十年間「結婚してくれ」と言い続けた幼馴染に、結婚式三日前になって「やっぱり無理だ」と婚約破棄されました
「リディア。やっぱり無理だ」
結婚式まで、あと三日。
婚約者のカイルは、私の家の応接室でそう言った。
私は机の上に広げていた紙から顔を上げた。結婚式で使う席順を、最後に二人で確認していたところだった。
「何がですの?」
「結婚だ」
「……誰の?」
「俺たちの」
思わず、カイルの顔をじっと見た。
冗談を言っているようには見えない。
「三日後の?」
「ああ」
「わたくしとカイルの?」
「そうだ」
「やっぱり無理?」
「……うん」
私は手元の紙を閉じた。
「少し待ってくださいませ」
「ああ」
「理解が追いつきません」
「そうだよな」
当然でしょう。
カイル・レイフォードは、十年間、私に「結婚してくれ」と言い続けた男なのだから。
最初に言われたのは、私たちが十歳のころだった。
庭で転んだカイルのひざに薬を塗ってあげたら、
「リディア、俺と結婚してくれ」
と言われた。
私は、
「嫌です」
と答えた。
十二歳のころ、花祭りで私が焼いた菓子を食べたカイルは、
「やっぱりリディアと結婚する」
と言った。
「嫌です」
と答えた。
十五歳になると、さすがに少し真面目になった。
「俺は本気だからな。十八歳になったら、ちゃんと申し込む」
「そのとき考えますわ」
「今考えてくれよ」
「まだ三年ありますもの」
十八歳になると、本当に両親を連れて我が家へやってきた。
侯爵家の長男と伯爵家の長女。
家同士としても問題はなく、私もそのころにはカイルが嫌いではなくなっていた。
むしろ、好きだった。
だから正式な婚約の話を受けた。
あのときのカイルは、私よりも喜んでいたと思う。
「やった!」
「カイル。まだご両親の前ですわよ」
「だって十年近く待ったんだぞ!」
「八年です」
「似たようなもんだ!」
そんな男だった。
婚約してからも変わらなかった。
新居をどうする。
庭には何を植える。
子どもができたらどんな名前にする。
食卓は丸い方がいいか、長い方がいいか。
結婚式は春がいいか秋がいいか。
私よりも楽しそうに準備をしていた。
その男が、結婚式三日前になって、
「やっぱり無理だ」
と言っている。
「確認します」
「うん」
「好きな女性ができました?」
「違う」
「わたくしを嫌いになった?」
「違う」
「借金?」
「ない」
「病気?」
「健康だ」
「実はものすごく遠い国へ行くことになったとか」
「ならない」
「では、何ですの?」
カイルは黙った。
私は待った。
昔からカイルは、言いたいことがあるのに言葉にできなくなると、右手の親指を握るくせがある。
今もそうしていた。
「カイル」
「……怖いんだ」
「何が?」
「君の夫になるのが」
予想していなかった答えだった。
「わたくしの夫に?」
「ああ」
「十年間、なりたいとおっしゃっていたのに?」
「分かってる」
「三日前になって?」
「分かってる!」
カイルが大きな声を出した。
すぐに顔を伏せる。
「……ごめん」
「何が怖いのです?」
「それは」
また黙る。
私はもう一度待った。
けれど、今度はカイルが首を振った。
「うまく説明できない」
「では、結婚を少し延ばします?」
「いや」
「一週間?」
「違う」
「一か月?」
「そうじゃないんだ。俺は……結婚しない方がいいと思う」
「誰と?」
「君と」
「どうして?」
「君を不幸にしたくない」
今度は、私が黙った。
「わたくしは不幸になると言いました?」
「言ってない」
「では、なぜ不幸になると?」
「俺がそうするかもしれないからだ」
「だから、わたくしとは結婚しない?」
「ああ」
意味が分からなかった。
けれど、一つだけ分かったことがある。
カイルは迷っているのではない。
もう決めてきたのだ。
「承知しました」
私は左手から婚約指輪を外した。
机の上に置く。
カイルが目を見開いた。
「……え?」
「婚約を解消しましょう」
「リディア」
「カイルが結婚したくないのでしょう?」
「いや、結婚したくないというか」
「ですが、結婚しない方がいいとおっしゃいました」
「そうだけど」
「では、そうしましょう」
私は立ち上がった。
「結婚式については、わたくしの家から中止の連絡をいたします。費用については両家で話し合いましょう。招待した方々にも謝罪が必要ですね」
「待ってくれ」
「何でしょう」
「……それだけ?」
「それだけ、とは?」
カイルは困った顔をした。
「止めないのか?」
「誰を?」
「俺を」
「なぜ?」
「いや……」
「カイル」
私は彼を見た。
「十年間、あなたはわたくしと結婚したいと言い続けました」
「ああ」
「そして今日、結婚したくないと言いました」
「だから、そういう意味じゃ」
「どんな意味であっても、結婚しないと決めたのでしょう?」
「……ああ」
「なら、わたくしにできることはありません」
カイルは何も言わなかった。
「三日前で良かったですわ」
「良くないだろ」
「結婚した翌日に言われるよりは、ずっと」
それには返す言葉がなかったらしい。
「十年間、ありがとうございました」
「そんな言い方するなよ」
「では、何と?」
「……分からない」
「わたくしも分かりません」
本当に分からなかった。
十年間、結婚したいと言い続けた男との最後の会話として、何が正解なのか。
だから私は、それ以上何も言わなかった。
結婚式は中止になった。
当然、大騒ぎだった。
招待客は百人を超えていたし、料理も花も衣装も準備が終わっている。
幸い、カイルは自分の都合で婚約を解消したと正式に発表した。
私に悪いところはないとも言った。
おかげで変なうわさは広がらなかった。
ただし、
「十年も追いかけておいて三日前に逃げた男」
という別のうわさは広がった。
それについては、私にはどうしようもなかった。
「本当に、理由を聞いていないの?」
妹のミアに何度目か分からない質問をされ、私は薬草を細かく切りながら頷いた。
「夫になるのが怖くなった、とだけ」
「意味が分からない」
「わたくしもです」
「姉様は怒ってないの?」
「怒っていますわ」
「見えないけど」
「薬草に八つ当たりするわけにもいきませんもの」
私は子どものころから薬草が好きだった。
病気を治すような大げさなことはできないけれど、眠りやすくなるお茶や、手荒れをおさえる薬を作ることはできる。
結婚後も続けるつもりだった。
カイルもそれを知っていて、新居には小さな温室まで作ってくれていた。
「ここなら結婚しても好きなだけ研究できるだろ」
そう言っていた。
あのときの笑顔は嘘ではなかったと思う。
だから余計に分からない。
三日前に、何があったのか。
「姉様」
「はい」
「まだ好き?」
手が止まった。
「誰を?」
「カイル様」
「……質問が意地悪ですわ」
「ごめんなさい」
私は小さく息を吐いた。
「好きです」
嫌いになれたら楽だった。
十年間一緒にいた。
私が泣いたときも、笑ったときも、腹を立てたときも知っている。
好物も嫌いな食べ物も知っている。
カイルが雷を怖がることも、馬に乗る前は必ず左のくつからはくことも知っている。
「でも、好きだから結婚できるとは限りません」
私はそう言って、また薬草を切った。
婚約解消から一か月が過ぎたころ。
カイルは、母であるレイフォード侯爵夫人の部屋にいた。
「あなた、本当に馬鹿ね」
母親に言われ、カイルはうなずいた。
「知ってる」
「いいえ。たぶん、まだ分かっていないわ」
母は昔使っていた絵の道具を机の上に並べていた。
古い筆。
固くなった絵の具。
小さな木の箱。
カイルが子どものころ、一度だけ見たことがある。
「母上は、絵が好きだったんですね」
「ええ」
「どうしてやめたんです?」
「あなたのお父様に言われたからよ」
「父上に?」
「侯爵夫人になったのだから、絵なんて描いている時間はないだろう、と」
悪意のある言い方ではなかったという。
父は母を大切にしている。
服も宝石も買う。
体調が悪ければ医者を呼ぶ。
寒い日は外へ出なくていいと言う。
危ないから一人で街へ行くなと言う。
友人と旅行したいと言えば、侯爵夫人が長く家を空けるのは良くないと言う。
絵を描きたいと言えば、そんなことをしなくても暮らしていけると言う。
「お父様は、私を不幸にしようとしたわけではないわ」
母は古い筆を手に取った。
「むしろ、幸せにしようとしていたのでしょうね」
「……でも、母上は幸せじゃなかった?」
「幸せなこともたくさんあったわ。あなたが生まれたときなんて、本当に嬉しかった」
「なら」
「でも、それとこれは別よ」
母は笑った。
「私が絵を描くかどうかは、私が決めたかった」
それが、カイルが結婚を怖くなった始まりだった。
結婚式の五日前。
父が新居を見に来た。
リディアのために作った温室を見て、
「これは何だ?」
と聞いた。
「リディアの温室です。結婚したあとも薬草を育てたいそうなので」
「結婚したあとも?」
父が笑った。
「必要ないだろう」
その一言が、カイルの胸に残った。
「侯爵夫人には他にすることがある。妻が遊びに夢中になっていては家の者に示しがつかん。結婚したらやめさせなさい」
「でも、リディアは好きで」
「だからこそだ。妻が間違ったことをしそうなら、夫が止める。それも夫の役目だ」
父は当たり前のことのように言った。
その夜、カイルは眠れなかった。
父と母のことを考えた。
そして自分とリディアのことを考えた。
新居を決めたのは誰だった?
自分だった。
結婚式の日を決めたのは?
自分が春がいいと言った。
庭に植える木は?
自分が選んだ。
リディアはいつも笑って、
「カイルの好きな方で」
と言っていた。
もしかしたら。
自分も父と同じなのではないか。
今は温室を作ってやりたいと思っている。
でも結婚して十年、二十年と過ぎたら?
薬草をやめろと言うかもしれない。
友人に会うなと言うかもしれない。
危ないから外へ出るなと言うかもしれない。
自分が守ってやる。
自分が幸せにしてやる。
そう言いながら、いつかリディアから大切なものを奪うかもしれない。
考えれば考えるほど怖くなった。
そしてカイルは、一人で答えを出した。
自分が夫にならなければいい。
リディアを自由にしてやればいい。
だから婚約を解消した。
母はそこまで聞いたあと、深くため息を吐いた。
「それであなたは、お父様と同じことをしたのね」
カイルは顔を上げた。
「俺が?」
「ええ」
「違います。俺はリディアの自由を」
「誰が自由にしてほしいと頼んだの?」
言葉が止まった。
「リディアさんは、あなたと結婚したくないと言った?」
「……言ってません」
「薬草をやめさせられるのが怖いと言った?」
「言ってません」
「あなたがお父様のようになると思っていた?」
「それも……」
「では、全部あなたが決めたのね」
カイルは何も言えなくなった。
「お父様は『妻のため』と言って、私が何をするか自分で決めた。あなたは『リディアさんのため』と言って、結婚しないことを自分で決めた」
「……」
「反対を選んだだけで、やっていることは同じでしょう?」
頭を殴られたような気がした。
「俺は……」
「怖くなったことを責めているのではないわ」
母は言った。
「結婚なんて、怖くなって当然よ。ずっと一人だった二人が、これから何十年も一緒に暮らすのだから」
「なら、どうすればよかったんです」
「聞けばよかったでしょう」
「誰に?」
母が呆れた顔をした。
「リディアさんに決まっているでしょう」
婚約解消から五週間後。
カイルが我が家へやってきた。
父が追い返そうとしたけれど、私は会うことにした。
応接室へ入ってきたカイルは、少しやせていた。
「久しぶりですわね」
「うん」
「今日は何のご用です?」
「謝りに来た」
「婚約を戻したいと?」
「……それは言わない」
「そうですか」
「まず謝らせてくれ」
私は椅子へ座った。
「どうぞ」
カイルは向かいには座らなかった。
立ったまま頭を下げた。
「ごめん」
「何についてでしょう」
「結婚式を三日前に中止したこと」
「はい」
「ちゃんと理由を話さなかったこと」
「はい」
「君がどうしたいか、一度も聞かなかったこと」
そこで私はカイルを見た。
「最後のものが、一番腹が立っています」
「……うん」
カイルは、母親から聞いた話を全部教えてくれた。
自分の父親と母親のこと。
温室を見た父親から言われたこと。
自分もいつか同じようになるのではないかと怖くなったこと。
だから私を自由にした方がいいと思ったこと。
最後まで聞いた私は、しばらく黙っていた。
「なるほど」
「それだけ?」
「では怒りましょうか?」
「いや」
「カイル」
「うん」
「あなたは馬鹿です」
「母上にも言われた」
「そうでしょうね」
「本当にごめん」
「わたくしは、あなたのお父様と結婚する予定だったのではありません」
「分かってる」
「分かっていませんでしたでしょう?」
「……うん」
「それに、もしあなたが結婚後に薬草をやめろと言ったら、わたくしが素直にやめると思います?」
カイルが顔を上げた。
「思わない」
「でしょう?」
「たぶん怒る」
「怒ります」
「三日は口をきいてもらえない」
「一週間です」
「そんなに?」
「内容によります」
カイルが少しだけ笑った。
私も笑いそうになったけれど、まだ笑わなかった。
「でも」
私は続けた。
「本当に怖かったのでしょうね」
「ああ」
「なら、怖くなったことは怒りません」
カイルの顔が少し明るくなる。
「ですが」
「はい」
「どうしてわたくしに言わなかったのです?」
また顔が曇った。
「格好悪いと思った」
「何が?」
「十年間も結婚してくれと言っておいて、三日前に怖いなんて」
「格好悪いですわね」
「そこは否定してくれよ」
「事実ですもの」
「うん……」
「でも」
私は手を組んだ。
「三日前に怖いと言われるのと、三日前に捨てられるのでは、まったく違います」
カイルは何も言わなかった。
「あなたが『怖い』と言ってくれたなら、わたくしは一緒に考えました」
「うん」
「結婚式を延ばしてもよかった」
「うん」
「あなたのお母様とも話したでしょう」
「うん」
「結婚後のことを、もっと細かく決めてもよかった」
「うん」
「でも、あなたは全部一人で決めました」
「……ごめん」
「十年間、あなたはわたくしに結婚してほしいと言いました」
「うん」
「ようやくわたくしも同じ気持ちになったのに、最後の最後で、わたくしには何も決めさせてくれなかった」
言っているうちに、少しだけ声が震えた。
カイルが一歩近づいた。
けれど、途中で止まった。
「触ってもいい?」
思わず顔を上げた。
いつものカイルなら、きっとすぐに手を握っていた。
「……今日は駄目です」
「分かった」
本当に、それ以上近づかなかった。
「リディア」
「はい」
「婚約を戻してほしいとは言わない」
「そうしてください」
「でも、もし許してくれるなら」
カイルは少し迷った。
「また、君と話してもいい?」
「それは、わたくしが決めていいのですか?」
「ああ」
「でしたら」
少し考えた。
「たまになら」
「ありがとう」
「まだ許していませんからね」
「知ってる」
「結婚するとも言っていません」
「それも知ってる」
「では、今日はお帰りください」
「分かった」
カイルは素直に帰った。
昔の彼なら、
「もう少しだけ」
と言っていたと思う。
少しだけ、変わったらしい。
それから、カイルはときどき我が家へ来るようになった。
最初は十日に一度。
次は一週間に一度。
会いたいと言われた日に私の予定があれば、
「では、また今度」
と帰った。
以前なら、
「少しくらいいいだろう」
と言っていた。
「ずいぶん聞き分けが良くなりましたわね」
ある日そう言うと、カイルは苦い顔をした。
「自分でも気持ち悪い」
「前より良いです」
「褒められてる気がしない」
「褒めております」
半年ほどたった。
私は王都の薬草研究所で働くことになった。
結婚する予定だったころは、家で研究を続けるつもりだった。
けれど婚約がなくなったことで、せっかくだから外へ出てみようと思ったのだ。
父も賛成してくれた。
その話をカイルにすると、
「遠いな」
と言った。
「馬車で一時間ほどです」
「毎日?」
「はい」
「危なくないか?」
「護衛もおります」
「でも」
そこでカイルは口を閉じた。
「何です?」
「……いや」
「言ってください」
「心配だ」
「そうですか」
「でも、やめろとは言わない」
「はい」
「君が行きたいんだろ?」
「行きたいです」
「じゃあ、応援する」
私は思わず笑った。
「何?」
「いいえ」
「何か変だった?」
「少し前なら『危ないからやめろ』と言っていたかもしれませんね」
「……言ってたな」
「ええ」
「直します」
「全部直さなくてもいいですわ」
「え?」
「心配することまでやめられたら、それはそれで寂しいです」
カイルは困った顔をした。
「難しいな」
「人と一緒に生きるのですもの。簡単ではありませんわ」
その言葉を言ってから、私は少しだけ驚いた。
カイルも気づいたらしい。
でも何も言わなかった。
ただ、嬉しそうに笑った。
婚約を解消してから、ちょうど一年がたった。
春だった。
私はカイルに呼ばれて、昔よく遊んだ丘へ来ていた。
十歳のころ。
最初に「結婚してくれ」と言われた場所でもある。
「懐かしいですわね」
「覚えてる?」
「あなたが転んで泣いていた場所でしょう」
「泣いてない」
「泣いていました」
「泣いてない」
「では、そういうことにしておきます」
カイルは笑った。
それから急に、真面目な顔になった。
「リディア」
「はい」
「聞きたいことがある」
「どうぞ」
カイルは息を吸った。
私は、たぶん何を言われるのか分かっていた。
「俺は今でも、君と結婚したい」
「はい」
「でも、今度はそれだけじゃなくて」
カイルは私を見た。
「リディアは、どうしたい?」
十年間。
この人は何度も言った。
俺と結婚してくれ。
俺と結婚しよう。
大人になったら結婚するからな。
私がどうしたいかを聞かれたのは、もしかすると初めてだった。
「少し考えても?」
「もちろん」
「一年ほど」
「長い!」
「冗談ですわ」
「やめてくれよ……」
カイルが胸を押さえた。
私は笑った。
「わたくしも、カイルと結婚したいです」
今度は彼が固まった。
「……本当に?」
「はい」
「もう一回言って」
「嫌です」
「そこをなんとか」
「十年間、あなたから聞かされましたので、一回で十分でしょう」
「俺は何回でも聞きたい」
「欲張りですわね」
「駄目?」
「駄目です」
そう言いながら、私は手を差し出した。
カイルはすぐには握らなかった。
「触ってもいい?」
「はい」
ようやく手が重なった。
その日のうちに婚約を戻したわけではない。
両親にも話した。
結婚後も私は仕事を続けること。
大きなことは二人で決めること。
どちらかが嫌だと言ったときは、理由を聞くこと。
そして、分からないときには勝手に答えを出さないこと。
二人でいくつもの約束をした。
結婚式の日も、今度は二人で決めた。
前よりずっと小さな式だった。
それでもカイルは、三日前からそわそわしていた。
「カイル」
「何?」
「まさか、また怖くなったのでは?」
「怖い」
今度はすぐに答えた。
私は少し驚いた。
「怖いのですか?」
「結婚したあと、失敗するかもしれない。君を怒らせるかもしれない。父上みたいになることもあるかもしれない」
「はい」
「でも、そのときは言ってくれ」
「何を?」
「嫌だって」
「言われなくても言います」
「知ってる」
「それでも結婚します?」
「したい」
「わたくしもです」
カイルが笑った。
私も笑った。
十年間「結婚してくれ」と言い続けた幼馴染は、最初の結婚式の三日前になって逃げた。
その一年後。
彼はもう一度、私と結婚した。
今度の結婚式は、三日前になっても中止にはならなかった。
何しろ今度は、二人で決めた結婚だったのだから。




