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王妃様の副業  作者:
38/40

状況把握

「記憶が、ない」


呆然とそう呟く少年の言葉に凪はしばし、同じように呆然とし、そして。


「い、医者!!お医者さまを呼ばないと!!」


いきなり混乱の極地に到達した。作家魂からかなのかネタ帳はしっかりと手にしており、矢継ぎ早に出た言葉には取材めいたものも混じっていた。


「痛みは!ケガは!頭痛、吐き気などの異常は!気分はどう?感想は………ってこんな不謹慎なこときいたらだめぇ!!作家の本能がにくぃぃぃぃぃ!!医者は!!城のなかにお医者さまはいらっしゃいませんか!」


ワタワタワタタタタタァと面白い動きで手を振り回し医者を呼ぶ凪に床に伸びていた男の目がかっ!と見開いたため、側にいた少年がびっく!と身を震わせた。


「はっ!!女の子が僕を呼んでいる!!」


恐ろしき女好き。女の子の声で呼べば火の中水の中。再起不能からも蘇ってくる。

面白い動きをする凪をロックオン!正しく獲物を狙う猛禽の目で凪を捉えた。


「僕をお呼びですか!貴女の心のお医者様、楼が今駆けつけますよ!お嬢さ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」


凪の声に反応するように飛び起きた楼が人間技とは思えないほどの跳躍を見せながら凪に向けて一直線に飛びついてくる。


「なっ!」


「わっ!」


素早く勢いがありすぎて少年も凪も反応が仕切れない。


「お嬢さん~~~~~~~」


「……………自重しろ、と何度言わせる?」


心なしかドスの効いた苑王の声は大きくはないのにその場にいた全員の耳に届いた。


「え、あ、ち、ちがっ!うぎゃ!」


空中で正気に戻ったらしい楼だったが苑王が繰り出した長い足に蹴られ、表現しがたい擬音と共に再び床とお友達になった。わずかに床にめり込んで見えるのは気のせい?気のせいなのか?


「きゃー!!お医者様が床に!!医者?………変態?いやいや一応、医者?でも飛んでたからやっぱり変態?」


変態?医者?と呟く凪に苑王がドきっぱりと一言。


「ただの変態だ」


「違いますよ!!」


さらりと変態認定する苑王に楼が速攻に否定するが少年が己の記憶喪失も忘れて胡乱な瞳で踏まれ、床に伸びる楼を見る。


「否定できないと思う………」


「変態ですか!でも一応は医者ですよね!!この子、見てもらわないと!!」


少年を抱き寄せ必死に治療を懇願しているが失礼極まりない凪の発言に楼が涙目になる。


「変態否定して!!それと一応じゃなくて僕は医者!!王宮付きの優秀な医者なの!!」


「変態でも医者ならいいから早く見てください!!」


「変態じゃな~~~~~~!!」


楼の叫びが部屋に響いた。




「ふむ、特に怪我とかなさそうだし頭を打ったわけでもない。外的要因ではなく内的要因だとしか今の所はいえませんね」


てきぱきと少年を診察した楼はさらさらと診察結果と自分の見解を述べていく。診察書に書き込む姿は確かに出来る医者のように見える。今までの言動を見ていたら「今度はなんの遊びですか?」といいたくなるのだが、それはそれと凪はぐっと突っ込みを堪えた。


「あるいは………」


「楼?」


「ふむ。僕の領域ではない魔術の類で記憶を奪われている可能性もあります。僕は医療一筋で魔力がないですからそっち方面のことは専門外なもんで」


なにやら診察書に書き込むとそれを机に置く。ふうと息を吐くと椅子に不安そうに座る少年とベットに眠る少年とを見比べる。


「まぁ、取り合えずはこの子たちは僕が責任を持って預かりますよ。いいですよね?苑王」


「ああ……。このまま放りだすわけにもいかぬからなそうしてくれると助かる」


少年達の処遇が一応決まりそうな流れに黙っていた凪の服の袖がクイとひかれた。

視線を向ければ不安そうな顔の少年。どうやら無意識に凪の服をつかんでしまっていたらしく凪の視線に気づくとびくっと肩を震わせ服を離す。

まだ、何かを話している苑王達の方に視線を戻すがその横顔は青白く確かに不安と心細さが見えた。


何か考えた行動ではない。


正直に言うとここ一番と言うところで凪は理性より衝動で行動を起こす。だからこの時も理性が働くよりも早く衝動で動いていた。


離され、強く握り締められていた少年の手を掴み直す、離されていた視線が驚きを伴って戻ってくる。それに力強く笑いかけるとその言葉を口にした。


「あの!この子達、私が預かります!」


掴んだ手は温かい。これは護るべきものだ、と凪はそう、思った。


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