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王妃様の副業  作者:
15/40

王妃さまと後宮5

震える背中は彼女がどれだけの覚悟を持って今、この場に立っているかを凪に伝えてくれる。


涙を堪えて、逃げ出したいのを堪えて、ひなたは非難はおろか許可なく顔を見ても罰せられるほど身分が上の令嬢に真っ向から逆らっていた。

それはどれほどの覚悟だろう。

どれほど、怖いのを我慢して彼女は凪の前に立ってくれたのだろう。

ただ、凪を守るために。

彼女は命を懸けたのだ。


力などない。何も出来ない。………いや、なにも、していないお飾りの王妃などのために。

無意識の内に凪の拳が強く握り締められた。


「………なんですの?この侍女は………」


突然現れたひなたにリーダー格の令嬢の整えられた眉が不愉快そうに歪められる。

水仕事などしたことのない手が扇を広げ、口元を隠す。


「貴族に逆らうのですか。不愉快です。わたくし達の目の前から去りなさい!」


厳しい叱責にひなたの身体が震える。足はもう立っているのがやっとなのだろう。

次々に不敬を責められ去れと言われ、何度もその足は逃げ出しそうになる。だけどその度に彼女は頭を振ってその場にとどまる。

足も手も身体も何もかもが恐怖で震えている。


「もう、いい。逃げなさい」

凪の言葉にもひなたは従わない。ただただ頭を振って拒否を示すだけ。


「おまえ………わたくしの言うことが理解できないの?」

イライラしたように棘のある言葉を出す令嬢の一人にひなたはきゅうと唇を咬むと決意したように口を開いた。


「あ、貴方様こそ、ご、ご自分のされていることを理解されていますか?」


「なんですって?」


令嬢達の空気が一気に固くなる。


弱弱しかったひなたの声が徐々に強くなる。


「失礼を覚悟で申し上げます!王の正式な奥様でありこの後宮の主である凪さまに対してお三方の態度はあまりにも不敬かと!」


ひなたの言葉に出会った時、言っていた「力になる」という言葉が重なる。

あの時だけの気持ちではなく、ひなたは本当に凪の、お飾りといわれ続けている王妃の力になろうとしてくれていた。


「おまえ、それは本気で言っているの?」


力強いひなたの言葉に返ってきたのは嘲り。


「やだ。おかしい」


「ふふっ………後宮のこと、なぁんにも判っていない娘のたわごとですわね」


教えてさしあげましょうよと令嬢達はいかに凪が王妃にふさわしくないか………甘い言葉に包み話していく。


くすくすと嘲笑が響く。


だけどひなたはひかない。

涙を浮かべてもそれでも自分の言った言葉は撤回しない。

令嬢達の笑いが止まる。

人形のように無機質な表情を浮かべひなたをみて、そして一瞬の後には嫌悪感にあふれた表情を浮かべた。

一瞬だけ見せた無機質な表情。それは凪とひなたに肌があわ立つような感覚を与えた。

あれは人の浮かべる類のものではない。


そう、思った。


だが、それらは一瞬ですぐに彼女達の表情はひとが浮かべる感情に戻った。


「なに、その目は………!生意気ね!」


ひなたの目が気に食わないのか令嬢の一人が手を振りかざす。


「………っ!」


その手を払いのけることもできず呆然と見上げるしかないひなた。


今、ここで彼女が叩かれるのを見過ごしていいの?


力のない。馬鹿にされ続けている王妃。


だけど。


そんな王妃を守ろうとしてくれた。


馬鹿にされるのはおかしいと異を唱えてくれた。


そんな人が傷つけられるのを黙って見ていられるほど凪は………。


利口になんてなれやしない!


「やめなさい!」


思いもよらない人からの鋭い、誰も逆らうことのできない一喝に令嬢の手が止まる。


ひなたも令嬢達も信じられないものを見る目でその声を発した凪を見た。


気弱な王妃はそこにはいない。


誰よりも強い目で堂々と自分たちを見据える様は別人のよう。

纏う空気は鋭く発せられる威圧感に令嬢たちは無意識の内に一歩、後ろに下がった。


「王妃さま………」


「大丈夫。………ありがとう。あとは、私の戦い」


ぽんとひなたの肩を叩くとそのまま令嬢達の前に出る。

気弱な王妃の仮面は脱ぎ捨てて素の凪の表情で令嬢達を見渡す。


その視線の強さに令嬢達が怖気付いたようにまた、一歩下がる。そしてそんな自分たちの行動を隠すようになおさら目を険しくして凪を見据えた。


「な、なんですの?何か言いたいことがおありですの?」


どうにか威厳を保とうとしているがその声は震えが隠せていない。


王妃に気おされている。

その事実がどうしても認められない令嬢達は本能の警告を無視して対峙する道を選んでしまった。

本能は警告していたのに。


「これには勝てない」と。


格が違うとそう、悟っていたのに愚かにも歪んだ自尊心と優越感が彼女達の目を曇らせた。


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