わたし今日、死にます! ホントですよ!?
わたし遠藤遥香は今日、死にます!!
今、この屋上からこの日の昼休みに投身自殺よ!
…理由はいじめや恋愛の縺れのような悩みじゃないけど…
わたしとっては充分自殺するに足るとても大きな悩みなのよ…
そう…
わたしはもう……人を信じる事が出来ない!
社会は、嘘や欺瞞に満ちすぎているのよ!
国は小きな問題は揉み潰し、大きな過ちは隠蔽し国民の目と耳に入らないように事実を深い闇に葬り去る… おかしい…絶対おかしいわよ こんなの!
ううん…おかしいの国の素たる人間よ!弱い老人を狙った悪質な詐欺!本当はただの人間の癖に、万人を救えると嘯き金を騙しとるエセ霊能力者!
だけど、そういった悪人を取り締まるべき国はまったく機能していないし、国を監視して隠された事実に光を当て、国民と共にあるべきマスメディアは、事もあろうに金のために情報操作、偏向報道で国民を平気で欺く!
本物のジャーナリストや、真のジャーナリズムとやらはとっくに死んだわ!
でも、こんなに社会が荒れたのには大きな原因があると思うの…!
そう…それは学校よ!
教育は人が人を育てるという立派な行いよ!
若人がこの先長い人生を生きる際に、必要となる知識を先人から教わり…社会に順応していく為の儀式と言ってもいいわ!
そして、その舞台となる学校は正に教育の聖地よ!
でも、一度学校というパンドラの箱を開けるとね…そこは、聖地というには余りにグロテスクな事実に満ちているわ!
いじめ、援助交際、教師によるセクハラ
そして、最も信じたくない事実は…そういった問題の非を全く認めようとしない学校側の体制よ!
そんなに減俸が怖い!?キャリアに傷がつくのが怖いの!?責任追求が恐ろしくて仕方がない!?愛を説き、正しきを教えるべき教師がそんな事で恥ずかしいとは思わないの!?
「何とか言いなさいよ教育委員会!!」
…いけない いけないわたしったら、ヒートアップしすぎて思考が口から出てしまったわ ここが屋上でホントによかったわ…
コホン…とにかくそんな教師達に育てられた生徒達が大人になって卑怯で卑劣な人間になってしまうのは、この荒み(すさ)きった社会を見れば一目瞭然よ!
だから、わたしは純粋で正しい心を持ったわたしの様な子供達を悪魔に仕立てあげてしまう学校が恨めしくて仕方がない!
そしてなにより、学校が人を悪魔にするという事実を知ってからわたしは、親も教師も友達も誰も心の奥底から信じることが出来なくなってしまったのよ!
そうよ、…この自殺は学校や社会に対してのわたしなりの復讐なのよ!!
さて…心の整理もついたし、そろそろ逝こうかしらね…
「ヨイショっと…フェンスって意外と簡単に乗り越えられるのね…知らなかったわ」
遺書も書いたし…もう思い残す事もないわね…
ヒュオオ~ うう~屋上って障害物がないから風が直に当たってホントに寒いわね 風邪引いたらどうしよう…って
あはは…風邪ってわたしったらホントにバカね…
……
「もう一度だけ、だれかを信じてみたかったな…」
ガチャリ
「あー 気持ちいい…やっぱり屋上は最高だな♪…って…アンタ何してんだ?」
ちょっと部外者が勝手にわたしの舞台入ってこないでよ!もう!一人で感傷に浸ったまま死にたかったのに!
「うるさいわね!あんたなんかに関係ないでしょ!!ほっといてよ!」
ふふふ…説得しても無駄よ!わたしの気持ちは揺るがない優しい言葉なんか全くの無意味なんだから!
「ああ…確かに関係ないわ 悪かったな けどあんたそんなとこにいるとアブねぇぞ?」
「は?」
いやいやいや、この状況どうみても自殺でしょ!?なに?鈍感ってレベルじゃないわよ!
いやいやいや、落ち着きなさいわたし!きっとコイツは気が動転しているのよ!動転しすぎて逆に冷静になっちゃうタイプなんだわ!順を追って説明すれば自分がいかにヤバイ状況に立っているか理解してあわてふためくに違いないわ!
「実はね…わたしもう誰も信じることが出来ないの ううん…信じたくないの!だって…の世界は嘘と欺瞞に満ちてい「ハイ、ストップ!…なぁその話長いの?」
「うん…まぁ…」
「あー じゃあパスで」
ちょっとコイツなんなのよ!?バカなんじゃないの!?わたし今から自殺するんだよ!?最期の言葉になるんだよ!?それをパスってどうゆう事よ!?
まさかホントに気付いてないの!?自殺の雰囲気出てるでしょうが!?もうこうなったらこのバカに直球で事実を伝えてるまでよ!! びっくりし過ぎて腰抜かすんじゃないわよ!?
「あのね…分かってないみたいだけど…わたし、自殺するの!」
「……」
ふふふ…動揺して声もでない?アンタに出来ることなど一つもないわ!そこで自殺を止められない自分の無力さに打ちひしがれながらわたしの死をもって絶望するがいいわ!!
「…あー 静かにな これからここで昼寝するから」
ブチッ
「ちょっとアンタふざけんじゃないわよ!?人が自殺するっていってんのよ!?少しは驚いたり、止めたりしなさいよ!」
「なんだようるせぇな…自殺したきゃ勝手にやれよ…それともなんだ止めてほしいのか?」
ち、ちがうわよ…!そうじゃない…そうじゃないけど…!
「あああもう!アンタじゃ話にならないわ!…そうだ!わたしの担任の島田先生を連れて来なさい!話はそれからよ!」
「それからよって…俺は昼寝したいんだよ 担任ならアンタが連れてくりゃいいじゃんか」
「わたしが行ったら意味ないでしょうが!!つべこべ言わず連れて来なさい!2-4の遠藤が自殺しようとしていますって!」
「いやだね!なんで俺がそんなことを…」
「じゃあアンタが寝れないようにわたしはこの昼休みの間ずっと騒ぎ続けてあげるわ!どう?うれしい!?」
「ち、悪質だな…わかったよ 連れて来ればいいんだな?」
「そうよ!なるべく早くね!」
「はいはい…」
ガチャン…
全くあんな変な奴がまさかこの学校に居たとはね…
一人でひっそり死にたかったのに…アイツのせいでメチャクチャよ!
でも、これでいよいよ大事になっちゃうわね…救急車とかパトカーとかくるのかな?加えてテレビも来て、まさかの全国中継になったりして…
まぁ…それはそれでいいかな…わたしの死が有名になれば、わたしの悲しみを共有してくれる人が一人でも居てくれれば…それでいいかな…
キンコーンカンコーン♪
「へ?昼休み終わっちゃった…」
それからわたしは、冬の寒空の下放課後まで屋上で一人体育座りで担任とアイツを待ち続けた…
「遅い!!遅すぎる!放課後になっちゃったじゃない!?あのバカは一体なにをしているのよ!? 」
ガチャリ
「いや~悪かったな!遅くなった!」
「遅いわよ!一体何してたのよ!?」
こんな寒い思いをして!ホント辛かったんだから…!
「ほら、テスト近いじゃんか?島田先生忙しくてなかなかコンタクト取れなくてさ…」
なかなか筋の通った言い訳じゃない…少し納得してしまった…ムカつくわ…
「…それで、ちゃんと連れてきたんでしょうね?」
「あー それがさ…テスト問題作らなくちゃいけないらしくて駄目だった…」
「ちょっとふざけんじゃないわよ!?自殺しようとする生徒より、テストを取ったわけ!?信じらんない!」
「あー でも先生お前の事心配してたぞ」
「え…?」
やっぱり、なんだかんだ言って心配なんじゃない
…!でも残念ね、先生の生徒は今日ここで死ぬのよ!自分の不適切な対応を深く後悔するがいいわ!!
「前期の成績、学年でもトップクラスだったのに最近テストの点数伸びてないから今回のテストでがんばりなさい…って」
「ちょっと、それわたしの成績に対する心配じゃない!?わたしは今日死ぬのよ!?次もなにもないんだから!!」
「俺に言ったって仕方ないだろ…?」
「あ、あのわたしは一体何で呼ばれたんでしょうか…?」
「ああそうだった…先生が行けないから代わりに学級委員長連れて行けって言われたから連れて来たんだった!」
「学級委員長って…確か佐藤さんだったわよね?」
「はい!そうです佐藤美奈子です!遠藤さん…わたしの名前覚えててくれたんですね!」
「まぁ…一応クラス一緒だし…」
「なんだお前らクラスメイトなのに話ししたことないのか?」
佐藤美奈子さんと話すのは全くの初めてだ
一応クラスの学級委員長で協調性があり、みんなに慕われていて、成績も優秀…
最後の一つを除けば、わたしの正反対の人間というわけね…
「遠藤さんは…クラスでは誰とも関わりをあんまり持たないから…わたしも含めて…」
「わたしはもう誰も信じることができないのよ!だから誰とも関わりを持たないし、持ちたくないのよ!」
「また…そんな事言って…佐藤さん困らすなよ」
「うるさいわね…アンタには関係ない事でしょ!
わたしはどうせここで死ぬんだから!」
「え、遠藤さんまさか自殺するの!?」
「そうよ…見ればわかるでしょ!?自殺でもない限り屋上のフェンスなんか越えないわよ!!」
この娘もかなり鈍感ね…おしゃべりしたくて屋上に呼ばれたとでも思ってるの?
「だめだよ遠藤さん!!そんなの絶対だめたから!!」
なによ…!今までそんなに関わり持った事ないくせにこんな時だけ本気になっちゃってさ…
せいぜい自殺する人を助ける自分に酔ってるがいいわ!
「だって今日は遠藤さんの班が教室掃除の日なんだから!」
「…」
絶句だわ…意外とまともな娘かと思ったわたしがバカだったわ…
「それはいけない…遠藤、掃除はサボっちゃ駄目だ」
「同調すんな!バカァ!!」
「とにかく自殺は駄目ですよ!遠藤さん。わたしはこのあと学級委員会あるから失礼するね!」
「え、まだ話は終わってな「じゃあね!遠藤さんまた明日!」
ガチャン…
「ぐ…ぐす…えぐっ…」
「なんだあんた泣いてんのか?」
「うるさい…えぐっ…だってこんなはずじゃなかったのに…ぐすっ…みんなこんなに無関心で…」
「そんな事ないと思うぜ…」
「島田先生はあんたの成績が落ちはじめたのは、何か悩み事があるんじゃないかって先生すげぇ心配してたしよ…佐藤さんだってあんたに名前呼ばれた時、すげぇ嬉しそうな顔してたもん 興味ない相手から呼ばれたら普通あんな顔しないよ」
「じゃあなんで誰もわたしを真剣に止めてくれないのよ!?アンタも先生も佐藤さんも!!」
「なんでよ!?」
わたしはその場で膝から崩れフェンスにしがみつき泣きじゃくってしまいました。こんなに泣いたのは初めてかもしれません…
「だってあんた本当は死にたいんじゃなくて…」
「誰かに信じてもらいたいんだろ」
「え…?」
「自分は本気なんだって本気で誰も信じないって本気で自分は死ぬんだって」
「そして、あんたはこうも思ったはずだ”誰かを信じてみたい“とね自分を本気で心配して本気で信じてくれる奴の事を本気で信じてみたかったんだよあんたは」
「……」
びっくりしました。誰よりもわたしと関わりが薄くて、誰よりもわたしに無関心だったくせに…誰よりもわたしの事を理解していたのです。
それからの事はよく覚えていません。
放心常態のわたしは自殺を諦め、普通の高校生活に戻りました。ただ、一つ今までとちがうのはアイツという存在がわたしの日常の一部になったということです。
「なんだよお前、顔赤いぞ 風邪でも引いたのか?」
「なによ?わたしが心配?」
「ん~……」
「まぁな…」
「…えへへ…///」
わたしはもう一度だけ誰かを信じてみようと想います