王妃さまと王さまと騎士
騎士の言葉に苑王が鬼の形相に変わる。当たり前だ男色扱いは誰でも気持ち良くはない。今の凪は騎士見習いの少年姿。その上後ろから苑王に羽交い締めにされ口を塞がれている。たしかにただならない光景に見える。
まぁ、凪が容姿的にかなり見劣りしているのだが・・・・・・。
ニヤニヤしながらこちらを見ている騎士はもちろんわかっていての発言なのだろう。目が目茶苦茶楽しそうである。
(からかう気、満々だよ。この騎士さん)
どう見ても弟分をからかう兄貴分にしか見えない。苑王が真っ赤な顔で騎士に喰ってかかりそれを騎士がノラリクラリと軽くかわす。
「誰が男に走るか!!俺はあいつ一筋だ!!」
「あはは、十歳の時に八歳も上の女に惚れてから暑苦しく想い続けたんですよね〜〜〜うわ、重ッ!」
「同じ時に同じように年上に惚れたお前に言われたくない!」
「俺の場合は間に他の女とも付き合ったりしましたよ?貴方みたいに純愛は貫いてないです。いや?結婚したから違うのか?」
「もういい黙れ。それといい加減にそのふざけた物言いはやめろ」
心底やめてくれと言わんばかりの王に「これが俺の地ですよ?」と騎士が言えば王が噛み付いた。
「しれっと嘘をつくな!昔は真面目で堅物だったのに何を間違ったらこんなチャラ男になるだ・・・?」
凪を無視して身内の言い合いに突入した王様と騎士。逃げたい。幸い拘束は解けている。が、あの騎士、あんな馬鹿な言い合いをしてるくせに決して凪から意識を逸らしてない。ジワリと威圧感を感じた。逃げられないと本能で悟る。
「まぁ、おちょくるのはこれぐらいにして」
「お前、本当に俺を王と認めているのか?」
心ゆくまでからかい倒してイイ笑顔の騎士に王様は頭を抱えて主従の在り方について真剣に考えていた。
「で、君は誰?所属と名前あとは何故こんな場所にいたのかな?」
柔らかい口調なのに反論を許さない空気を感じた。とくとくと心臓が煩い。
「僕は・・・・」
とっさに少年の声と喋り方を作る。大道芸人になりたい兄から教わった声色術がこんな所で役に立つとは・・・・。人生何が起きるかわからない。だがここで正体がばれる訳にはいかない。
(流石に王妃が変装して外をウロウロしてたらやばいよね・・・・)
だからなんとしてもこの場をごまかさないと。
「君は?」
騎士が促す。必死に言い訳を考える凪。どうにでもなれと口から出任せを言おうとした。
「実は!「そこで集まって何しているのですか」なんです!」
凪の言葉にほぼ被せたように淡々とした女性の声が夜の静寂に響いた。
聞き覚えの有りすぎる声に凪は固まり、王は意外そうに目を見開き、そして騎士は真意の見えない笑みを浮かべながらその人物の名前を呼んだ。
「これはこれは。真奈殿。相変わらず美しさですね」
嬉しそうに口説き文句を口にした騎士に真奈は軽く目を細めた。