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王妃様の副業  作者:
34/40

王妃様と少年達 9

息が詰まるほどの緊張感に凪は瞬きすらできなかった。

ただ苑王の背中を見つめるしかない。

何が起きているのか・・・あるいはこれから起きるのか・・・自分の把握しきれない流れに抗うように凪は苑王の背中を睨むように見た。


何もわからない。だけど・・・守るべき命が二つ、彼女の腕の中にはあった。


凪は己に対する評価は底辺だが自分を省みない代わりに他者を最優先させる。守るべきものが場合、何が何でもそちらを守る。


暗殺者が咳込みながらもなんとか体制を立て直す。驚きが残る顔をしていた彼に刹那冷たい何かがよぎった。それが何を意味するのか凪が考えるよりも先に。


「…………」


ブワッと巻き起こった風が死角から少年に向かって放たれたナイフを防ぐ。


「増援か」


苑王の言葉に先程とは違う緊張感が凪たちに走る。

辺りを窺う苑王の目は鋭い。


「王妃、怪我をした方の子供を背負え。………合図したら風で後押しするから空間の亀裂に向かって走れ」


苑王の言葉が終わるよりも早く凪は背中に負傷した少年を背負うともう一人の少年の手を握る。

強くなる緊張感に少年達の身体が強張ったのがわかった凪は安心させるように少年達に笑いかけた。


「大丈夫だよ。………絶対に守るから」


我ながら震えた声ででもはっきりと言い切る。不安にさせないように笑顔は絶やさない。


ぎゅうとすがるように握り返された手。強くなった腕。それらを感じながら凪はその時を待った。


「走れ!」


苑王の合図と共に闇から数人の暗殺者が飛び出してくる。それを阻むように苑王が起こした風が彼らの足をさえぎる。

後ろも振り向かず凪たちは走り出した。

凪達を押し出すように風が吹く。自身が出せる以上の速度で走らされる。手を繋いでいる少年の足などほぼ地面から浮いていた。


全力で走る。闇を切り裂くような光に向かってただひたすらに!


時折聞こえてくる音は苑王が作り出した風に敵が何らかの攻撃をしかけた音だろう。振り向く余裕のない凪には確かめようがないが。


光が近づく。あと少し、あと十歩。


一際強い風が凪達を加速させる。凪達はほとんど転がるように空間の裂け目に飛び込んだ。


背中の少年を庇おうとした結果。凪は顔面から地面にダイブした。


「ぐはぁ!」


とてもじゃないが女性らしからぬ悲鳴を上げながらそれでも背中の少年を庇った凪。


「だ、だいじょうぶか?」


手を繋いでいた方の少年がおろおろと凪の様子を窺いながら怪我をした少年が凪の上からどけるのを手伝う。


「いたた……」と言いつつ起き上がった凪は赤くなった鼻をさすりながら少年達の無事を確かめる。


「大丈夫?」


「いや、それはどちらかといえば僕達の台詞なのでは」


思わず突っ込みを入れてしまう少年達だった。


「苑王は……」


きょろりと辺りを見渡した凪は空間の向こう側で敵を抑えている苑王の姿と揺らぎ始め収縮していく空間の割れ目を見つけて目を見開いた。


「え、あ、ちょっ!苑王!!早くこっち!閉じる!!」


全力で割れ目に近づき苑王に大声で伝える。凪の声に気づいた苑王が風を起こし暗殺者をぶっ飛ばすと凪に向かって走り出す。


「はやくはやく!!閉じちゃう!!」


そう遠くにいるわけではないが明らかに割れ目が小さくなっている。今はもう子供が通れるぐらいまでに小さくなっていた。

凪は手を振り回し馬鹿のひとつ覚えのように「早く!」と繰り返していた。


苑王は風を使っているので常人より早い速度でこちらに向かってはいるが彼は敵がこちらにこようとするのを邪魔している分だけ足をとられてしまう。


「早く!ってああ、また小さくなったぁ!」


ぐんっと小さくなる割れ目に凪の内心はもう、穏やかではない。


「苑王~~~急いでください~~!」


手で止めようにも触れないのではどうしようもない。あわあわと見ているしかない。


「はやく!……っ!」


その時、凪は見た。苑王に向かってナイフを放とうとする暗殺者の姿が。ぐんっとさらに割れ目が小さくなる。凪に迷いは、なかった。


「苑王!頭を低くして飛び込んでください!」


「………!」


凪の言葉に反射的に頭を下げた苑王。


「インク投下第二弾 !(予備)」


懐から再び取り出したインクボトルで見事な投球第二弾を披露した凪の手から離れたインクボトルが苑王の頭の上を通り過ぎ今まさに攻撃を加えようとしていた暗殺者に命中した。


「ぐはぁ!」


苑王が一気にスピードをあげた。


「苑王!」


凪の伸ばした手が苑王の腕を掴む。思いっきり引っ張って再び転げるように中庭に苑王が飛び込んだその瞬間、割れ目が一気に収縮し、そして夜の森が消え去った。











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