王妃さまと少年達
寂しい
母はいつも泣いていた。
悔しい
父にとってたった一人の子供である自分に向ける視線は隠そうともしない無関心だった。
彼らにとっての僕は何?
もういない他の女性だけを想い続ける父を愛し、尽くし、たった一人の後継ぎまで成したのに父の愛を得るどころか関心すら向けられなかったため心を病んだ母と心から愛した女性を失い、愛してない女を妻として娶り、部下の言葉も聞かず全ての責務を放棄し始めた父の間に生まれた僕は・・・・なに?
何度問い掛けても答は返ってこない。
たった一つわかることは父は自分を殺そうとしていることだけ。
無関心だった父が何故自分を殺そうとするのかわからない。だが父にとっての「子供」は自分ではなく最愛の女性と共に天にはかなく消えた命だけなのだろう。だから血を分けた我が子でもたやすく殺せる。
『・・・様!大丈夫ですか!』
手を引いて先導してくれていたたった一人の味方である少年がこちらを振り返る。僕より二歳だけ年上なのに彼は全力で僕を守ろうとしていた。
それが申し訳なくてだけど繋いだ手は離せなくて・・・僕はただ助けを祈っていた。
暗い暗い夜の森を走る。すぐそばに近づく『死』を感じながら僕らは走り続けた。
夜明けは遠く、朝はみえなかった。
麗らかな午後。例によってネタに詰まった凪は気分転換に中庭を散歩していた。
(ふふふ。同じ鉄は踏まない。今日は主立った側室候補達を集めたお茶会があることを確認してるから遭遇する確率は低い!)
チラリと物陰から覗いた所、にこやかな笑みと着飾った美しい女性達と厭味が飛び交ってました。正しい女の戦場でした。ネタには出来ますが正直凪ですら近寄りたくないどす黒い何かがあの場には渦巻いてました。
(あの空気は私の今の力じゃ表現しきれない!っ!未熟さを感じるわ!)
あの陰湿さや空気、隙を見せれば喰われる弱肉強食なくせに外見だけはうっとりするほど絵になってて・・・・駄目だ。表現しきれない!
色々文章を考えながら歩いていると見覚えのない場所に出た。
「あちゃ・・・文章考えるのに夢中になりすぎた」
踵返しかけた凪は意外な人物の姿を見つけ目を丸くする。ここにいるはずのない人。「お飾りの王妃」を嫌い、利用するため彼は後宮に近寄らないのだから。
風に舞う銀の髪。まるで凪が来るのを知っていたかのように苑王は凪の前にいた。幻のように美しい男だ。現実に存在していることが信じられない。
「・・・久しいな」
幻は凪の姿を認めると口を開いた。
突然のことにぽかんと苑王を見上げてしまう。三度目の顔合わせ。
一度目は結婚式。二度目は姿を偽った月夜の夜。
そして今、太陽の下で苑王に凪は三度目の出会いを果たした。