再びのループと転校生 5/前
「なあ、理央」
「なんだい、健太郎」
若干拗ねた、悔しい。
一人で慌てたり焦ったりして恥ずかしい。
「俺が女の子と出掛けても、何とも思わねーの?」
口にしてからハッとする。
しかし後の祭りだ。
サーッと血の気が引いた、どうしよう、何言ってるんだこいつとか思われたら。
気持ち悪いって感じられたらどうしよう、バカなことを口走った、どうしよう!
「そうだね」
理央がフッと微笑み、俺に触れる。
柔らかな手の感触と温もりが伝わってくる。
「本音を言えば、少しだけ羨ましい、かな」
「へ?」
「だけど今、僕は君を独占しているから」
「なッ!」
そ、それってどういう意味だ?
今独り占めしているから気にしないとか、放課後は譲るとか、そういう意味なのか。
正解を言わないと勝手に妄想して期待するぞ!
「ッふふ!」
不意に理央はクスクスと肩を揺らす。
「本当に君はからかいがいがあるね、健太郎」
「へ?」
「随分と可愛らしいことを言うじゃないか、僕に妬いて欲しかったのかい?」
「ッな!」
カーっと顔が熱くなる。
咄嗟に「違う!」と叫んでしまった。
でも理央は笑うのを止めない。
恥ずかしい! ちくしょう好きだ、からかわれて嬉しい! 何だこの気持ちは!
「まったく、青くなったり赤くなったり、君は見ていて飽きないね」
「そ、それはッ、だぁッ!」
「よしよし、落ち着け、健太郎」
「くそッ、やめろよもう! 理央のッ、理央のぉッ!」
バカって言ってやりたいのに言えない、チクショウ!
ハハハと理央の高笑いに重なってチャイムが鳴った。
昼休みの終わりを告げる予鈴だ。
俺は顔は熱いし心臓はうるさいし、頭の中はメチャクチャで訳が分からない。
グルグルしながら唸っていると、理央に腕を掴まれ立ち上がらせられた。
「ほら、しっかりしろ、教室へ戻るぞ」
「ううーッ!」
「少しからかい過ぎたか、すまないな、そろそろ機嫌を直してくれ」
「理央ぉ」
「僕が悪かったよ、謝るから許して欲しい」
そして俺の背中をポンと叩いて、先に歩き出す理央について行く。
こっちばかり動揺してるな。
どうすれば理央に意識してもらえるだろう、俺も理央に赤くなったり拗ねたり、怒ったりされたいのに。
屋上の扉の近くまで来て足を止める。
ドアノブに手を伸ばそうとしていた理央が振り返って「どうした?」と訊いた。
「いや、俺と一緒だとさ、またファンクラブの子達に言われるだろ」
「え?」
そうか、理央は知らないのか。
最近たまに苦情を言われるんだ。
『距離が近過ぎる』だの『親しくし過ぎだ』だのと、放っておけって話だが、相手が女の子だとどうにも強く出られない。
それに彼女達も崇拝する理央を俺みたいなのがしょっちゅう連れ回して、面白くなかったんだろう。
薫のファンにも時々因縁つけられたし、同じ真理だと思えば分からなくもない。
だから極力刺激しないよう、丁度いい距離を保ちたいと思っているんだが。
「そんなことがあったのか、すまない、気にしなくていいよ」
「お前が謝ることじゃないって、それにあの子達も理央を好きなだけだ、俺と同じで」
理央が僅かに目を見開く。
ハッと失言に気付いて俺も仰け反った。
だ、ダメだッ! こんなどさくさ紛れみたいなタイミングで告白するわけにはいかない!
「健太郎、今、何と?」
「だっ、だから先に教室に戻ってくれ、俺もすぐ行く」
「待て、押すな、今何と言った?」
「早く行けって! 授業遅れちまうぞ!」
「健太郎!」
「行けって! 頼むから!」
力が入り過ぎないよう加減しながら理央の背中を押し続けると、ようやく「分かった」と先に行ってくれる。
ふう、あ、危なかった。
まだその時じゃない、俺には計画があるんだ、こんな形で誤爆して堪るか。
危ない、危ない、好きが溢れ過ぎて大事故に繋がるところだった。
理央の姿がすっかり見えなくなってから、さて、と気を取り直した。
急がないとこっちは本当に遅刻だ。
一緒に昼を過ごしてしまった方、戻りが別ならファンクラブの子達も見逃してくれるだろう。
弁当の包みを手に屋上から校内へ戻る。
ちょっとしたハプニングもあったが、久々に二人きりで過ごせて大満足だ。
なあ、薫。
俺は元気でやってるよ。
お前がいないのは寂しいけれど、毎日賑やかで落ち込む暇もないくらいだ。
誰よりも可愛くて、誰よりも格好いい、俺の自慢の幼馴染。
そんなお前の『王子様』として恥ずかしくない男に俺もなってみせる。
今はお互い遠い空の下で、それでも気持ちは繋がっているから、お互いに頑張っていこうぜ。
「大磯 健太郎」
階段を下りる途中で不意に名前を呼ばれた。
「貴様がそうなのだな」
階下からデカい姿がぬうっと現れる。
あれは、転校生?
呼んだのは奴か、どうして名前を知っている? 誰かに聞いたんだろうか。




