王妃さまと少年達 8
風が名残を惜しむように彼の周囲を包んでいた。
風を従わせ、現れた苑王の姿に少年達は凪の腕の中でただただ目を奪われていた。
圧倒的な力と覇気は苑王とは知らない少年達ですら彼がただ者ではないと悟らせる。
苑王に意識を奪われていた少年達は凪がほんの一瞬だけ身体を強張らせたことに気がつかなかった。
「怪我は?」
「………」
「……王妃?」
「………はっ!」
呆然としていた凪の目に光りが戻る。
目の前にいる苑王の姿に戸惑ったように腕の中にいる少年達を抱きしめた。
迷うような表情のまま何かを言いかけた凪を遮るように苦しげな呻きが聞こえ、苑王が前に出た。
鋭い視線の先は大木を支えに立ち上がった暗殺者の姿があり、凪と少年達に再び緊張が走る。
だが、予想したような攻撃は全く来ない。
暗殺者は何故だか驚愕したように苑王を凝視した。
「な……ぜ……」
声が掠れていたのはダメージのせいではないようだ。
「何故、苑王が……貴方がその子供を庇う?」
信じられないことを隠しもしない暗殺者に苑王は何も答えない。
「…………と言ったのは………貴方、だろ?」
苦しげな息切れのせいで暗殺者の言葉がよく聞き取れない。
だが苑王には届いたのだろう。
ほんの少しだけ肩が震えるのを凪は見た。
しばし、誰もが言葉を失った。凪は腕の中にいる少年達を守るように抱きしめながら苑王の背中を見つめた。
暗殺者ははっきりと苑王の顔を知っていた。
顔見知り……のように感じられた。しかも、この場で絶対に会うことのない人物に会ったような驚愕だった。
一体、何が起きているの?
凪の内心の疑問に答える声はなかった。