未来への駆け足
夢と現実との狭間で揺れ動く純粋な彼ら。
彼らにとり
今か未来か。
うみがきこえる。
小さな蟹の歩く足音。
小波の音。
うみねこのおしゃべり。
だけど――。
僕はこの島が嫌い。
何にもない。
公園も
ゲームセンターも
カラオケボックスも
…みんなみんなテレビの世界でみただけだった。
僕は高校生までこの島で過ごした。
あれから10年。
早いものだ。
ザザァーン…
ザザァーン…
目を閉じてこうしているとあの頃と同じだ。
あの頃と同じ
波の音。
うみの匂い。
カラカラ…
「ただいま」
ガランと開いた縁側
せんべいの溢れた菓子器留守番の置いてきぼりぼりをくったハンガー。
また、いないや。
まぁ…わかってはいるけどさ。
カラカラカラ…
「母さん――」
僕は詰め襟の学生服のまま玄関に出ていく。
「一人?」
「…みたい」
「裏山にまた草むしりだろ」
祖父の畑が家の裏にあって暇さえあれば草むしりに行く。
――とはいえ寧ろ、祖父の場合は暇をつくっていた。
夕焼けにやけた空はみかん色。
「おぉい、じいちゃん」
「拓郎、大根持ってけ」
ドスンとしょいかごを背負わせられて僕は来なきゃ良かったな…と後悔する。
大根は二本足やら三本足の格好の悪いこと。なんて言いたくないけど。