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あまりに残酷で幻想な大地で、僕たちは優しさの使い方をまだ知らない  作者: 抄録 家逗


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生者の街、契約の刻

 廃墟のようなエリアを抜けた俺たちは、広い道に出た。

 舗装もされていない荒れた道だが、木々の影に囲まれた森よりは、歩きやすかった。鈍色の空は依然として重く、太陽の光はほとんど届かない。


 ミナは足取りが重く、時折立ち止まっては周囲を警戒している。

「……私、まだ怖い……でも、進まないと……」

 小さな声だが、意思の強さが滲む。


 クロは肩を押さえながらも、短剣を握ったまま前を歩く。傷はまだ癒えておらず、森で受けた爪の跡が動くたびに痛む。

 俺は剣を握り、二人を守るように周囲を警戒した。レオンも棒を握り、慎重に後方を確認する。


 道を進むうちに、遠くに建物の屋根や煙突が見えた。

 街――人が住む場所だ。生きた人間の気配が、森の静寂とはまるで違う。生者の匂いが、風に混じって鼻に届く。


「……人がいる……」

 ミナが小さく息を漏らす。生きた人間に会えることが、少しだけ希望の光のように感じられた。


 街に入ると、道には行商やギルドの看板が立ち並ぶ。人々の活気は、昨日までの死と恐怖の森とは対照的だ。だが、油断はできない。敵が潜んでいる可能性は、どこにでもある。


 俺たちはより賑わっている建物に足を運ぶ。大きな木製の扉には、錆びた金具と年季の入った文字で「ギルド」と書かれていた。


 中に入ると、カウンターの奥に大柄の男性が座っていた。鋭い目で俺たちを見つめる。

「ようこそ、ギルドへ。登録は初めてか?」

 声は低く、威圧的だったが、どこか公平さを感じさせる。


 俺たちは全員うなずく。

 肩の傷を押さえるクロ、震えるミナ、棒を握るレオン、そして俺は剣を握り直す。

 大柄な男性は、登録用紙を渡すと、記入を促した。


「PT登録か……四人のパーティだな?」

 俺が頷く。

「ええ、でも……いえ、仲間はこの四人だけです」

 会話もしていないまま死んでいった背の高い少年を思い出すが、それを言ったところで何も変わらない。

 男性は無言でうなずき、書類を作成する。


 登録の手続き中、人々の視線が気になった。誰もが警戒しているが、敵ではない。生者がここにいることだけで、俺たちは少しだけ安心した。


 手続きを終えると、ギルドの男性は言った。

「これでお前たちは正式なPTとして登録された。冒険者として活動できるが、この世界は甘くない。生き残るには戦う力も、知恵も、そして時には仲間を守る覚悟も必要だ」


 俺たちは黙って頷いた。

 森での恐怖、仲間の死、そして名前も知らぬ敵との戦い――その経験が、言葉以上に教えてくれた。


「……私、ちゃんと戦えるかな……」

 ミナが小さな声でつぶやく。

「大丈夫だ。俺たちがいる」

 俺が言うと、ミナは少し安心したように頷いた。クロもレオンも、ぎこちなく頷く。


 その日、街で初めての宿を借り、最低限の食事を取り、俺たちは体を休めた。肩や腕、脚の痛みだけでなく、心の疲労も押し寄せる。


 だが、夜が訪れると、鈍色の空に月が薄く浮かび、街の灯りが温かく揺れた。

 森とは違う。ここにはまだ、守るべきものがある。生きる理由がある。


 俺たちは、少しだけ希望を感じながら眠りにつく。

 敵は依然として世界のどこかに潜んでいるが、今日だけは――街に生きる者として、平穏を手にしたのだ。

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