状況確認
すいません!遅くなりました!
「どういうことですか?」
夕暮れ、見知らぬ少年を連れて部屋に帰ってきた凪に無表情にだがはっきりとそう真奈は言い切った。
真奈の前には床に正座させられた苑の王妃と彼女に助けられた少年。
部屋に入り、真奈の姿を見つけるなり無理やり正座させられ少年の顔は不機嫌そのもので自主的に正座した王妃の顔には脂汗がびっしり流れていた。
「この子、保護することになったんだ。つきましてはしばらくここで一緒に暮らすことになりまして………」ともごもごと説明する凪に真奈の眉がぴくんと危険な角度に跳ね上がった。
「一体何がどうなってその少年を凪さまが保護することになったのですか」
声を荒げているわけではないのに淡々とした物言いなのに何故だか尋問されている気がしてくるのはどうしてなのだろう。
「えっと、ですね………話せば長いのですが………」
「簡潔に」
「はい!了解しました!真奈さま!」
新兵のように背筋を伸ばし敬礼をする凪。
迫力に負けて侍女に敬語、さま付けの王妃様。
威厳、なし。
一連の流れを見ていた少年の瞳がだんだん胡乱なものをみるような目になってきた。
「………」
あんた、王妃だろ?という目で見てくる少年は無視して凪は事の起こりを説明し始めた。
苑王により黙らされた楼。彼を囲むように少年と凪が恐る恐る近寄る。
「えっと………ピクリとも動かないのですがいいのですか?」
「痙攣すらしてないぞ。息、しているのか?こいつ」
しゃがみ込み、息さえ感じられない死体のような楼を覗き込む凪と少年。少年などはつんつんと近くにあった物差しで突いている。
頭に特大のタンコブをこさえてピクリとも動かない楼を心配する二人をよそに張本人はいたって冷静だった。
「気にするな」
素っ気無く言い放つ苑王を思わず二人は凝視してしまう。
「「……………」」
それは息をしてなくても別に気にする必要はないということか?それとも生きているから大丈夫という意味なのか?どっち?どっちなの?
内心の疑問は苑王の迫力により口に出すことはできなかった。
以上が床に倒れた楼を囲んでの三人の会話であった。(一人治療が終わった後のため眠りについている)
楼の当たり前といえば当たり前すぎる叫びを力技で黙らせた苑王は床の物体は無視することにしたらしく手近な椅子に座るように二人に勧め、自らも座る。
凪と少年は顔を見合わせ、床に伸びている物体を見て、苑王を見てそして大人しく椅子に座った。
ここにきてようやく落ち着けることができたなぁ。と考えていると苑王が少年の方に視線を向ける。 それに気づいた少年が少し緊張したように苑王を見つめ返した。
「疲れているとは思うがこちらの質問に答えてもらおう」
有無を言わさない苑王の言葉に凪は隣の少年の緊張が増すのが分かった。心細いだろうに唇をかみ締めて必死にそれを押さえ込んでいる少年を励ますように凪は少年の手を握った。
はっとしたように見上げてきた少年は少し戸惑ったようだったが握られた手を振りはらわれることはなく再び苑王を見つめたときに強く握り返された。
苑王の眉が一瞬ぴくりと跳ね上がったが二人が気づくことはなかった。
「お前がいた森と城の中庭が繋がっていたのは何故だ?どうしてお前達は襲われていた。………お前は何者だ?」
苑王と少年の瞳が合わさる。
「僕は………」
戸惑うように瞳を揺らしながらそれでも口を開こうとした少年だったが不意に何かに気づいたように言葉を詰まらせた。
「ぼく、は………」
何かを探るように視線をさ迷わせ頭に手を当てる。
「?どうしたの?」
少年の異変に凪が声をかける。ぼうとした表情で少年が縋るように繋いだ手にもう一方の手を重ねた。
「気分が悪いの?それとも貴方もどこか怪我を?」
「違う………僕、僕は………」
空気を求めるように口を開閉させる。繋いだ手を益々強く握り返してくる少年の顔から血の気が引いていた。
尋常でない様子に凪が立ち上がろうとするよりも早く少年がぽつりと呟いた。
「なにも、おもいだせない。僕は、一体、だれ、なんだ?」
その言葉に凪は目を大きく見開きそして苑王はただ静かに息を吐いた。