王妃さまと少年達 3
走っても走っても夜の終わりが見えない。
怖い・・・・闇の中から静かに僕の命を狩ろうとする刃が。
「・・・・・っ!危ない!」
空気を鋭く裂く音、回る視点、そして守るように回された腕と・・・・顔にかかった生暖かい感触。
「・・・・・え?」
「無事、ですか・・・」
どうして・・・・。
「よかった・・・怪我はないですね・・・・」
なんで・・・・。呆然と痛みで歪み、それでも笑う幼なじみにを見つめた。
「・・・・・・!」
僕は震える手で僕をかばい暗殺者に背中をきられて今にもたおれそうなくせにそれでも僕のことを心配する大切な幼なじみの体をささえる。
そんな僕達に暗殺者はゆっくりと血に濡れた刃を僕達に向ける。幼なじみが僕を庇おうとする。反射的に僕は彼の腕から抜け出し暗殺者の前に立ち塞がる。
幼なじみが狂ったように叫ぶのが遠くから聞こえた。刃が光もないのにキラリと光った。
目を開き僕は僕の命を奪う存在をただ睨み付けた。僕に許されるたった一つの反抗だった。
「やめろ!その方を殺さないでください!!」
幼なじみの悲痛な叫びにも刃は止まらず、僕の体に届くその瞬間。
「「「!?」」」
世界が揺れた。大地が鳴動し空気が揺れる。怒りを体言したような揺れにただびとである人はただ無力に怒りが通り過ぎるのを待つしかなかった。
体感したことのない揺れはほんの十秒ぐらいだったというのに凪には永遠続くかのように感じられた。
体の奥の奥。自分でも把握出来ない何かがざわめいでいるようで落ち着かない。苑王は静かに虚空に目をやり、微かに目を細めた。
「い、今のは・・・」
図太い凪も流石に腰を抜かしたのか地面に座り込んだまま、せわしなく視線をさ迷わしていた。
「・・・・・・・」
苑王は何も言わない。
凪は知識を探り今の現象が「地震」と呼ばれるものだと思い当たった。
同時に沸き上がるのは恐怖を越える後悔。
「ああああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
何の前触れもなく雄叫びをあげその場に崩れ落ちた凪に苑王が目を丸くする。だがそんなこと構っちゃいられない。
(なんて・・・・なんてこと!私は私は・・・なんという過ちを!)
愚かだ。なんて愚かなのだ。
「折角のレアなネタ体験を逃した〜〜〜〜!!」
「は?」
苑王が思わず聞き返すが凪は勿論気付かない。
地面に伏せ、草を掴み、嘆く。
その姿は数分前の凛とした表情を浮かべ決意を述べた人物と同じ人間だとは思えない。
「ネタが・・・ネタがあったのに周囲を観察してどんな風に揺れるのかとか揺れをもっと集中して感じ取るとかあったでしょ!自分!恐怖感に負けた〜〜〜〜〜〜!!!」
「・・・・・・・・」
なんてこったい。こう言う時のために懐に紙とペンとインクを常備していたというのに、この様・・・・!くっ!始祖王様方に顔向けできない!と騒ぐ凪に偉大なる始祖王もそんなことで顔向けできないと言われても困るだろうと心の中で苑王は突っ込んだ。