紅妖奇譚14
――家族に会いたい。
佳奈の願いは、それだけだった。
けれど、死んで霊となった今、それはひどく難しい願いでもあった。
「――そうだ! 緋色が大垣に使った、あの札は!?」
名案を思いついたとばかりに、葵が顔を上げる。
だが、緋色は残念そうに首を振った。
「前にも言ったでしょ? あれ、試作品だって」
「あの札の効果には個人差があるの。しかも、かなり大きい」
緋色は指を折りながら説明する。
「そもそも札を貼っても見えない人が大半。見えたとしても、数秒しか保たない人もいれば、数日もつ人もいる。本当にばらばらなのよ」
大垣が霊を見られるようになったのは、ただ運が良かっただけ――
いや、大垣の場合は“運が悪かった”と言うべきだろう。
「おじいちゃああああ。どうしよう〜」
緋色が浅葱にしがみつく。
「ええい、引っ付くでない!」
そう言いながらも、浅葱は緋色を振り払わない。
「まあ、方法はいろいろあるが――まずは斎藤嬢の家を知らねば話にならん」
浅葱は腕を組み、落ち着いた声で続ける。
「明日学校へ行った時に、誰かに住所を聞いてこい。それから次を考えよう」
翌日も学校は臨時休校になっていた。
とはいえ、教師たちは警察やマスコミの対応に追われているらしく、校内は妙に慌ただしい。
校舎自体は開いていたため、葵と緋色は堂々と保健室で竹内先生を待つことにした。
正午を少し回った頃、保健室の扉が開く。
入ってきた竹内先生は、見るからに疲れ切っていた。
そのままベッドへ倒れ込むように座り込み、恨めしそうに二人を見る。
「……あなたたち、今日は学校休みよ」
「大変そうですね」
葵が声をかけると、それを合図にしたみたいに竹内先生が堰を切って話す。
「大変なんてもんじゃないわよ! 警察の事情聴取やら、マスコミの聞き取りやら……! 養護教諭なら生徒の悩みを聞いてたんじゃないんですか、って、そんなの全部知ってるわけないでしょ! うっせえわよ、ばーか!!」
竹内先生は枕をぼすぼす殴る。
……教師も教師で、大変らしい。
この事件に多少なりとも関わっている身としては、とばっちりを受けている竹内先生に少し同情した。
「……で、あなたたちは何しに来たの?」
思い出したように竹内先生が尋ねる。
葵は一瞬だけ緋色と目を合わせてから答えた。
「斎藤佳奈先輩と、少しだけ話したことがあって……。よかったら、線香をあげに行きたいなって思ったんです」
「そうだったのね」
竹内先生は少しだけ表情を和らげた。
「お葬式はもう終わったけど、家に行けば線香くらいはあげられると思うわ。行ってあげなさい」
「住所はご存じですか?」
「知らないの?」
葵が頷くと、竹内先生は香典返しの袋の中を探り、挨拶状を一枚取り出した。
そこに書かれていた住所を、近くにあった紙へ書き写して葵へ渡す。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
葵と緋色はそろって頭を下げ、保健室を後にした。
家に帰ると、袈裟姿の浅葱が待っていた。
髪はきっちりと撫でつけられ、無精髭も綺麗に剃られている。
年寄りとは思えない体格のよさも相まって、妙に迫力があった。
「住所は分かったか?」
「ばっちり」
葵と緋色はそろって親指を立てる。
浅葱は短く頷いた。
「――では、行くか」




