王妃さまと後宮4
いくら疎まれ、寵愛など望めない立場とはいえ、腐っても王妃。
凪を蹴落としその立場に立ちたいと願う者は星の数ほどいる。
(・・・・だから引きこもってたのにな・・・)
子供の頃から山で遊んでいた(ナイフ一本で山に放置されたよ。愛情表現鬼畜な実の兄に三日も!)超健康優良児なのに病気がちだと嘘ついて部屋から出なかった。こんな展開になるって子供だって予想がつく。
「あ〜〜〜ら。王妃さま。ご機嫌よう。相変わらずなお姿ですわね〜〜〜」
背後から聞こえてきた厭味がタップリと含まれた女の声とそれに追従するような笑いが徹夜続きな上にネタを求める凪をウンザリした気分にさせる。
夜来の王族特有の闇のような黒髪は連日の締め切りラッシュで結い上げもせず地味な紐で結んでるだけ。纏うドレスは目の前の側室候補のきらびやかなドレスに比べたら質もお値段もかなり劣る。
そしてただでさえ地味な顔は徹夜でやつれ目の下の隈ができ、側室候補とその取り巻き達の嘲りを増長した。真奈の言う通り気分転換に散歩でもしましょうか~と暢気に考えた数分前の自分をなかったことにしたくなった。
「あらあら王妃ともあろうお方が随分とみすぼらしい恰好をなさっていますわね〜〜〜」
ねっとりと絡みつくような厭味に直ぐさま「王妃」としての顔を取り繕う。内心では毛の先ほど揺るいでなんかいないのに気弱で口答えなんか出来ない風を装う。黙って俯いた凪に次々と厭味が浴びせられる。
「夜来も本当に困ったものですわ。いくら美しく優秀な娘を手放したくないからといって凪さまのような方をわが国に嫁がせるなんて」
「本当になんて酷い」
「とてもじゃないですが凪さまと風葉さまとでは・・・・ねぇ?」
「あらダメよ。そんなこと言ったら」
「そうそう。本当のことは人を傷つけるのよ?」
次々に浴びせられる悪意に凪は傷つき震える演技をしながらも冷静に彼女らを観察する。
むくりと小さなネタの種が凪の中で芽を出す。
(育ちの良い上流階級の厭味・・・・あ、そうだ。あれをこうしたら………!)
厭味を言っている方もまさか相手が自分達を「ねた」として見ていることなど知らす、また王妃が自分達が熱狂的に愛読している恋愛小説の作者だとも気付かず王妃に「厭味」と言う名の「ねた」をタップリと提供してくれたのであった。
後日、発行された新刊の恋愛小説にばっちり彼女らがモデルの悪役キャラがでていたのだが彼女達が気付くことはなかったという。
殊勝な顔を作りながらも内心ホクホクな凪に気づかないお嬢様方のいやみは続く。
まぁ、凪の経験上、こういうお嬢様方は傷ついた顔を作って適当に聞き流していたら言うこと言って満足するものである。
適当な所で肩を震わしたり、泣きそうな顔を作ればなお一層よし。
(そろそろ厭味のネタも尽きたかなぁ~~~)
冷静に終わりを見極めていた凪だったがその後の展開はさすがに想像していなかった。
「あ、あのっ!そ、その!言い方は!お、お、おおおおおおおおっ王妃さまにっ!し、ししっ失礼だと思います!」
どもり噛みながらもそれでもその声は確かに目の前の令嬢達を非難し、凪を庇っていた。
嫁いてきてから今まで逆はあっても庇われたことなどない凪は驚きで固まる。
凪とネタ提供者であるお嬢様方の間に守るように割り込んできた小さな背中に凪の目が本気で丸くなる。
「こ、この方はこの国で一番尊い女性なんです!馬鹿にしちゃ駄目なんです!」
「あなたは…………」
涙いっぱいの瞳で今にも倒れそうなぐらい震えながらもそれでも精一杯、自分より目上の貴族相手に凪を庇うのはあの宴の日に出会ったひなたであった。