王妃さまと少年達 2(改)
遅くなってすいません!
結婚してから一年。一度も顔をあわそうとしなかった夫が目の前にいた。
驚く凪に対して彼の顔に驚きはない。まるで全てを見透かすような目で凪を見ていた。
「苑王?」
「・・・・・・」
悲しそうな顔。
「そなたは、私を嫌い疎んでいるのだろうな」
静かに彼は語った。凪は首を傾げる。内容にも彼の口調と一人称にも。その言葉は凪が言うべき言葉だと思うのだが
「されても仕方がないことをしているがな」
暗殺とか食事に毒を混入されていることや一度たりとも凪の元を訪れていないこととか軽んじた態度のことを言っているのだろう。まぁ、凪は・・・・・・と言うか夜来の王族は体質的に毒の効きにくい上に幼少期から徹底的に毒や暗殺について学ばされるから適切に対応できているのだが。
目の前の人が凪の安全について何を思い、何をしたのか知らない。だけど一年ここで暮らした。情報も集めた。見聞きした全てで予想し確信したいくつかの実情と王を取り巻く様々な思惑。
真奈は「同情の余地なし。さっさと捨てましょう。あんな男」と凪の夫に足りないと見切ったようだが凪はまた違う見解を持っていた。だから話しをしようと思う。目の前に立つこの人と。
「失礼ですけど今の苑王は王宮の全てを掌握されてないのではないですか?」
「・・・・・・・」
凪の言葉に彼は答えない。構わず凪は続けた。
「前王の残したものは根深い、危険を承知で夜来の姫を娶り後ろ盾を得なくてはいけないぐらいに」
そして、その姫を囮にしなければならないぐらいに。
「・・・・・・・」
「父のことです。渋りはしたでしょうが苑が腐れ、荒れれば夜来にも影響があると考えたはずです」
苑ほどの大国が荒れれば周辺への影響も計り知れない。実際、ぐちゃぐちゃになった前王の治世後半は苑から逃げ出した難民の受け入れやら滞った流通で夜来も対応に追われていた。子煩悩であるし過保護だとも思う。だが父は親である前に王だ。国を民を守ることを優先する。そして、凪も王族の一員、民のために生かされている自覚はある。
「夜来は苑と肩を並べる大国。私達の婚姻の意味は貴方が夜来の後ろ盾を持つことを国内外に知らしめること」
下手なことをすれば夜来を敵に回すと反乱分子に宣言した。そして凪は彼らにとって目の上のたんこぶと認識された。
「この一年、この国で様々なことを見聞きし、感じました。苑王、貴方が父と何を企んでいるのかは知りません。だが、その何かに「私」は大きく関わっている。違いますか?」
「………」
苑王は答えない。ただ静かに凪を見ている。
凪は真っ直ぐ、王を見つめた。
「………今、貴方が一番守るべきものは何なのですか?」
凪の言葉に苑王は迷いなく答える。
「この土地に住む全ての民だ」
強い決意の眼差しにゆっくりと凪は笑った。
「なら、私も守ります。この土地に住む全ての民を。だから」
凪の笑みに決意が混じる。
「だから、王の企みに乗りましょう。全てが終わるまで、私は逃げませんし殺されません。王妃としてこの土地のために生きましょう」
囮になれというのなら最高の囮になろう。
「夜来の王女」がもつ影響力を最大限利用しよう。
夫としては最悪かもしれないが迷いなく民を一番に守ると答えたこの男はきっと民にとって良い王となる。
この国を覆う全ての憂いをなくしてみせよう。
お飾りの王妃が民に返せることなんてきっとそれぐらいしかない。
凪の決意の笑みに苑王はしばし魅入られたように己の王妃を見つめた。そして、彼が吸い寄せられるように手を伸ばしたその瞬間、大地が激しく鳴動した。
「きゃ!」
立っていられないほどの揺れに地面に尻餅をついてしまう。
世界が揺れてる。全ての反抗を許さない大きな力に凪の心に恐怖感が生まれた。
「大丈夫か!」
苑王の声に頷くのが精一杯だ。
その鳴動が始まりを告げるものだったと知るものは少ない。