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王妃様の副業  作者:
8/40

王妃さまと宴5 または言葉が少ないことに対する語弊(三者三様の誤解模様)


「………失礼致します。なんですか?この空気は。まるで悪いのは根性腐って浄化不可能な域にまで達してしまったある意味哀れな方々なのに巻き込んでしまったのは自分だと言い張るご令嬢にどう対応しましょうかというようではないですか」


着替えとお湯の入った盥を載せたワゴンと共に現れた真奈は部屋に入るなり無表情で淡々とつまりはいつもの真奈の口調でまるで全てを見ていたかのようなことをすらすらと言ってのけた。まぁ、途中にかなり怖い表現があったがそこは気にしない方向で。

突然の乱入者に琥珀とひなたは驚きで固まり凪は眉間の皺を解した。


「………真奈、実はどこからか見てた?」


凪の言葉に真奈はゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。見ておりません。大体、見ているぐらいならならさっさと出てきて混じっています。ですが皆様の反応を見る限り私の予想は当たっていたようですが」


何の感慨もなく頷いた真奈は酒臭い凪を見て黙ってタオルを差し出す。


「お酒臭いです。お湯と着替えを用意しましたから早くお酒を落として服を着替えてください。な………」


「うん!ありがとう!真奈。私、ナナはとっても嬉しいわ!!」


「………………………………そうですか」


危うく本名を暴露されかかった凪が慌てて声を上げる。真奈は無表情ながらも胡乱なものを見るような目で凪を見て、そして何かを悟ったのか大人しく口を閉ざした。

ただ、着替えやらを渡すときに他の人達には聞こえないぐらい小さな声でぼそりと


「あと、こんな格好をして宴に潜り込んだ挙句、騒ぎに首を突っ込んでいたことにたいして納得できるご説明を求めます。」


「あ、あははははっ」


低く、凄みのあるその言葉に静かなる怒りを感じて凪はあははと笑ってごまかして着替えのために別室に飛び込んだ。


その後ろ姿を見送った後に真奈は展開についていけていないでいる琥珀とひなたに向き直った。


「ご挨拶が遅れました。私、王妃付き筆頭侍女を拝命しております真奈といいます」


優雅に一礼をする真奈にボーと見とれていた二人だったが「王妃」という言葉にはっと我に返った。


「え、え、え?王妃付きの侍女?しかも筆頭?」


「はい」


え、え、え、え?なんで王妃筆頭侍女がこんな所に現れるの?


内心に浮かんだ疑問に答える声はもちろんない。

混乱したように聞き返すひなたに律儀に頷き返す真奈。

ひなたの隣で完全に固まってしまった側室候補。


「そちらの方は側室候補として名があがっていらっしゃる琥珀様でよろしいですか?」


真奈の言葉にひなたも固まる。

さすがに王妃付き。情報はしっかりと掴んでいるようだった。

真奈といえばその美しさと有能さはもとより王妃に嫁ぎ先から付き添い続ける変わり者として王宮では有名だ。

ひなたとしてはどんな冷遇されてもしゃんと背筋を伸ばして主に尽くす真奈はとても偉いし尊敬できる存在だと思うし、その真奈が忠義を尽くす王妃も噂ほど酷い人だとは思っていなかった。

周りの声が怖くて何も言えないが内心、ひなたは大国の王族でもあり、苑に不利益をもたらすでもない王妃を周囲がここまで攻撃するのかと疑問を覚えていた。

そして、現在。

その忠義の人である王妃付き筆頭侍女である真奈と無理やりとはいえ新たに側室候補として後宮に上げられる予定である琥珀が顔を合わせてしまった現状は非常に居心地の悪いということを身をもって体感しているひなたはもう、このまま意識を失ってしまいたくなった。

遠のく意識を何とか繋ぎとめながらチラリと真奈を見る。


「……………」


何を考えているのかさっぱり読めない無表情でした。付き合いの長い凪ならば「ああ、特に何も考えてない時の顔だね。あれ」と言うだろうがまともに顔を合わせたのが今日初めてのひなたにそこまで読めるはずもない。


(ひょぇぇぇぇぇぇぇぇ。い、意味深な無言が怖いですよぉぉぉぉぉぉ!!)


意味を勝手に作り出して怯えていた。実際の真奈は自己紹介はしたし、失礼にはならないでしょうと凪が出てくるのを手持ちぶたさで待っていただけである。


「………真奈、さん」


「………何か?」


意を決したように口を開いた琥珀を真奈の表情の浮かばない瞳が迎え撃つ。真奈としてはただただ普通に対応しただけなのだがやはり無表情では何か裏があるのか不機嫌なのかと疑ってしまう。感情の読めない視線にさらされびくりと琥珀の肩が震えるが彼女はぐっと顔を挙げ、真奈を見据えた。


「王妃様とはどんな方なのですか?」


どうやら間が持たなかったのでとにかく会話をしようとしたらしい。

しかし、慌てていたために選んだ話題が双方ともに微妙なチョイスであった。


王妃さまについてだなんてどうして聞いてしまったの!


と琥珀が己を責めている間に真奈は真奈で


さすがに生活のために覆面作家をしていますやら侍女の服着て宴に潜り込んだ挙句お酒を頭から被っていますなどとは言えない。口が裂けても言えない。さて、どう答えたら無難でしょうか?と無表情の中で考えていた。

そして彼女の出した答えは。


「………………………………凪様は…………努力家です」


間違っては居ない。祖国に居た頃はとにかく少しでも家族の役に立とうと必死に努力していた。結婚してからは「ネター!どこだネター!!振って来い!!むしろカモン!」とネタ探しにたいする努力は執念と呼べるほどだ。あれ?おかしい。どちらも努力はしているのに何故だろう。後半の方がふざけているように見える。目の下に隈を作って部屋を徘徊する主の姿を思い出した真奈は珍しく分かりやすい憂いの表情を一瞬浮かべる。


それをバッチリ目撃してしまった琥珀とひなたは同時に胸を突かれたような気がした。


「努力家、ですか?」


「…………はい。そして家族思いです」


あの家族、ちょっと愛が暴走気味だけど。他の家族の愛が重すぎの暴走し過ぎで凪様が邪険に扱うから一見そうは見えないけど。一応、深く大切に思っている………心の奥では。


今度は哀愁が漂う表情が一瞬浮かぶ。


その顔ももちろんバッチリ目撃した二人は泣きそうな顔になる。

言葉を選ぶ真奈に琥珀とひなたは勘違いを増長させていく。


(ああ、王妃様の境遇を思い出させてしまったのですね。わたくしはなんて無神経な質問をしてしまったの!)


(きっと苑での王妃様の処遇を思い出してしまって憤りを感じているんだ!怒りで言葉が少なくなってる!!)


この二人、割と思い込みが激しい上に解釈がやや斜め上方向に曲がっている。

王妃の実態を隠すためにどうしても言葉が少なくなってしまう真奈とそんな態度に勘違いをしてうるうると同情の目を浮かべる琥珀とひなた。


「真奈さん!負けないでくださいませ!」


「はい?」


「あ、あたし自分が恥ずかしいです!噂を鵜呑みにしたわけじゃないけど王妃様をどこか軽んじていました!よく知らないのに最低です!ごめんなさい!!」


「お二人ともいきなり何を?いや、凪様への印象がよくなるのはいいのですが突然どうして?」


「微力ながら王妃様をお守りする力になりたいと思います!」


「あ、あたしも!!」


「ですから、何故、行き成り………」


誤解と勘違いは解かれることはなく三者三様にそれぞれの解釈で落ち着いたのであった。

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