王妃さまと後宮1
「解せません」
「は?なにが?」
いつものように原稿を書いていた凪は手を止めて哀愁を漂わせ完成原稿を確かめていた真奈を見る。真奈はもう一度「解せません」と呟き、目の前の原稿に目をおとす。
「童話、本格歴史もの、恋愛ものに大人向けの表現過多な小説に推理もの・・・・なんでこんなジャンルバラバラなんですか」
「え?生活のために決まってるでしょ。えり好みなんて許される立場ではございませんから」
カリカリと羽ペンを動かしながら何でもない風に答える凪に真奈のため息がさらに深くなる。
「恋愛経験も男性と子作りをした経験もないのに何故こうも生々しい表現が書けるのですか・・・」
「妄想」
「・・・・・・・」
凪の迷いない答えに真奈は不覚にも黙り込んでしまう。
「後はうちの次兄の体験談?お相手の人達がなぜか微細漏らさず教えてくれたし」
「・・・・・・・・・」
次の故郷に送る定期連絡で凪様に卑猥なことを吹き込んだ馬鹿者の処遇と下半身が緩い第二王子のことを王家一家の家族裁判にかけてもらおう。
きっと素敵なお叱り(私刑)が行われることであろう。
「真奈・・・・なんか空気が黒いよ?」
「きのせいですわ。凪さま」
「ふ、ふ〜ん」
若干怯えた風な凪には真奈の背後にどす黒い空気がはっきりと見えた。
「で?何でいきなりそんな事を聞いて来たの?」
真奈の黒い空気は見ないことにしたらしい凪が書き終わった原稿を渡しながらそう聞けば原稿をチエックしつつ真奈も答える。
「出版社の人間に同じこと聞かれたのです」
「はい?」
こてんと首を傾げる凪に内心可愛いと悶えつつ真奈は淡々と語る。
「出版社には私が小説を書いていることになってますから。私の言動からこんな多種多様な小説を書くように見えないそうです。特に恋愛ものはどんな顔で書いているのか想像もつかないそうですわ」
確かに。無表情が基本で性格的にもク−ルで男など必要ないときっぱり拒絶する空気を持っている真奈が愛憎溢れたり純愛だったりする恋愛小説を書いていると思ったそりゃ驚くだろう。
「その場は何とか凌ぎましたが対外的に私が小説を書いていることになっているので本人に聞いてみようと思いまして質問させて頂きました」
「・・・・・・話はわかったけど今後どう答える気?」
先程の自分の発言に嫌な予感しかしなかったがそれでも凪は聞かずにはおれなかった。
「?妄想で書いている。または経験豊富な知り合いに細部に渡って取材をしていると答えます。」
当たり前のように答える真奈に凪は机に伏せた。
「せめて・・・・妄想じゃなくて想像にして・・・」
己が冗談混じりで言うのと真奈がいつもの口調で「妄想」と口にするのとでは周囲への影響力が違い過ぎる。
と、言うか真奈の綺麗な顔で「妄想してます」なんて言って欲しくない。
「?」
不可解そうな真奈を凪は必死に説得した。