第三節 抱き締めることもなく
遙かなるかな空と海 外伝『海と空と船に』
第三節 抱き締めることもなく
そこからの戦闘は一方的なものになった。
先へは行かせないと行った少女は、宣言通り乗り移ってくる相手を端からなぎ倒していた。
それでも漏れた連中を、金髪の少女が縦横無尽に駆け回り遊撃していた。
「す、すごい…」
おかげで周りから敵が消えたプラニエは、呆然とそれに見入ることが出来た。
年の頃は自分より2つ3つ上だろうか。
動き、眼光、雰囲気。どれを取っても、長く戦場に身を置いたものだとわかる。
というよりも、年齢の割に異常な程に戦場慣れしていた。
「あの人達は一体…」
その動きもそうだが、それとは別に何故か目が離せなかった。
「ところで船長」
「何」
「あれ放っといていいの」
最前線で敵をなぎ倒し続けている少女たちを指さす。いやーすげぇな。
「…とりあえずこっちに味方してくれるみたいだし、いいんじゃない」
適当、というより、リツカちゃんも判断に困ってるんだろーな。
「あ」
「今度は何」
ふと、相手のフリゲート艦の方を見ると、やべーもの見えた。
「あれ、アンチマテリアルライフルじゃねーか」
ちょっと待て、時代考証無視しすぎじゃね?
なんであんな物があるんだ?
「アンチ…何?」
リツカちゃんが訝しむような目で見てくる。
まーこの世界で銃ったら、マスケットとかだもんな。
「対物ライフル…えーと、ちょっとした鉄板なんかをぶち抜くくらいの威力持った長銃だよ」
ざっくりと。
「妙に複雑な構造してそうね…あんなの初めて見たわ」
まあそうだろうな。
何かなー。すげー良くない予感するなー。
「って言ってる場合じゃねぇや。あの白い子狙われてんぞってああ!」
そうこうしている間に、バレットM82が火を吹き、マズルブレーキから煙が噴出された。
次の瞬間――
「…ふっ!」
あろうことか、白髮の少女は飛来した銃弾を手にした大剣で弾き飛ばした。
「…ないわー」
見ていた全員の目が、文字通り点になった。
いや金髪の少女だけは、にゃははと笑いながら剣を振るい続けていた。
「あー…ふぇす」
「んむ。ちょっと肩貸すにゃ」
言われるままに少し屈む。二人の共同作業!ふぇすじゃなきゃもっといいのに!!
「スプリングッ!!!」
くっそ、必要以上に思いっきり踏んづけていきやがって!
どうせなら女王様ルックでやって貰いたいものだ!!!
「たいがぁぁぁ…」
そんなこんなで、俺様を踏み台にして高く、高く舞い上がったふぇす。
空中で右腕を引き込み、謎の猫オーラを発しつつ、フリゲートの甲板上でバレットM82を構える野郎に真っ直ぐ飛んでいった。
「にゃぱかぁぁぁぁぁぁ!!!」
そのままバレットM82を粉々に粉砕!そして着地際に構えてた野郎の脳天にギロチンドーン!!
死んだなアレは。
「…びっくり人間ショーね」
リツカちゃんが柵にもたれ掛かりながら頭を抑えていた。考えすぎるとハゲるよー?
そうこうしている内に、フリゲートが離れていった。
形勢不利と見て出直すつもりかな。
「いいの?」
「どのみち機動力で負けてるから追えないわよ」
海賊達の罵声に送られつつ離れていくフリゲートを睨みつけ、甲板の方へ降りていった。
ちなみにふぇすは、離脱前にこちらへ飛び移っていた。さすが猫。
「口ほどにも無いにゃね」
戦闘が終わり、改めて闖入者2人の元へ集まる面々。
また美少女が増えましたよ!テンションアゲアゲですよ!!!
「で、あんた達は?」
「この船の船長ですね。非常時なのでご挨拶が遅れました」
そう言って丁寧に頭を下げる白髪の少女。いいなあ…何かいいなあ。
「私は、シャノン=シャリオール=シアルフィ。こちらが、アクサラ=レータ」
「よろしくなんさー☆」
「こことは別の世界から参りました」
「…は?」
さらっと言ったねキミ。
「別の世界って何。違う大陸ってこと?」
「いえ、言葉通り別の世界です。説明しろと言われると難しいですが…」
口元に指を添え、考えながら喋っている。お互い勝手がわからないというか、そんな感じ。
「あー…まあ、聴いてもわからなさそうだから、それはいいわ」
面倒になったのか、手をひらひらさせる。
「それで、目的は?なんでここに来たの」
さすがの責任感というか、普段あんな調子だけど、船や仲間の事になるとすげー真面目なのよね彼女。いいわあ。
「最終的な目的は、またこことは別の世界に戻ることですが…ここに出た理由は、ごめんなさい、わかりません」
本当に申し訳無さそうに頭を下げる。なんていうか、真面目ちゃんだなぁ。委員長タイプ。メガネとかかけてくれねぇかな…
「おさげしてメガネ掛けたら似合いそうなんさー」
「お嬢さん…わかってるね…」
アクサラと紹介された少女とバンプアップ。ふぇすのツッコミより先に来るとは、やるね…!
「あー…それじゃあ、これからどうすんの」
「そうですね…」
ちらり、と横目でプラニエちゃんを見やるシャノンちゃん。
突然見られて少し焦っている。可愛い。ああ可愛い!
「少し落ち着くにゃ」
「モエキュンッ!!!」
バカお前萌えキュンな女の子見るのは男の仕事なんだぞ!だからサミングはやめて!!!
「…この船に出たのも何かの縁かと思います。なので、もしご迷惑でなければしばらく同行させて頂ければと。先刻お見せした通り、多少は腕に覚えがありますので、荒事の際にもお使い頂ければ」
何ていうか、すごく丁寧というか。プラニエちゃんみたいな背伸びしてる感じが全然ないというか。
それこそ熟練の騎士だとか、大国の執政官だとか、そんな貫禄みたいなのを感じるな。
悩んでいるのか、無言のままじっとシャノンちゃんたちを見つめるリツカちゃん。
まあ、すげー腕前だし物腰も丁寧だし可愛いし、戦力としては申し分ないけど、正体不明なのは変わらんしな。
「あの…」
そこへ、プラニエちゃんがおずおずと声をかける。
「なんでしょう」
打って変わってすごく柔らかい雰囲気と声で応じるシャノンちゃん。あ、今キュンってした。キュンって。
「あ、えぇと…先ほどの戦闘での腕前に、その剣と鎧、そして振る舞い…貴女も、騎士なのですか?」
その雰囲気に飲まれたのか、微妙に素が出てるプラニエちゃん。かわええのう。さっきからこれしか言ってねぇや。
「ええ。我が祖国は、ここより遥か遠きユグドラル大陸。その中央に栄えるグランベル王国の第一王女にして、騎士団の筆頭を仰せつかっております」
どれもこれも聴いたことない名前ばかりで、全員の頭に疑問符が浮かんでいる。
「! これは、王族の方とは存じませんで失礼を…」
"第一王女”と聴いた途端、片膝をつくプラニエちゃん。それに倣う騎士の方々。真面目だねぇほんと。
「頭を上げてください。そんな肩書、こちらでは何の意味もありません」
手を掴み、優しく立ち上がらせる。
そして、少し照れくさそうにしながら微笑んだ。
「えぇと……気軽にシャノンって呼んでくれたら…嬉しいな」
「え、あ…は……はい」
落ちたーーーー!!!!!
これは落ちましたわー。もう半分くらい恋する乙女の顔になってますわー。おじさんたまりませんわー。
ていうかシャノンさんそのギャップやばいよ!ずるいよ!恐ろしい子…!!!
「いいから落ち着くにゃ」
「サードインパクトッ!!!」
まさかの1話内で3回目!!!
ご飯まだ食べてないからボディはきつい!!
「…はあ。もういいわ。好きにしなさい」
その姿を見て、深い溜息をつくリツカちゃん。何かもうひどく疲れましたー的な投げやり感いいね。
「ああ、あんたはちょっと来て。話があるから」
「あ、俺?はいはい」
なんだろ。愛の告白かな。
とりあえず行数もすげーから、今回はここまでな!
次回は俺とリツカちゃんの…まあ、話の内容はわかってるますけどね?
そんなこんなで、ほんわかオーラの少女たちを横目に船長室へ連行されるボクでした。