいたはずのレイネが、突然起き上がるとともに―


「行かなくちゃ……カズヤが危ない……」


 と言った。カズヤというのは、この少女を連れてきて、村長宅で一悶着を起こした少年のことだ。ハルナは最初、彼に強い嫌悪感(けんおかん)のみを抱いていたが、彼が、大切な仲間の為に、エレナの為に、そして何よりも見ず知らずの自分達ウィズラムの村人の為に怒ったということを感じ取ってからは、嫌悪感は薄れ、知らない感情も芽生え始めて来ていたところだ。そんな彼と、親友であるエレナが頑張ろうとしている中、自分に何か出来ることは無いのか? ということから、この少女―レイネの看病を任されたのである。


「ちょっと……! 寝てなきゃダメだって……!」


 ハルナはすぐさま、起き上がろうとしているレイネを止めようとしたが、彼女の力強い眼差しに射竦(いすく)められてしまった。


「……アイツが、危ないの……。私には……分かる。それに……意識が無くても……アイツの声……聴こえてきた……。こんなんでアイツに死なれたら……私……!」


 ハルナは直感的に感じた。この少女は、自分でも知らない程にあの少年のことを大切に思っている、と。


「……そこを……どいて。私は1人でも……アイツを助けに行く……!」


 この少女を―手助けしたい。いつの間にかそんな感情が芽生えていたハルナは、ふらつくレイネの身体を―支えた。


「何の……つもり……?」


「格好いいこと言ってるわりには、身体がガタついてるじゃない」


「余計な……お世話よ……。こんな痛み……こんな苦しみ……『あの時』に……比べれば……!」

 レイネの意思が揺らぐ様子は無い。そしてハルナは―決心した。


「……いいわ。そんなに行きたいなら……私が連れていってあげる」


「……!? ……何が目的? 弱みに漬け込んで私を殺そうとでも……?」


「ふんっ、誰がそんなカッコ悪い真似。……私は私として……1人の村人として、あの人達を助けたいだけよ。……それに私、今の村の雰囲気……嫌だから。私に出来ることがあれば……やりたいの」


「アンタ……」


「……勘違いしないで。別に……貴女のためじゃないんだから」


「……っ! べ、別に私だってアンタの助けなんか……。でも、アンタがどうしてもっていうなら……その……お願いするわ……」


 2人は互いに顔を反らしながらも、友好の証―を握手を交わした。

 レイネはハルナに肩を貸して貰いながら外に出た。すると、バッタリと衛兵ジンクに出会(でくわ)してしまった。


「……こんな時間にどこに行くつもりだ?」


 ジンクの問いは、ハルナに向けて発されたものだった。


「……ウェスプロード峠に向かった、3人を助けに行くのよ」


 迷いの無い答え。それに対し、ジンクの目はすぐに鋭くなる。


「お前まであのガキに感化されたか……ハルナ! 村長の孫であるお前が……。この……恥さらし……!」


 自分がこの村を形式上は裏切っているということを改めて自覚し、ハルナは(くちびる)を噛み締めた。その刹那―


 パァン!!


 静かな空の下に、乾いた音が響き渡った。

 ハルナは、レイネがジンクの頬を叩いたのだと理解するのに、暫く時間がかかった。


「何しやがる……!」


「……アンタ、最低ね」


「何……!?」


「『仲間』に対してそんな言葉を使うのは最低だ、って言ったのよ。彼女は……ハルナは、自分の意思でアイツらを助けに行こうとしてるのよ。……アンタにはあるの? ……自分の意思。ま、無いからそんな腑抜(ふぬ)けた行動してるのよね」


「俺……は……」


 ジンクは、その場で項垂(うなだ)れた。


「行きましょ」


 レイネは言うと、ふらつく足取りで、峠に向けて歩き始めた。


「あ……ま、待って!」


 ハルナは慌ててその後を追うと、レイネに再び肩を貸した。


「あの……さっきは、その……ありがとう」


「……別に。……あの衛兵がムカついただけだし」


「……それでも……ありがとう」


「……どう……いたしまして」


 こうして夜空の下、2人は歩き出した。

 レイネの言葉は、ジンクを始めとする村人達を動かし、これから半日後、結果的に和也(かずや)の命を救うことになるのだった。




「アイツが……村人達を……」


 ハルナから、レイネが何故あの吊り橋まで来れたかの話を聞いた俺は、驚きを隠せなかった。何よりも彼女が、身体を酷使(こくし)するまでの強い意思を持って俺を助けに来てくれたということに驚いた。


「後でなんかお礼しないとな……」


「レイネ、言ってたよ。後でアイツに高級スイーツ(おご)らしてやる、って」


「アハハ……」


 俺は苦笑しながら、村の広場に目をやった。

 村では今、2年ぶりの村祭りの開催準備が急ピッチで行われていた。

 あの後、村に帰ってきたドワーフの人々は、村長の家に向かい、挨拶をした後に、村人達に《古の丸薬》を配った。それを飲んだ村人達、無理をしてまで頑張ったレイネは、現在休養を取っている。ティカはレイネに付き添っていて、エレナは村長の家に呼ばれたため、広場前のこのベンチには、俺とハルナしかいない状況だ。


「ハルナは随分レイネと仲良くなったみたいだけど……アイツ、なんか言ってたか? 俺を奴隷(どれい)としてこんな風に扱っている~とか」


「そうだね~。カズヤ君のことばかり話してたよ。貧弱カッコつけ婬獣(いんじゅう)野郎ってね」


「アイツめ……」


「……でも、こうも言ってたかな。『―私の旅にはアイツが必要』って」

「どーせ荷物持ちとして、っていう意味だろ……」


「……さあ、どうだろうね……」


 ハルナは言葉を濁すと、こちらに向き直ってきた。

 真剣な眼差し。ハルナは村祭りの為の浴衣を着ていることもあり、その(あで)やかさに俺はドキリとさせられた。


「ねえ……カズヤ君は……」


 ―その時だった。


「2人とも、おっまたせ~!」


 浴衣を着たエレナが、元気な声とともに走ってきた。


「……っ!? エ、エレナ!?」


「ん? どうしたのハルナ。ボク、何か邪魔でもしちゃった?」


「ううんしてない全然してないむしろ助かった待ってたよ! ……それで? どうしてそんなにテンション高いのよ?」


 ハルナは俺と同じ疑問を抱いていた。エレナは、どちらかといえば明るめではあったが、今のエレナは見るからにハイテンションである。


「ふふっ……! あのね? 村長やジンクさん達がボクに謝ってきて、罪滅ぼしがしたいって言ってきて、全然気にしてないからいいよ、って言っても引き下がらないから、村祭りの実行委員長にして貰っちゃった!」


「え……? そ、それで嬉しいのか……?」


「もちろん! 実行委員長だよ実行委員長! よーし、盛り上げるぞ~!」


「あー……この子、昔からお祭りがアホみたいに大好きなのよ……」


「ははは……」


 くるくると楽しそうに回るエレナ。そんなエレナを見ていると、こっちまで元気になってくるようだった。


「あ、そうだハルナ。さっき―」


「カズヤさん、お待たせしました……ってあれ? お話し中でしたか?」


 声をかけられ後ろを振り返るとそこには、水玉模様の浴衣を着たティカの姿があった。


「あ、いや……。あれ、レイネは……?」


「今着替えてますからもう少しで来ますよ。村長さん達ももう動いて大丈夫のようです」


「そっか、なら良かった」


 俺は安堵の溜め息を吐いた。


「あの……カズヤさん……」


 突然、ティカが弱々しく声をかけてくる。


「ん……?」


「私の……浴衣……似合って……ますか……?」


 そう言って上目遣いで見つめてくるティカ。もちろん、似合っていないはずは無い。


「……もちろん。可愛いぞ、ティカ」


「か、可愛い……」


 俺が言った途端、ティカは顔を真っ赤にしてその場に(うずく)ってしまった。そんなに照れられるとこっちまで恥ずかしくなってくるようだ。


「あ~! ティカちゃんには可愛いって言った~! ねえボクは? ボクは可愛い?」


「……そうね。私とさっき会った時も、何も無かったものね。感想ぐらい……」


 エレナが無邪気に、ハルナが少しそっぽを向きながら聞いてくる。


「あー……。……大丈夫だ。2人とも似合ってる。もちろん可愛い」


 俺が頭を掻きながらそう言うと―


「わ……。そ、そんなに真っ直ぐ言われると恥ずかしい……かも……」


「え……。あ……。えっと……」


 2人とも顔を赤くし、照れてしまった。聞かれたから本音を言った俺からすれば、やはりこっちが恥ずかしくなってくるようである。

 3人の少女と俺の間に、微妙な空気が流れ出した―その時だった。


 ざわざわざわ……


 外に出ていた村人達が、一斉にざわめき始めた。何事かと思い村人達が見ている方向を見るとそこには―『月より舞い降りし姫巫女』とでも形容しなければ表しきれない程の美しさを(まと)った銀髪の少女が……レイネ・フローリアが立っていた。

 レイネはゆっくりとこちらに向けて歩いてくる。その姿を見て村人達は、男・女・人間・ドワーフに関わらず、全員が言葉を喪っていた。

 紺色の生地に白い百合の花。オーソドックスな浴衣ではあったが、(かんざし)を留めた綺麗な銀髪と、さらには月光に照らされた姿とが相まって、何とも言えない美しさを(かも)し出していた。

 間近まで来たレイネの姿を見ると、ただただ見とれるしか無かった。そして自然と口から、


「綺麗だ―」


 その言葉が漏れる。


「……っ!? き、綺麗……。べ、別に綺麗なんかじゃ……。そ、それにアンタに見て欲しくてこの格好を選んだわけじゃ……って何でも無い! ど、どーせお世辞なんでしょお世辞……! わ、私なんかが……」


「……いや、本当に綺麗だって。……思わず見とれちまったぐらいだ」


 俺が本心を言うと、レイネは顔を真っ赤に染めた。


「み、見とれ……。べ、別にアンタに褒められて……う、嬉しくもなんとも無い……けど……その……お礼だけは……言っておいてあげる……」


 そう弱々しく言いながら仄かにはにかむレイネ。そんな姿に、俺はドキリとした。


(くそ……コイツ……笑うとホント可愛いんだよな……)


「さ、さて皆さん! 村祭りしましょう、村祭り!」


 暫くしてからエレナが、明るい声で皆に呼び掛けた。それにより村人達は、それぞれの配置に着いていった。


「ではこれより、ウィズラム村祭りを開催致します!」


 満天の星空の下、村祭りが始まった。

 俺達は、屋台や盆踊りなどを大いに楽しんだ。その様子は、どこか小さい頃経験した田舎での村祭りに似ていた気がした。


 


 村祭りから一夜開けた、今日。

 太陽が射し込み、心地良い風も吹いている。来た時は気付かなかったが、風車の村と言うだけあり、大型の風車がゆっくりと回り、良い田舎の風景を演出していた。


「お~い!」


 今日は村との別れの日。広場にやってきた俺とレイネ、ティカの下に、大きなリュックを背負ったエレナがやってきた。


「エレナ……本当に俺達と行くのか?」


「……うん! 村にいたい気持ちも無いことは無いけど……でもボク、それ以上にカズヤ君達に感謝してるんだ」


「感謝……か……。なあエレナ……俺は―」


 そこに、村長のアデルさん、衛兵のジンク、ドワーフのユリエールさん、エレナの親友であるハルナを初めとする村人達がぞろぞろとやってきた。


「話……ってのは……何だ……?」


 ジンクが俺に尋ねてくる。

 俺は昨夜、『明日ここを出る前に、村の人達に話がしたい』と言ってあったので、多くの村人が集まってくれた。


「……ああそうだな。……エレナもそっち側で聞いてくれ」


「……? うん、分かった」


 エレナが村人側に並んだのを見計らって、俺は話を切り出した。


「……俺は……俺達は、指名手配者だ」


 村人達の間に動揺が広がるが、俺は構わず話を続ける。


「と言っても、本当は罪を犯してなんかいない。俺とレイネは何者かの謀略により守衛兵団に追われるようになった。そしてティカのことを、形だけなら無理矢理連れ去ったことになっている」


 レイネとティカが、横で小さく息を呑んだ。


「……そんな俺が、皆に偉そうなこと言って……すまなかった。俺なんかのことを助けてくれた皆には、本当に感謝して―」


「そんなことかよ」


 言葉の途中で、ジンクに遮られた。


「……え?」


「そんなこと知ってたっての。なあ皆?」


 村人達は皆頷いている。俺達はその状況にポカーンとするしか無かった。


「……っていうよりは、知った、だな。……昨日の朝さ。ここにもお前とレイネちゃんの手配書が届いたんだ。でも俺達は、レイネちゃんの話を聞いた後だったからすぐ分かった。お前達はそんなことするような奴じゃねぇ、ってな」


「……っ」


「だからそんなことで悩むんじゃねぇよ。行くとこ、あるんだろ? 胸張って行けや。……誇っていいぜ。お前はジンク様を吹っ飛ばした男だ! ってな」


「……くくっ、アンタが弱いだけだろ……?」


「な、なにぃ~?」


 アハハハハ……!


 俺達の会話に、村人達は笑顔に包まれた。

 

 風が強くなってくる中、俺達は村の入り口に立った。

 さっきの話を受け、エレナは


『そんなこと関係ないよ。ボク、カズヤ君がやってないのなんか分かりきっているもんね! ボクも守衛兵団を倒してやるんだから!』


 と、力強いことを言っていた。

 エレナもユリエールさんとの別れが済んだらしく、俺の左隣に並んでいる。


「それじゃあ皆さん、お元気で!」


「カズヤさん達こそ、お元気で。旅には気をつけて下さいね」


 ユリエールさんからの暖かい言葉。他の村人達からも、次々と別れの言葉を貰うこととなった。


「それじゃあ……本当に、ありがとうございました!」


 そしていよいよ旅を再開すべく、振り返ろうとした―その時だった。


 チュッ……!


 右頬に、柔らかい感触が生まれた。それがハルナからのキスだと気付くのには、暫く時間がかかった。


「え……。な……」


 俺の顔はきっと赤くなっていたことだろう。そんな俺の耳元でハルナは、こう(ささや)いた。


「昨日の……続き。これが私の……気持ちだから。……待ってるからね!」


 そう言ってハルナはそそくさと村の奥に向けてに走っていってしまった。

 俺は、呆然とするしか無かった。隣を歩く少女達のジトッとした視線をどうにか避けながら、俺はゆっくりと歩き出した。




 暫く歩くと、突如として突風が吹いてきた。それは俺達に向けてでは無く、ウィズラムの村に向けて吹き、そこの大きな風車を回した。それは、ウィズラムの村のこれからを暗示しているようにも思えた。

 人々が考えを改め、さらにはドワーフと人間が共生することも出来た。きっとこの村の『嵐』が、吹き止むことは無いだろう。


「ねえアンタ、さっきの何よ……?」


「カズヤさん……説明して下さい」


「カズヤ君……、いつからハルナとあんな関係に?」


 ……ついでに、俺への糾弾(きゅうだん)の嵐も暫く吹き止むことは無いだろう……。

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