追放されたやつと、正義感が強すぎるやつは、朝に揉めるらしい
朝だった。
城門付近は、昨夜の騒ぎが嘘みたいに静かで、
瓦礫も、焦げ跡も、
「まあ片付ければどうにかなるだろ」くらいの顔をして残っている。
俺は門の近くの壁にもたれて、
欠伸を噛み殺していた。
――そこで、視線を感じた。
「……あなた」
低めで、よく通る声。
振り向くと、
憲兵が立っていた。
髪は濃い色で、後ろでひとつに束ねている。
乱れはなく、一本も遊ばせていない。
顔立ちは整っているが、
それを自覚していないタイプだ。
あるいは、気にする余裕がない。
鎧の下の体つきは、
細身だが頼りなくはない。
余分な肉はなく、
動くために必要な線だけが残っている。
胸や腰の主張は控えめだが、
それが逆に目を引く。
派手さよりも、実用性を優先した体。
――近づいたら、
たぶん怒られる。
そう確信できる距離感で、威圧感だった。
「昨夜、門の近くにいたそうね」
開口一番、それだ。
疑う余地のない口調。
質問というより、確認。
「ああ、まあ」
俺は肩をすくめた。
「たまたま通りかかっただけだよ」
「たまたま、で済む状況じゃなかったわ」
視線が鋭くなる。
逃げ場を塞ぐやつだ。
ああ、これ。
面倒なやつだ。
「街が半壊しかけたのよ」
憲兵は続ける。
「死者が出なかったのは奇跡。
原因不明の魔道具暴走。
その現場に“たまたま”居合わせたあなたが、
無関係だと思う?」
「思わないけど」
俺は正直に答えた。
「関係あるとも思ってない」
「……は?」
「いや、なんかこう、
巻き込まれ体質というか」
「ふざけてるの?」
「割と真面目だよ」
眉間にしわが寄る。
あ、これ完全に逆効果だな。
「あなたみたいなのがいるから、
街の秩序が乱れるのよ」
「そう言われてもなぁ」
俺は空を見上げる。
「秩序って、勝手に壊れに来るし」
「……話を聞いてないわね」
「聞いてる聞いてる。
ただ、考えるとめんどくさいだけで」
「最低」
正論だと思う。
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――少し離れた場所。
少女は、門の脇で立ち尽くしていた。
装備は軽い。
まだ新しい。
鎧の擦れも、刃こぼれも少ない。
それでも、
背負っている荷物は重そうだった。
「……あの……」
声を出そうとして、
やめた。
ついさっき。
「お前、今回何もしてねぇよな?」
「足引っ張ってただけだろ」
「悪いけど、ここまでだ」
そう言われたばかりだった。
追放。
頭では理解している。
でも、胸がついてこない。
「……私、頑張ったんだけどなぁ……」
小さく呟いて、
門の方を見る。
なんだか、
揉めている人たちがいた。
綺麗な憲兵のおねえさんと、
どこか気の抜けた男。
――あ。
彼女は、気づいた。
地面に落ちている、
門の装置の部品。
昨夜の騒ぎで外れたものだ。
「これ……邪魔だよね?」
そう思って、
拾い上げて、
門の横に動かそうとして――
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カラン。
金属音。
それだけだった。
でも。
次の瞬間。
門の上部から、
固定が甘くなっていた部材が滑り落ち――
それが、
ちょうど。
憲兵の背後に。
「……?」
気配に気づいた彼女が振り向いた、その瞬間。
ガシャァン!!
部材が落ち、
鎧の留め具に引っかかり、
布を巻き込み、
勢いよく――
「っ!?」
バリッ。
嫌な音。
数秒後。
沈黙。
「…………」
憲兵は、固まっていた。
鎧の下の布は裂け、
露出してはいけない部分が、
堂々と朝日に晒されている。
「――な」
低い声。
「な、な、な、な……」
門番たちの視線が集まる。
「あっ!?」
少女が声を上げた。
「ご、ごめんなさい!
私、そんなつもりじゃ――」
「――猥褻物陳列」
門番の一人が、
事務的に言った。
「罪状、成立」
「は?」
「あちゃー」
憲兵と俺の声が重なった。
「ちょっと待って!」
憲兵が言う。
「不可抗力でしょ!?」
「不可抗力でも、
見えてはいけないものは見えています」
「理不尽すぎない?」
「門番規定です」
憲兵は、顔を真っ赤にして叫んだ。
「私は被害者よ!!」
「しかし、現状は犯罪者です」
――ガチャ。
手錠。
「なっ……!?」
「――連行します」
朝の城門が、凍りついた。




