王妃さまと宴3 または同じ穴の狢な三人(方向性は違うが皆変人)
大広間を出た凪達が腰を落ち着けたのは休憩室として解放されている小部屋。パタンと扉を閉めると誰ともなくため息が零れた。
「………さ「申し訳ございません~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」」
…………。
「さて」と言い掛けた凪の言葉にかぶせるように涙目の侍女の絶叫謝罪が響いた。気づけば滂沱の涙を流しつつ土下座をしている侍女の姿。その姿はまさに「ざ★DO・GE・ZA」と言わんばかりの見事かつ憐憫を感じさせつつ妙に手馴れているように見えた。
というか土下座?
侍女が額を床にこすり付けて土下座をしていると認識した残りの二人はぎょっと目を見開いて慌てた。
「え、あ………そんな!顔を上げてくださいまし!」
少女が慌てて駆け寄り立ち上がるように促すが涙を流す侍女はイヤイヤと首を振りつつ土下座をやめない。
「すいません。申し訳ございません。お二方にはあたしのドジのせいで多大なるご迷惑をおかけしてしまいました!!いっつもこうなんです。転ぶ、零す、壊す……ああ~~~なんであたしってこんな人様に迷惑ばかりかけちゃうんだろう…………!!」
がしりっ!という効果音が付きそうなほどの勢いで侍女が少女の腕を掴む。何事だと思いきや涙に濡れた瞳で侍女が言った言葉に少女は目を丸くした。
「ど、どうか………どうかこんな愚かでつかえなくて屑なあたしに罰を、罰を与えてください~~~~~~!!!」
「はぁ!え?ちょ!」
「えぐえぐっ!あたし駄目なんです。言葉で言われても同じ間違いを繰り返す駄目人間なんです。だけ
ど身体に覚えこまされたらきっと間違わないと思うんです!!」
お願いします~~~~!と懇願する侍女の目は本気だった。
そして本気と悟った少女の顔色が一気に悪くなる。
「お、落ち着いてくださいまし!貴女、自分が何を言っているのか理解しているのですか!」
溺れる者は藁をも掴む、罰を望む者は罰してくれそうな人なら誰でも良い。
侍女は離れてくれない。少女の方が泣きそうな顔で凪の方へ視線をやり、そして……。
「なにを、やっていらっしゃるのですか?」
半眼になった。
「え?いや実に興味深いキャラクターだからちょっとメモをしていたんですけど」
次回の小説のキャラに使えそうとは凪の心の声。
どこから出してきたのかメモ用紙に羽ペンで何かを書き付けていた凪は少女の質問に不思議そうに首をかしげながら答えた。
「この状況でなんでメモを取るという行動にでるのですか~~~!!」
淑女にあるまじき大声を出した少女に凪も侍女も動きを止めた。その目を揃って大きく見開かれていた。
そんな二人の反応など目に入らない少女は怒涛の勢いで言葉を吐き出した。
「なんなのですか!何なのですか!わたくしが何かしましたか!出たくもない宴に出され、影口叩かれ、ドレスに飲み物掛けられた侍女からは罰を与えてくださいとわけの分からぬ懇願をされてもう一人の侍女はそれを止めもせずにメモを取る始末!わたくしにどうしろ言うのですか!!」
「いや、あの………」
「なんか………すいません……」
勢いに押されて謝る二人だが激昂した少女の耳には届かない。
地団駄を踏まんばかりの勢いで少女はよほど溜め込んでいたのだろう不満を爆発させた。
「わたくしは側室になんてなりたくないのにお父様が無理やり後宮に入れるとか言い出すし!!」
少女の発言に凪は冷静に「ああ、それで入城していた側室候補達が嫌がらせしてきたのか」と納得した。王妃として妻としてその反応でいいのかと、突っ込む人は残念ながらここにはいない。
少女の不満の吐き出しは益々ヒートアップしていく。
「わたくしは線の細い美形は好みではないとあれほど、あ~れ~ほ~ど力説してきたというのに!男は筋肉です!たぎる汗!輝く笑顔!程よく焼けた肌に割れた腹筋!盛りあがった力瘤!ああ、理想の筋肉を持った殿方に会いたい………出来れば理想の筋肉を持った渋いおじさまに逢いたい………」
「「……………」」
一見すると可愛らしい貴族のお姫様なのだが実態は筋肉フェチのおじさま好きというかなり変わった少女のようだった。
「何と言うか、二人とも興味深いし、変わっているなぁ………」
「………あたしが言うのもなんですが………未だに羽ペン動かしてメモを続けている時点で貴女も十
分、普通と違うキャラだと思います~~~!」
つまりは同じ穴の狢。五十歩百歩である。