Level.8:蒼天の治癒士
ジリリリリリ!
セットしておいた目覚まし時計が鳴る。
目を覚ました俺は、右手に何かが握られていることに気付いた。見ると俺の右手はレイネの左手と繋がれていた。
(ああ、そっか……)
昨晩、うなされていたレイネを落ち着けるために、俺はレイネの手を握った。そのまま寝てしまったため、こうして朝を迎えているのだ。
「ん……」
と、隣のベッドでレイネがもぞもぞと動きだした。どうやら目覚めたらしい。
「おはよう、レイネ。よく眠れたか?」
「おはよ……。……って、え…………」
レイネの視線は、自らの左手に向かった。そこでようやく、自分の手が俺の手に握られていることに気付いたらしい。レイネの顔が赤く染まり、羞恥と怒りが混じった表情になる。
「アンタ……何して……!」
「え……何って……手を……」
「……っ! 私が眠っているのをいいことに、い、いやらしいことしようとしてたわけ!?」
「はぁ!? 誤解だ誤解! 俺はただ……!」
「問答……無用……」
レイネはベッドから跳ね起きると、魔法の杖を右手に握った。
「アイシクル……!」
「待て待て待てぇ! こんなとこで魔法使ったら……!」
「ホーン!」
レイネが叫ぶと、杖の先端から、猛獣のツノを思わせる氷柱が放たれた。それは俺の目前まで迫り……静止した。
「うぉう! 殺す気かお前!」
「……どーせこんなんで死なないくせに」
「だからってお前なぁ……!」
「……分かってるわよ。朧気にだけど、昨日の夜寝てる時苦しかったのは覚えてる。……手が暖かい何かに包まれて、苦しく無くなったことも。……アンタなんでしょ? 声……聴こえた気がしたから」
「あ、ああ……」
珍しく控え目な態度のレイネ。俺はそれに少なからず動揺した。が…………
「……だ、だからって別に感謝なんてして無いんだからねっ! それとこれとは話が別! 許可もしてないのにアンタは私の手を握ってた! だから本当は氷漬けにしてやる所なんだけど……仕方無いから無かったことにしてあげる……!」
「あははは……」
「……っ! な、何笑ってんのよ! 言っとくけど、完全に許したわけじゃ無いんだからねっ! それと……昨晩のことはさっさと忘れなさい!」
「へいへーい」
「ちょっとアンタねぇ! 真面目に…………」
いつも通りのレイネに安心しつつ、レイネの言葉を聞き流しながら部屋を出てレストランに向かう俺であった……。
レストランへとやってきた俺達。朝食はビッフェ形式だったため、それぞれ料理を選んでいくことにした。
「お~、旨そうなのいっぱいあるな~。……ん?」
レイネのお盆を見ると、魚ばかりで野菜が全く乗っていないことに気付いた。
「栄養、偏るぞ? ほら、これも食えって」
俺は近くにあったトマトサラダを適当に小皿に盛り、盆に乗せてやった。
「……っ!」
するとレイネは息を飲み、露骨に嫌そうな顔を作った。
「……ん? ……! もしかしてお前……トマト嫌いなのか?」
「だ……だれが! こ、こんなもの余裕よ余裕!」
レイネが顔をひきつらせながら言う。無理をしているのは明らかであった。
「ふーん……余裕、ねぇ……?」
俺はトマトサラダからトマトだけを皿に盛ると、レイネのお盆に乗っけた。
「うっ……!」
レイネは呻くと、俺を睨み付けてくる。
「余裕、なんだろ?」
そんなレイネを他所に、俺は席に着き、食べ始めようとした。しかしその瞬間、俺のお盆に、グリーンピースが山盛りに盛られた皿が置かれた。俺は額から汗が滲み出るのを感じた。
「レ、レイネさん……? これはどういうおつもりで……」
「……バンケットの街でしっかり知ったから。……アンタがグリーンピースを嫌ってるってこと」
「うぐっ……!」
俺は呻き声を上げた。何を隠そう、俺はグリーンピースが大の苦手なのである。他の食べ物はほとんど好き嫌いはしないのだが、どうも小さい頃からグリーンピースだけは苦手だった。あの食感と味だけはどうも耐えられないのである。
俺が狼狽えていると、レイネは更に言ってくる。
「あら? 私にトマト山盛りの皿をよこしたのは誰だったかしら? まさか食べれないとでも言うのかしら……?」
「ま、まさか……! よ、余裕に決まってるだろ!」
強がりを言う俺。
俺達は向かい合わせの席に座ると、俺はグリーンピースを、レイネはトマトを口へと含んだ。モグモグと咀嚼し、一言。
「「やっぱ無理!」」
俺とレイネの声が完璧に重なった。
その後俺達は、グリーンピースとトマトを交換して朝食を食べることにするのだった……。
朝食を食べ始めて数分、俺達が座るテーブルに、1人の女性が歩み寄ってきた。
「2人ともおはよう! ……昨晩はお楽しみでしたね?」
「「誰がコイツと!」」
俺とレイネの声が重なる。
「ふふっ……やっぱり息ピッタリ。……さて、当ホテルの食事は如何ですか?」
「全く……。……美味しいですよ、イズナさん。あ、おはようございます」
俺がそう言うと、イズナさんの顔が綻んだ。
「……それはよかったです! ……レイネちゃんは?」
「……ま、まあ、味だけは確かね」
「ふふっ……光栄ですっ! ……っと、いけない。本題を忘れる所だった。あなたたちは旅をしてるのよね? その件で提案なんだけど…………」
ザワザワザワ……
イズナさんが何かを言いかけた所で、1階にあるエントランスの辺りが喧騒に包まれた。
ここのレストランは1階から階段で繋がっているので、1階が見える場所まで行きエントランスを覗きこむことにした。
そこには屈強そうな男達が集団で受付へと詰め寄っていた。
「この者達がここに来なかったか?」
その中のリーダーとおぼしき、帽子を被った男が、2枚の写真を見せながら受付嬢に尋ねていた。と、その男の姿を目に入れたレイネが目を大きく見開いた。
「……! あの帽子の紋様……守衛兵団!?」
「守衛兵団……? お前、あいつらのこと知ってるのか?」
「……前も話したでしょ? 王都を中心として、ありとあらゆる街の秩序を護る集団……それがあいつら、王都直属守衛兵団よ。この街にも支部があったなんて……!」
「あー……バンケットで事後処理に来たっていう……俺は見にいってねーけどな。……良い奴等なんじゃ無いのか?」
「……表向きはね。でもあいつらは……あいつらがしっかりしてれば……!」
(……レイネ?)
拳を握り締めるレイネ。そんなレイネに声をかけるべきか否か迷っていたその時、イズナさんが俺達の肩を叩いてきた。
「ねえ2人とも……あの写真……!」
「ん……? ……って、え!?」
言われ、男が持っている写真をよく見ると、そこには俺とレイネがそれぞれ写っていた。
「私達の……写真? アンタがジャージ姿ってことは……バンケットの街で撮られたもの……?」
「……とにかく、話を聞いてみましょう」
イズナさんにそう言われ、俺達は男と受付嬢の会話に聞き耳を立てることにした。
「……聞こえなかったか? この者達が来なかったか? と聞いたんだ」
「あ、あの……お客様……困ります……」
「口を慎め。我々は王都直属守衛兵団ソリュータル支部の人間だぞ……? もう一度聞こう……この者達がここに来なかったか? ……反逆者のこの2人が」
「「……!?」」
男の言葉に俺とレイネは驚き、顔を見合わせた。
「おいレイネ! 反逆者ってどういうことだよ!?」
「し、知らないわよ! アンタがなんかやらかしたんじゃないの!?」
「んなわけあるか! ってか俺達はむしろバンケットの街を……!」
「2人とも、静かに!」
イズナさんに言われ、俺達は堪えながらも会話の続きを聞くことにした。
「反逆者とは……どういう……」
「ふん……手配書をこの後出すのだがな。……コイツらは、祝宴の街バンケットを滅茶苦茶にしたあげく、今も逃走を続けている犯罪者……そしてそこの衛兵を痛め付けた反逆者だ!」
「え!?」
受付嬢の驚きの声。周囲の客の間にもざわめきが広がっていく。
「おい聞いたか……? 街壊して人傷付けて……とんだ悪じゃねーか……」
「バンケットの街っていえばあの観光名所だろ……? すげー被害額だよな……」
「そういえば俺、昨晩そんな顔のやつ見かけた気がするぞ!」
そんな客の声は当然、男の耳に入る。
「ほう……? やっぱりここでしたか。……出てきなさい! 聞こえているんじゃありませんか!?」
男の声がホテルの1階、2階に響き渡る。周りで食事をしている客の目は、当然俺達に注がれることとなった。
「なんだよ犯罪者・反逆者って! なんであの出来事が俺達の悪事みたいになってんだ!」
「……あいつら、とうとうここまで堕ちたのね……! いいわ。私が全員相手して……!」
「待てレイネ! いくらなんでもあの人数は……! それに……全員レベルもそれなりだ!」
先程、[看破]のスキルを使って集団のレベルをみたのだが、守衛兵団を名乗るだけあり、全員のレベルが50近かった。中でもリーダー格らしい男のレベルは30と、それなりの強さである。俺が1人だけなら倒せるかも知れないが、人の目も多いここではそれも難しいのである。
「じゃあどうしろって……!」
「ちょっと2人とも……!」
レイネさんの静止が入る。俺達を見るその目には、かすかな警戒の色が浮かべられていた。
押し黙る俺達。レイネさんの口から、重く言葉が発せられた。
「今の話……本当なの……?」
明るいレイネさんらしからぬ声。俺はそんな彼女の瞳を真剣な眼差しで見詰め、首を横に振った。
「……いいえ、違います。信じて貰えないかもしれませんが、俺達はバンケットの街を……悪へと化した教会から救ったんです……!」
レイネは押し黙っている。イズナさんは俺の瞳を見詰め返すと……ホッと息を吐き、すぐに笑顔に戻った。
「ふふ……よかった。一瞬疑ってごめんなさい。やっぱり貴方達は違うのね。……良い目をしてるもん」
「良い目……ですか……?」
「ええ。これでも私、商人なのよ? いろんな人を見てきたから、その人がどんな人かぐらい目で分かるつもり」
「ははは……」
かわいた笑みとともに安堵する俺。しかし、イズナさんには分かって貰ったが他の客達はそうも行かないらしい。
「衛兵さん達、ここです!」
「ここに犯罪者が……反逆者がいます!」
客達が大きく手を振りながら叫ぶ。するとすぐに衛兵達が2階へと駆け上がってきた。
「やっ……べ……!」
「くっ……!」
焦る俺とレイネ。その間にも衛兵達は次々に階段を駆け上がってくる。
「……2人とも、こっちよ!」
イズナさんが手招きしてくる。俺達は戸惑いながらもその後に続いて駆け出した。
「……! いたぞあそこだ! 協力者とおぼしき女もいる! 逃がすなぁ!」
リーダー格の男の命令で、数人の衛兵達が突っ込んでくる。迎え撃とうとしたその時、俺達の頭上に傘が掲げられたかと思うと、衛兵達の頭上でスプリンクラーが作動し、大量の水が降ってきた。
「くっ……何の真似だぁ!」
「さあ? 何の真似でしょう……?」
イズナさんは悪戯っぽく微笑むと、従業員用と見られる通路へと俺達を押し込んだ。自分もそこに駆け込んだかと思うと、その手に持った何かを濡れた床へと放り投げた。
「……ん? なんだ……? ……っ!? うがぁぁぁ!!」
男達の悲鳴。次々と男達が床に倒れていくのを確認した所で、イズナさんは満足そうに笑みを浮かべながら扉と鍵を閉めた。
「さっきの……何だったんですか……?」
通路を走りながら、俺はイズナさんに問いかけた。
「え? 何って……改造スタンガンだよ? 普通のスタンガンのざっと30倍の威力はあるかな。あ、水を伝わせたからもっとかも。いやー商売の暇な時に作ってみたんだけど、上手くいってよかったよ!」
あっけらかんと答えられ、俺はかわいた笑みを浮かべるしか無かった。
「……でも、いいの?」
レイネがぽつりと呟いた。
「……ん?」
「……あなたの顔は見られた。衛兵に攻撃したとなれば、反逆者として扱われることになるのよ? それに……私達にも協力して……」
「……!」
確かにその通りである。今、原因は分からないが、俺とレイネは反逆者として追われる立場になっている。そんな俺達に協力し衛兵を攻撃したとなれば、必然的にイズナさんも追われる立場になるのである。
「貴女は……貴女はなぜ私達に協力してくれるの……?」
レイネが立ち止まり、静かな声音で問う。俺も立ち止まり、イズナさんの返事を固唾を飲んで待つ。
「なんで協力してくれるの……か。んー、簡単には言い表せないんだけど、一言で言えばアナタ達の雰囲気……かな。……似てるんだよね、アイツらに」
「それって……どういう……」
イズナさんの意味深な言葉について聞こうとした、その時だった。
「通路に逃げたぞ! 捜せ!」
「1階に回り込め!」
衛兵達のものと思われる声が、地上から響いてきた。
「ちっ……あいつら……! カズヤ、迎え撃つ準備を……」
「待ってレイネちゃん! ……このまま真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がった所に非常口があるの。……衛兵達は多分従業員玄関で待ち伏せている。非常口から階段で降りた方が確実よ」
「分かりました! イズナさんも早く……!」
再び走り出さんとする俺とレイネ。しかしイズナさんは動こうとはしなかった。
「私は……ここに残るわ」
「どうして……!?」
「アナタ達が逃げ延びる可能性を増やすためには、その方がいい。……囮がいた方がいいのよ」
「だからってそんな……!」
「それに私、アナタ達のペースに着いていくのしんどいしね……。大丈夫、ちゃんと私も逃げるから」
「でも……!」
「待ってカズヤ。……嘘じゃ無いでしょうね? 私、自らを簡単に犠牲にする人が大嫌いなの」
(レイネ……?)
「……ええ、もちろん。商人の名に懸けて約束するわ。……今度会えたら何かサービスしてあげる」
……暫しの沈黙。やがてレイネが前に向き直り言った。
「……なら、いいわ。カズヤ、行くわよ」
「レイネ……。でも……」
「男ならうだうだ言わないの! 私も貴方達を信じてるから……だから貴方も……カズヤ君も、私を信じて!」
「イズナさん……。…………分かりました。信じます……!」
俺がそう言うと、イズナさんは笑顔になった。
「よっし! それじゃあ行きなさい! 落ち着いたら連絡、しなさいよ?」
「……はい!」
元気に返事をした俺は、レイネと共に非常口を目指して走り出したのだった……。
「よし……出口だ……!」
非常口から外に出た俺達。イズナさんの言う通り、近くに衛兵達の姿は無いようだった。
「これから、どうする……?」
「……とりあえず、この街を出ましょう。ここにいたら危ないわ」
「そうだな……。……! あれは!」
「ちょっ……! どこ行くのよ……!」
レイネの制止も無視して駆け出した和也。その先にいたのは、転んで怪我をしていた少女だった。しかもその回りを、ガラの悪そうな衛兵達が囲んでいる。情況から察するに、少女が衛兵達にぶつかりでもしたのだろう。
「……おい、止めろ!」
和也が叫び、そこへ突っ込んでいく。
「あの……バカ……!」
せっかくイズナが自らを囮にして逃がしてくれたのに、見つかってしまっては意味が無いではないか。
「なんだぁ……お前?。……ん? その顔……どこかで……。! お前、あの反逆者だな!」
「だったらどうだって言うんだ……?」
「へっ……決まってんだろうが。ぶっ潰して捕縛する!」
やはりバレてしまった。こうなってしまっては戦うしかない。レイネは杖を握り、魔法を放とうと構えた。……しかし。
「ぐは……っ!」「うがぁ……!」「ぐっ……!」
衛兵の男達が、一瞬でその場に倒された。和也の回し蹴りによるものであった。
(全く……手加減無いんだから)
レイネは呆れながらも、少女を抱き起こそうとしている和也に近付こうとした。
……その瞬間、少女の身体を淡い水色の光が包んだ。
抱き起こそうとした少女の身体が淡く発光したかと思うと、その身体にあった傷がみるみるうちに治り始めた。
その現象に驚きながら、俺は辺りを見回した。すると、1人の小柄な少女が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(あれは……)
「ティカ! お前が治してくれたのか?」
ティカは俺達が道案内をして貰った少女だ。あの時は気にならなかったが、確か彼女は[治癒士]の職業だったはずだ。
RPGで治癒士と言えば、言うまでもなくサポート・回復職として重要な役割を持っている。単体での戦闘力は差ほど無いが、パーティに1人いるだけで戦況が変わってくる程の力を持っている。
そんな治癒士のティカがここに来てくれたのは幸いである。俺は倒れている少女をティカに任せ、この場を去ろうと考えた。……その時。
「……《癒しの光》」
ティカの持つ杖から淡い水色の光が放たれた。その光は先程少女を治した時と同じように……倒れている衛兵達を包み込み、その傷を一瞬で治した。
「「……!」」
俺とレイネは同時に目を見開いた。ティカが衛兵達を治したのもそうだが、何より驚くべきはその速度と魔法力だった。擦り傷だった少女とは違い、衛兵達はレベル1の俺の力によって深手を負っていたはずだった。ティカはその衛兵達を……5人を一斉で完治させたのである。ここがいくら魔法の使える世界だとしても、尋常ならざる力である。
「ティカ……お前……」
呟き、問いかける俺。
ティカは閉ざしていた口を開くと、その言葉を発した。
「カズヤさん、レイネさん……いえ、反逆者……折原和也、レイネ・フローリア。直ちに……投降して下さい」
どこか悲しそうな、それでいて怒りを含んだ声。そんなティカの言葉は、俺達との決別を意味していた。
「……ティカ、お前は…………」
言葉にならない呟き。ポツポツと雨が降り始めた。
倒れていた衛兵達は起き上がると、ティカに向けて敬礼を送った。
「お待ちしておりました、少尉」
「流石の腕前でございますね」
ガラの悪そうな衛兵達が敬語で話しかけている。端から見れば異様な光景とも言えよう。
「……ここで何が?」
ティカが男達に問いかける。
「はっ! この男がそこの少女に暴行を加えていたところを助け出そうとした次第であります」
「そこをあの女に攻撃され、負傷してしまいました……面目無い」
「なっ……!?」「ちょっ……!?」
衛兵達は、完全な出任せを述べてきた。
「……そうですか」
「おいティカ! そんな奴等の言うことを信じるのか!? 俺達は無実だ、やってねぇ! 逆にそいつらが……!」
「……っ! お黙りなさい!」
ティカがピシャリと怒鳴りつけてきた。その様子に、俺達に道案内をしてくれていた時の姿は微塵も感じられなかった。
「いい人達だと思ったのに……! 助けてくれて……優しい人達だって……! それなのに……それなのに……!」
「ティカ……! 俺達は……!」
必死に呼び掛ける俺。しかしその声は、ティカに届かない。
「……もうじき本隊も到着します。大人しく、捕縛されて下さい。……命令に従わないと言うなれば、手荒い手段に出させて貰います。守衛兵団・対反逆者組織部隊衛生少尉、《蒼天の治癒士》……ティカ・アスレインの名の下に」
「蒼天の……治癒士……」
勢いを強め降り注ぐ雨の下、俺は非情な現実を打ち付けられたのだった……。