王妃さまと少年達 5
大地の揺れはほんの数秒だった。
僕が体制を立て直すよりも早く暗殺者が剣を構え直す。僕は背後の幼なじみを守るために必死に暗殺者を睨みつけた。
くっ・・・せめて・・・せめてコイツだけでも助けないと!
そう、思った時だった。
優しい風が吹いた。冬の時期に吹くはずのない暖かい風はまるで僕らを元気つけるように頬を撫でた。
(え・・・・)
そして風に導かれるように光りが・・暗く淀んでしまった夜を引き裂くように差し込む。
待ち望んだ光に自然に視線が引き寄せられた。
光の中に浮かぶ小柄な人影。黒い瞳にを目一杯開き、僕らを見る少女は状況を理解するやガラリと表情を変えた。
「ちょ!!子供になにしてるか〜〜〜〜!」
少女の喉から発声されたとは思えないほどドスのきいた怒声が空気を震わせる。
光を背負い物凄い勢いでこちらに走ってくる少女の姿。
その人から僕は目をはなせなかった。
怒りのまま走り出した凪に少年達も暗殺者も一瞬動きを止めたがさすがはプロ。すぐに意識を本来の目的に戻すと今だに凪を見ていた少年に剣を振り下ろす。
凪の顔が怒りと焦りで更に赤くなる。止めなければと思った時にはもう、彼女の手には武器が握られていた。
「インク投下(開封済み)!とりゃぁ!!!」
懐から取り出したインク瓶を走りながら凪が全力で暗殺者に投げ付ける。
雄叫びは多分、本人なにも考えてはいない。
暗殺者は冷静に飛んできたインク瓶を打ち払う。が、その途端、真っ黒な液体が広がり暗殺者の視界を塗り潰した。
「・・・・・・っ!!」
「この!児童虐待現行犯!!」
物凄い速さで距離を詰めた凪のスカートが少年の目の前で翻る。
白い脚を恥ずかしげもなく曝しながらインクで視界を奪われた暗殺者の腹に強烈に蹴りを喰らわせた。
「子供を殺そうなんて男の・・・いえ、人間の風上にも置けない最低行為よ!!恥を知りなさい!恥を!」
少年達を庇うように暗殺者を指差し、説教をかます凪。
インクを投げ付けられた揚句、かなり痛烈な一撃を喰らった暗殺者は苦しげに呻くしかないようだ。