追放されたやつは、放っておくと後味が悪いので助けに向かう 向かいはする
門番たちに連れて行かれる憲兵。
「離しなさい!!」
「覚えてなさいよ!!」
完全に逆効果な捨て台詞。
その場に残された俺と、 呆然とする少女。
「……あの……」
少女が恐る恐る言う。
「私のせい、ですよね……?」
俺は、しばらく考えてから答えた。
「今回は特に何もしてないんだけどなぁ……」
「えっ」
「でも」
俺は肩をすくめる。
「なんかやった方がいい気はするし」
少女の目が、少しだけ輝いた。
「……助けてくれるんですか?」
「めんどくさいけどな」
そう言って、 俺は歩き出す。
門番詰所の方へ。
「行くかー」
「は、はい!」
後ろで、 少女が慌ててついてくる。
朝の空は、 昨日と同じくらい、 やけに静かだった。
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薄暗い部屋だった。
石造りで、装飾はほとんどない。
机を挟んで座っているのは、
門番の制服ではない女。
ゆったりした服装。
胸元は大胆に開いているが、だらしなさはない。
むしろ――見せることを前提に、完璧に整えられている。
脚を組み、肘をつき、
楽しそうにこちらを眺めていた。
「ふぅん……」
女は、手元の書類に目を落とす。
「憲兵の――クラリス・リーヴェルト」
「配属三年目。
巡回成績も良好。
規律違反も、ほぼ無し」
紙を置き、視線を上げる。
「真面目ねぇ。
融通は利かなさそうだけど」
「……それは、褒めているつもりですか?」
クラリスは、腕を組んだまま言った。
「もちろん」
女はにっこり笑う。
「嫌いじゃないわよ、そういう子」
「なら、早く解放してください」
「私は被害者です」
「ええ、ええ」
女は軽く手を振る。
「なら――」
「でもね?」
言葉を遮るように、
女は自分の胸元を、指でなぞった。
「門前において、
過度に破廉恥な服装をしてはならない」
さらりと、読み上げる。
「これは、うちの規定」
「理由は問わない。破廉恥な恰好をした、という事実がすべてよ」
「――誰が見ても“乱れた”と判断されるなら、それで終わり」
クラリスは、眉をひそめた。
「……それなら」
「あなたのその服装はどうなんですか」
一瞬。
部屋の空気が止まる。
門番たちが、そっと視線を逸らした。
女は――
一拍置いてから、笑った。
「あら」
胸を張る。
「これは、気品よ。エレガントさ」
「あなたの破廉恥な格好とは、違うわ」
「は?」
「年齢と立場と、着こなし」
「全部込みで成立してるの」
「若さ任せに破れるのとは、
話が違うのよ」
「……っ」
クラリスは、言葉に詰まった。
「……つまり」
「年増なら、いいってことですか」
「ふふ」
女は目を細める。
「経験からくる余裕、と言ってほしいわね」
「……」
「それに」
女は身を乗り出した。
「門番はね、
モンスターを止めるのが大事な、だいじなお仕事」
「だから、門前の空気が乱れるのは困るの」
「憲兵さんは、街の中を守ってくれてる」
「それは、感謝してるわ」
「でも――」
トン、と指で机を叩く。
「門前は、私たちの場所」
「秩序の線引きは、こちらがやる。それがこの街のルールーー」
沈黙。
クラリスは、唇を噛んだ。
「……理不尽です」
「ええ」
女はあっさり認める。
「だからこそ、守る意味がある」
立ち上がり、歩み寄る。
「安心なさい」
「命までは取らないわ」
「少しだけ――」
耳元で、囁く。
「恥をかいてもらうだけ」
「……っ!」
「門番長、ヴェロニカよ」
女は名乗った。
「覚えておきなさい」
「門の前では、
年齢も、立場も、
見せ方がすべてなの」
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門番詰所へ向かう道すがら、
少女は、少し落ち着かない様子で口を開いた。
「えっと……あの……」
「ん?」
「門番と、憲兵って……
同じ“街を守る人”ですけど、別なんです」
「ふーん」
「門番は、街の“外”を守る人で、
憲兵は、街の“中”を守る人なんです」
「役割分担か」
「はい。
なので……仲は、あんまり良くなくて……」
言いにくそうに、そう付け加える。
「どっちが偉いとかじゃないんですけど、
縄張り意識というか……」
「なるほどなぁ」
俺は相槌を打つ。
正直、どうでもいい。
「だから、さっきのも……」
少女は俯いた。
「門番の規定に引っかかった、っていうか……」
「規定は規定、か」
「はい……」
少し間が空く。
「あの」
少女が意を決したように言った。
「私、名前……」
「ん?」
「フィオナ、って言います」
「そっか」
「……えっと」
「あなたは……」
「俺?」
少し考えてから答える。
「名前、呼ぶほど親しくなったらでいいよ」
「えっ」
「どうせ、すぐ別れるかもしれないし」
フィオナは一瞬きょとんとして、
それから、少し困ったように笑った。
「……変な人ですね」
「よく言われる」




