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あまりに残酷で幻想な大地で、僕たちは優しさの使い方をまだ知らない  作者: 抄録 家逗


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赤封の依頼、未知の敵

 夕刻の喧騒が少しずつ引いていく中、ギルドの掲示板に貼られた一枚の赤い張り紙は、異様な存在感を放っていた。


 紅色の封蝋。

 太い黒字の文字。


《複数PT合同・緊急討伐要請》

《対象:大型魔物》

《場所:北東山岳地帯・廃鉱山周辺》

《報酬:銀貨百枚以上(分配)》


「……いきなり、跳ねたな」


 クロが低く呟く。

 ミナは思わず息を飲んだ。

「ひゃ、百枚……?」


 レオンは腕を組み、張り紙をじっと見つめている。


「場所が悪い。廃鉱山周辺……魔物が棲みつくには、十分すぎる条件だ」


 俺は無意識に喉を鳴らした。


 銀貨百枚。

 今までの依頼とは桁が違う。

 それだけ――“危険度も別格”ということだ。


「どうする?」

 クロが俺たちを振り返る。


 少しの沈黙が流れた。


 だが、誰も“やめよう”とは言わなかった。


 レオンが静かに言う。

「俺は、受けるべきだと思う」


「え……?」

 ミナが不安そうに聞き返す。


「今の俺たちの実力を、あれ以上は“机上”で測れない」

「実戦でしか、分からない領域に来ている」


 その言葉に、クロが小さく笑った。

「つまり……試金石ってわけだな」


 レオンは頷いた。

「生き残れるかどうかを測る試金石、だ」


 全員の視線が、自然と俺に集まる。


 俺は、剣の柄に触れた。


 七日間の修行。

 ゴブリンとコボルトの連戦。

 確かに、俺たちは強くなった。


 ――だが、“大型魔物”は別格だ。


「……逃げないって、決めました」

 ミナが、小さく、でもはっきり言った。


 クロも短く言う。

「やれる。今の俺たちなら」


 最後に、レオンが俺を見る。

「ショウタ。指示役は俺がやる。だが……最前線は、お前だ」


 俺は一度、目を閉じて――そして、開いた。


「……受けましょう」

「全員で、生きて帰る前提で」


 レオンは、満足そうに小さく頷いた。


 カウンターに向かい、レオンが赤封の受付を済ませる。


 受付の男は、証書を差し出しながら低い声で言った。


「覚悟はいいな。今回の対象は――“単体で小隊を壊滅させた”報告がある」


 ミナが小さく息を呑む。


「正体は未確認だが、現地の生存者証言では――」

「“巨体”“異様な再生能力”“咆哮で周囲の魔物が活性化”」


 クロが眉をひそめる。

「……厄介そうだな」


「合同PTは三組。集合は明朝、北門」

 受付の男は淡々と告げた。

「出発は日の出だ」


 俺たちは証書を受け取り、無言でギルドを後にした。


*****夜の街*****


 街の通りは、いつも通りに賑やかだった。

 酒場の笑い声。

 行商人の呼び声。

 子どもたちの駆け回る足音。


 だが、俺たちの胸の内は、どこか静まり返っている。


「……正直」

 ミナが、ぽつりと言った。

「さっきまで、銀貨二十五枚で喜んでいたのに……」


「百枚って聞いた瞬間、現実感が消えたな」

 クロが皮肉っぽく笑う。


 レオンは夜空を見上げ、静かに言う。

「報酬は、命の値段だ。高いほど、賭ける命も多い」


 俺は黙ったまま、歩き続けた。


 拠点に戻ると、すぐに装備の確認に入った。


 クロは刃こぼれを研ぎ直し、革鎧の留め具を締め直す。

 レオンは回復触媒と魔力結晶の残量を数え、呪譜を確認する。

 ミナは杖の先端に刻まれた魔術紋をなぞり、何度も深呼吸をした。


 俺は、自分の剣を膝の上に置き、静かに刃を撫でる。


 ゴブリンも、コボルトも――

 こいつが斬ってきた。


 だが今度の敵は、

 その“さらに向こう側”だ。


*****深夜*****


 明かりを落とした部屋で、誰もすぐには眠れなかった。


 ミナが、小さな声で言う。

「……明日、死ぬ可能性も……ありますよね」


 重たい沈黙。


 だが、レオンははっきりと答えた。

「ある。だが――だからこそ、全員で生きるために行く」


 クロが短く笑った。

「死ぬ前提で剣は振らねぇ。勝つ前提で振るんだ」


 三人の視線が、俺に集まる。


 俺は、静かに息を吸い込んで言った。


「……俺は、“守るために前に出る”って決めました」

「それが大型でも、変わりません」


 ミナが、安心したように小さく笑う。


*****夜明け前*****


 外が薄く白み始めた頃、俺たちは荷を背負って立ち上がった。


 北門へ向かう道は、まだ人影もまばらだ。

 冷たい朝の空気が、肺に沁みる。


 ――赤封の依頼。

 初の、合同PT。

 初の、大型魔物。


 この一戦で、

 俺たちが“どこまで来たのか”が試される。


「……行こう」

 レオンの一言で、全員が頷いた。


 俺たちは並んで、北門の影へ足を踏み出す。


 そこで待つのは――

 大量の銀貨か、

 それとも、命を賭けた地獄か。


 本当の“次の段階”は、すぐそこまで迫っていた。

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