王妃さまと王さまと騎士 2
「何事ですか?」
騎士のことを華麗に流した真奈の視線が必死に俯いて顔を隠す凪に留まる。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・(汗)」
ばれた?動かない視線に心臓が凍るような気持ちになる。
「・・・何をしているのですか。貴女は」
(ばれた・・・・)
絶対零度の声に全ての望みが断たれたことを悟り凪は絶望した。
「彼は君の知り合いかい」
「ええ。夜来の関係者です。彼が害のある人物でないことは保証しますわ彪流殿」
「ふ〜ん。夜来の関係者、ね」
ドキッパリと言い切る真奈に彪流と呼ばれた騎士は納得したのかしてないのか微妙な反応だ。
顎に手を当て何か考え込んでいたが手をおろすと軽い、だけど内面の読めない笑みで肩を竦めた。
「まぁ、そこの彼が何かしたわけじゃないですしね。良いですよ。今回は愛おしい真奈殿の顔を立てて詮索はしません」
「おい、彪流・・・」
「何かしていたのは羽交い締めにして茂みに連れ込んでいた王の方ですしね」
「オォォイ!!たけるぅいきなり俺の品性疑われる発言をしてんじゃねぇ!」
苑王が至極当然の叫びをあげるが彪流は「あはは」と笑って流し。真奈は冷ややかな侮蔑の目を苑王に向ける。凪は苑王を憐れだとは思うが真奈と彪流を敵に回してまでフォローするほどの度胸はなかった。
「とにかく、コレは連れていきます」
真奈の言葉に凪は更にがっくりした。主を「コレ」呼ばわり。いくら正体をばらすわけにはいかないとは言え、あんまりな扱いである。
「どうぞ」
彪流も特に止めることなく送り出す。
真奈に無言で促され先に歩きだした彼女の背中を凪も追う。
「ちょっと待ってくれ」
苑王が何故か呼び止める。彼の視線の先は真奈。
・・・・・何故?
凪が首を傾げている間に苑王は真奈に近づくと少し戸惑うように視線をさ迷わせた後、覚悟を決めたように口を開いた。
「王妃は・・・どうしている?」
「・・・・・・・・・」
「へ?」
予想外の言葉に凪は思わず変な声を出してしまい、彪流が面白ろそうに吹き出した。彪流を横目で睨み付けてから苑王は真奈に視線を戻す。が。
真奈の冷徹な視線に曝され思わず顔を引き攣らせた。
凍りつく視線のまま真奈の口元が上がって凪の「ひっ!」と言う悲鳴が響く。
(わ、笑った。真奈が笑った!)
プルプルと震えながらじりじりと冷気を放出する真奈から距離を取る凪。
凪がどうにか安全な距離まで下がったのと同時に真奈の攻撃は開始された。
「まさか苑王様の口から凪さまのことについて聞かれるとは驚きました」
「妻のことを聞いて何が悪い」
「妻?ふふ・・・」
さも可笑しいと小さく笑い声をあげた真奈。だがすぐに笑いは消え、刃のような鋭さが浮かぶ。
「ふざけないで頂きたい」
「・・・・・・・っ!」
「夫らしいことを何一つせずにむしろあの方を傷つけるだけなのに口だけの気遣いをみせますか」
「ちが・・・!」
「否定された所で凪様が感じたことされたことそれが全てです。凪様は強いし変な所で鈍くて普通ではありませんけどだからと言って心ない言葉に傷つかないわけではありません。・・・・王の誕生日を祝う席に凪様を出席させるように言われた時は期待もしましたが・・・・持ち上げて落とすとはまた手の込んだ嫌がらせですこと」
どうやらあの祝いの席には凪にも出席するように指示があったようだ。だから直前で来なくていいと知らせがあった時真奈はかなり不機嫌になったのだと凪は納得した。
「ちょっと待て、あの時は・・・・・・」
「言い訳など聞きたくありませんわ。貴方方苑の人間が凪さまを拒絶するならすればいい。そんなことであの方は損なわれない。傷つけさせない」
強い強い意志を秘めた瞳が真っ直ぐに苑王を睨む。
「貴方が凪さまの伴侶だと決して認めない」
それだけ言うと真奈は放心している凪の腕を掴んでその場をあとにした。
苑王対真奈。結果は真奈圧勝でした。言い訳すらさせてもらえずぼこぼこ。