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MAGA×Maga  作者: 千崎桜子


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6/6

追放されたやつは、まだ何も知らない場所にいる 今のところは


門から、少し離れた場所。


街道沿いの森は、夜明け前の薄い霧に包まれていた。


木々の間を縫うように、影が動く。


人ではない。

獣でもない。


鱗に覆われた身体。

直立した二本の脚。

長い尾。


リザードマン――

その中でも、明らかに格の違う個体だった。


装備は粗末だが、動きに無駄がない。

周囲を警戒しながら、静かに歩を進めている。


その先頭が、低く唸る。


「……時刻だ」


言葉だった。


人語。

しかも、明瞭な発音。


背後の数体が、足を止める。


「門の反応は?」


別の個体が問う。


先頭は短く答える。

「変わりない、作戦に変更はない」


彼らは、門の内側の混乱を知らない。


知る必要もない。


決められた時間に、

決められた場所へ向かい、

決められた仕事をする。


それだけだ。


「目的は?」


「制圧ではない」

先頭が言う。

「破壊と略奪」

「門周辺の防衛力を削ぐ」


「次の夜が、本命だ」


低く、乾いた笑いが漏れた。


そのとき。


木々の影が、わずかに揺れた。


霧の中から現れたのは、

ありふれた冒険者の様な姿だった。


だが――

近づくにつれ、違和感が際立つ。


足音がしない。

呼吸の気配も薄い。


「……遅かったな」


先頭が言う。


その人影は、肩をすくめた。


「人間を装うのも簡単ではないのさ」


声は、人のものだった。

だが、どこか獣じみている。

月明かりが、顔を照らす。


徐々にその姿が変わる。


獣の耳。

鋭い犬歯。

そして、人の表情。


人間にその姿を変えることができる獣。

ライカンスロープ。


リザードマンたちは、それ以上の確認をしなかった。


彼らにとって、

命令は命令だ。


決められた時間に、

決められた場所で、

決められたことをやる。


それだけでいい。


ライカンスロープは、

荷馬車の列を一瞥する。


「合図は夜明け前だ」

「門が開いた瞬間に動く」


淡々とした口調。

そこに、迷いはない。


想定外を想定する気配も、

最悪を考える様子もなかった。


――必要ない、と信じている。



荷馬車の周囲には、

すでに簡単な結界が張られていた。


人間の目を誤魔化すためのものだ。

魔力は弱く、雑だが、

街道を行き交う程度の人間には十分。


木箱の中から、

かすかな音がした。


爪が擦れる音。

鱗が触れ合う音。


だが、それもすぐに止む。


「静かにしろ」


ライカンスロープが、低く言った。


「中で待て」

「合図までは、何もするな」


返事はない。

だが、従っているのは分かる。


従順で、使い捨ての駒。

それでいい。


ライカンスロープは、

森の奥へと視線を戻す。


この作戦は、

自分が立てたものではない。


もっと上。

もっと遠い場所で決められた、

“よくある”仕事だ。


街に直接攻め込まない。

支配もしない。


ただ、

壊して、削って、逃げる。


門の防衛。

迎撃装置。

人の動線。


それらを少しずつ壊していけば、

次は、もっと楽になる。


「……人間は、立て直すのが遅い」


ぽつりと、呟く。


だから、この街も同じだ。


一度、門が破られかけた。

一度、混乱が起きた。


それだけで、

次は必ず、隙ができる。


内部の細工役が、

仕事を果たしていれば――なおさらだ。


ライカンスロープは、

その点を疑わなかった。


疑う理由がない。


命令は届いている。

時間も合っている。

合図も決まっている。


それで十分だ。


「……準備は終わっている」


そう言って、

外套のフードを深く被る。


霧の向こうに、

街の輪郭が、ぼんやりと浮かんでいた。


まだ静かだ。

まだ何も起きていない。


だからこそ。


ここが、

いちばん静かな時間だ。




森の奥で、

何かが、静かに動き始めていた。


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