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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

黙れ!勇者!

作者: 伊藤@
掲載日:2026/08/13


 幼馴染みだったマーカスが魔王を倒して英雄になった。

 平和を取り戻してくれて、とても素晴らしい偉業だと思う。素直に村の皆と一緒にありがとう!良くやってくれた!と感謝している。

 勇者になったマーカスを村の広場で村の皆と出迎えたら。

 

「レミリア!俺、この国の王女と結婚することになったから!」


 わざわざ田舎に帰ってきて皆の前で言う事なのだろうか。村の皆もざわつく。


「へぇーおめでとう、良かったね」


 私の返事にムッとした顔をする。え、なんでマーカスがそんな顔するのか不思議なんだけど、強いて言うなら、この腐れ縁が終わることに祝杯をあげたいくらいなのに。


「え?それだけ」

「は?他に何か?あ、お祝いでも欲しいの?」

「ちげーよ!お前、俺の事を好きだったろ?だから…」

「え?何言ってんの?」

「は?」

「やだ、まだ勘違いしてんの?」

「え?」

「私が前から好きなのはマーカスの一つ下の弟のマージスだし、と言うか聞いてないの?」

「え?え?何…」

「私とマージスもう半年前に結婚してるんだけど」

「は?!何だよそれ!俺がなんの為に三年間頑張ったと思ってんだよ!てか何浮気してんだよ!!」

「は?それこそ昔から付き合ってもいないのに勝手に妄想彼女扱いされてキモいんだけど!」


 キモいと言われて心に特大の打撃を受けるマーカス。


「この際だから言うけど、昔から付き纏われて迷惑してたんだけど、口で言っても照れてるだけとか謎解釈されるし、俺は分かってるとか、村に変な噂を撒き散らすし、本当最低!」


 フンッと鼻息荒くマーカスを睨見つけると騒ぎを聞きつけ駆けつけたマージスが私を守る様にマーカスの前に立つ。


「兄さんなにしに帰ってきたんだよ」

「なにしにって…お前」


 マーカスよりも一回りもデカいマージスに驚いている。そりゃマーカスが旅に出る前はひょろっとしてたけど今では村一番いや近隣で一番の猟師だ。


「嘘だ、こんなの違う、幼馴染みのレミリアは俺の事が好きで…なんで?ラノベと違うじゃん…」


 青い顔をしてブツブツと独り言を呟いてる。ハーレムがどうとかラノベがどうとか、昔からマーカスは変わっていて誰も理解出来ない独り言ばかり呟いて気味悪がられていた。

 近所に住んでいるからと理由だけで幼馴染み扱いされて付け回されて、マーカスの両親も何度も謝ってくれたしマーカスに付きまといを止める様に言っても聞きもしない。

 兄が変人でマージスは物凄く苦労してきた、虐められてたのを見かけ助けたのが切っ掛けでお互いマーカスに迷惑掛けられ同志から恋になって愛になって今はかけがえのない人だ。


「何でだよ!何でだよ!ラノベの通りに魔王倒したから、今はもう第二章になんだよ!俺のパーティーにお前と王女が一緒になって旅に出るんだよ!決まってんだよ!」


 口から泡を飛ばして喋りまくるマーカスに私はブチギレて怒鳴った。


「煩いわ!」


 ビクッと体を震わせてマーカスが口を閉じた。


「昔からラノベがどうとか煩いんだよ!なに、そのラノベっていう何か得体の知れない事の通りにしたら魔王が倒せたっていうならマーカスじゃなくても倒せたんじゃないの?

 そもそも私アンタの事嫌いって何度も言ってるよね、聞こえてないの?それとも記憶する脳味噌がないの?」

「うっ煩い煩い煩い!お前は黙って一緒についてくればいいん…ブヘェ」


 言い終わる前にマージスの拳がマーカスの腹にめり込んだ。

 マージスのワンパンでマーカスが悶絶して土の上で転がっている。


「レミリア、こいつに何言っても無理だわ」

「そうね、昔から人の話聞かないものね」

「なんでだよお…なんでマージスがこんなに強いんだよぉ…」


 マーカスはヨロヨロと立ち上がり泣き喚きながら腰に下げている剣に手を掛け…。





□□□□□


 王宮から田舎の村に、マーカスを迎えに使者が到着した。


「マーカスなら旅立ちました」


 王宮の使者にマーカスの父親は伝えた。


「なんでも次のラノベが始まったとか言ってそのままふらりと村から出ていきました。昔から変な事を言う息子でしたから…」


 使者達は目配せをしてマーカスの父親に金貨の詰まった袋を渡し、王様のお言葉を伝えた。


『これから先、マーカスが第一王女と婚姻するというありもしない妄言を広める事のないように』


 父親は真っ青になり使者に何度も頷き誓った。

 使者はマーカスを迎えに来たのではなく口封じしに来たのだろう。何故マーカスが一人で村に帰ってきたのか理由が分かった。

 王宮でも昔と同じ様に気味の悪い言動をしたのが目に浮かんだ。

 使者達が見えなくなるまで外に立ち尽くしているとマージスとレミリアが帰ってきた。

 立ち尽くす父親を労る様に一緒に家の中へ入る時、三人はそっと庭の隅を見つめ無言で玄関を閉めた。

 

 それから程なく勇者の家族だった者達は隣国へ引っ越して行った。父親と母親と次男と次男の嫁はもっと早くこうしておけば良かったねと話し合いながら穏やかに引っ越していったそうだ。


 村の皆で勇者の実家を取り壊して今は跡形もなく…。誰も庭の隅を見ようとはしない。


 




□□□□□


 マーカスはヨロヨロと立ち上がり泣き喚きながら腰に下げている剣に手を掛け剣を抜いた。

 癇癪を起こした子供みたいに剣を振り回し村人をレミリアをマージスを斬り殺そうと追いかけた。

 悲鳴を上げて逃げる村人を奇声をあげながら追いかけ。


「アースウォール」


 マーカスの足元にレミリアが土魔法で段差を作った、勢い躓いて転んだマーカスは振り回していた剣がそのまま腹に突き刺さり、獣の様な悲鳴を上げて倒れ込んだところをマージスが斧で頭を叩き割った。

 これが勇者かと思うくらいに呆気なく皆ポカンと頭を叩き割られたマーカスを見つめた。

 じわじわと染み出る真っ赤な血はどんどん広がってゆく。

 村の男衆は実家の庭を掘るのを手伝い、手伝い終わると皆無言で帰って行った。

 村の広場の血も数日降った雨で洗い流された。


 誰も何も言わない。

 言ったところで誰も。

 皆が皆、心の底にマーカスを沈めて生きる事を選んだ。

 もしも血を流し頭を割られたマーカスが頭の中で騒ぎ立てたら、そんな時はこう言えばいい。


「黙れ!勇者!」


 勇者は沈黙するだろう。

 永遠に。




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