第四節 さよなら 愛し君
遙かなるかな空と海 外伝『海と空と船に』
第四節 さよなら 愛し君
「…で?」
船長室に入り、席に着いた途端の第一声がこれですよ。
「で、とは」
わかっててすっとぼけてみる。
あ、今リツカちゃんの眉が跳ねた。おお怖ぇ。
「あんたはどこまで、何を知ってんの」
「あーんー、何とも答えづらい感じに曖昧ですなぁ」
「…あの船がキュイーズとアンシュージのってのは分かったわ。で、あの武器は何なの」
ここで"バレットM82"ですなんて言っても通じねぇし、聴かれてんのそこじゃねぇよな。
うっかり口滑らせちまったからなぁ。どーすっかなー。
「…実はあれも新兵器のひとつでね?今の所コストが掛かり過ぎるってんで量産とかは出来ないんだけど…」
話してる間もリツカちゃんの鋭い視線がたまりません。
「まあ、実験もしたくて公に出来ないような場所で使ってみよう、とかじゃないかな」
我ながらナイス作り話。気になる船長殿の反応は…?!
「……ふぅん」
うわーわかりにくーい!まあ、ていうか判断しかねてるといった所か。
「量産はされてないって言ったわよね」
「あ、ああうん。全部でどんくらいかは知らないけど、あいつらが持ってるのはせいぜい2.3挺てとこじゃないか」
「他にそういうのは無いの」
「可能性だけの話をすると……弾を連続で発射出来るようにしたものとか、大砲を持ち運び出来るようにしたりとか」
マシンガンとかバズーカね。
「まあ、あいつらがそれを持ってるかどうかまではさすがに」
「いつの間にそんなものを作ってたのやら…面倒くさいわね」
大丈夫!リツカちゃんが生きてる間には、この大陸じゃ登場しないだろうから!
「ああ…で、あいつら自体が何なのかは分かんないわけ?」
「あいつらっていうか、誰の差金かは何となく。俺の商売敵」
「それが危険手当の内容ね……はぁ」
心底面倒そうなため息を吐く。
「いや、本当に来るかどうかはわかんなかったからさ」
「あー、お金は貰っちゃったからね。仕事はちゃんとするわよ」
「頼もしい限りで」
何であれ商売は信用が第一だからね。
「あとは…」
「うわっ!」
相手の速さについていけずに、リックさんがバランスを崩して尻もちをつく。
「にゃはは、あたしの勝ちなんさー」
そこへ手にした剣を突き付けて、アクサラさんの勝ち。
「ぐぅ…ま、参った」
プラニエさんの側付きみたいな人だし、想う所あったのだろう。場が収まってすぐに勝負を挑んだリックさん。
シャノンさんはプラニエさんとお話してたから、もう一人の方へ行った。んだけど。
「今まで見たこともないような体捌き、お見事…」
結局まともに打ち合うこともなく、反応しきれずに足がもつれちゃったにゃね。
「そんな畏まらなくていいんさー。あたし別に偉くないしねー。騎士とかでもないし。敬語とかも疲れるっしょ。別に普通でいいんさー」
「む…そ、そうか…?」
そう言われて、差し出された手を掴んで立ち上がる。
「いや、それにしてもあんな動き見たこともない。どこで覚えたんだ」
「あたしのは生きてくのに必要だったから覚えただけなんさ。だから、何流のーとかないんさ」
「我流であれだけの動きをするとは…確かに型破りではあるが、見事だった」
さっきまでと打って変わって、がっしり握手なんかしてる。男は単純でいいにゃね。
んで、あっちもあっちで変な空間出来てるにゃね…
「なるほど、山で育たれたんですね…道理で、それだけの大剣を持っても重心が崩れないわけです」
「剣自身と呼吸を合わせてあげるんですよ。剣が動きやすいように振ってあげるんです」
「そういう風に考えたことは無かったですね…さすがです」
ついさっき会ったばっかりなのに、もう何か尊敬しまくりオーラが出てるにゃね。目も輝いてるし。
「おら野郎ども!指くわえて眺めてんじゃねぇや!持ち場に戻れぇ!!」
そんなベリスカージさんの怒声に、慌てて散らばる。皆元気にゃね…
「元気ないにゃん?」
そんな事を考えつつ船首楼の上に腰掛けていたら、突然頭の上からかぶさるように覗きこまれた。
「にゃっ!びっくりしたにゃ…えぇと、アクサラさん何か用かにゃ」
まさかふぇすが気配を感じないとは…この子、思った以上に出来るにゃね…
「んーん。他の人達と感じが違うから、好奇心ー。あと耳」
いっそ清々しいにゃね。
「んん…ふぇすはヴィリヤンティエの生まれなんにゃ。いわゆる亜人ってやつにゃね」
「この世界に来たばっかりだから、びりやんでれ?は知らないけど、なるほどそのまんま猫にゃんかー」
「思いっきり名前違うにゃ…」
そして自然な動作で耳を撫でてくる。いや、別に痛くもないしいいにゃけどね。
「あたしが元々居た所…ブリアティルトってゆーんだけどね?そこには、ふぇすにゃんみたいなのもいっぱい居たんさー」
「! そ、そうにゃか。なら、そっちだと珍しくも無いんにゃね」
「んだねー」
そうこうしてたら、リツカさんと馬鹿が戻ってきた。話ついたみたいにゃね。
「お嬢、針路はどうしやす?」
すかさず寄ってくるベリスカージさん。
「このまま」
それに答えつつ、シャノンさんをちら見するリツカさん。
「へい」
この短いやり取りだけで色々通じてるにゃね。お互い信用してるというか。
「あー…シャノン、だっけ」
リツカちゃんが仲良く話してる2人の所に入っていく。いいなぁ、俺も混ざりてぇなぁ…
「はい」
腰掛けていた樽から降りて、姿勢を正す。何かもうすげぇなぁ。真面目っていうか、もう自然な動作になってる。
「あんた、さっきの銃とかそれ以上の出てきたとして…何とかできるの」
正直さっき弾跳ね飛ばしたのはないわーって感じだったけど、何とか出来るんなら心強いどころじゃねぇよな。
「先ほどの対物ライフル程度でしたら何とか…ですが、それ以上となると、距離がある場合はさすがにつらいですね」
「…さっきの、知ってるんだ」
「ええ。元居た世界で使ってる方も居ましたし。他にも様々な兵器を見てきましたので、それなりの知識はあるかと」
「……この子、あんたよりよっぽど使えそうね」
それはもう、物凄い目でこっち見られちゃいましたよ。こう、ゴミとか虫とか見る感じ?たまらねぇ…たまらねぇよぉ…
「あー、あはは、そーみたいっすねー」
「……はぁ」
何だかややこしくなってきたなぁ。
これ綺麗にまとまるんかね。