加護の目神社のもう1つの噂
辺りは薄暗くなっていた。
家には寄らず、学校の手提げかばんを持ったまま、拓也と由美は噂の加護の目神社の石段に到着した。
さすが町外れだけあって人影一つない。
「さっ、のぼろ」
由美は着くやいなや、拓也の手を引っ張った。
「そんなに引っ張んなって」
石段は見た感じ、50段近くありそうだ。
「数えながらだよ、せーの1・2・3・4・5・・・」
二人は噂の手順通り、手を繋いで石段を登り始めた。
数を数えるのを由美に任せて、ただ足元を見ながら登っていた拓也は、加護の目神社の、由美が聞いた噂とは違う噂をふと、思い出していた。
昔、縁結びのためにこの神社にやって来たカップルが、ひょんなことで喧嘩になった。頭に血がのぼった男が、女を落ちていた石で殴り殺してしまった。男は逃げようとあわてて石段を駆け降りた。しかし、いくら降りても下にたどり着けなかった。
今も男は石段を降り続けているという。
「・・・39・40・41」
拓也がそんな噂を思い出しているうちに、石段は41段で終わった。
気付けばもう、すっかり夜になっていた。
闇に包まれた境内にぼんやりと古びた社が見えた。
ゾクッ
拓也は突然、どこからか何者かの視線を感じた。それは殺意さえ感じるほど不気味なものだった。
由美の手を離して、バッと、後ろを振り向いた。しかしそこには、今登ってきたばかりの石段しかない。
「どうしたの? 」
由美が首を傾げる。
「い、いや、何でもない」
気のせいだ、気のせいに決まっている。
拓也の心臓の鼓動はどんどん大きくなる。手には汗をぐっしょりかいていた。
「拓也、大丈夫? 顔色、悪いよ」
由美は何も視線を感じなかったのだろうか。
「大丈夫だよ、早くお祈りしようぜ」
拓也の心臓はまだ暴れていた。