共鳴と転校生 3
「ケン、アンタ遅刻したんだから、何か奢りなさいよね」
今度は俺の腕を掴んでグイッと引っ張る。
そのままズンズン歩き出す朝稲に引きずられる俺、杉本もついてくる。
やっとデート開始だな。
しかし初っ端から大失態だ、これはどうにか挽回しないと。
今日がむしろ嫌な思い出になっちまったら目も当てられないどころか、本末転倒だ。
下手すれば俺の死も確定しかねない。
「とーぜんでしょ? いいわね!」
「オウ、そうね、健太郎は遅刻したから、そのペナルティってところかしら」
「ミキたちとはフルパラに行ったなら、アタシたちはフラシンね、異論は認めないから」
「フラシン?」
知らない様子の杉本に、朝稲に引きずられながら『フラシン』が何かを説明する。
『フラワーシングス』という店名の略称で、クリームたっぷりなパンケーキが売りのカフェのことだ。
料理もスイーツもSNS映えするから女の子に人気がある。
ちなみに、先週行ったフルパラも正式には『フルーツパラダイス』という。
「なるほど!」
杉本は理解した様子で「とても興味があるわ、是非行ってみましょう!」とニコニコする。
だが朝稲はそれを見て若干呆れた表情を浮かべた。
「てかさ、フラシン知らないって、杉本って普段何してるの? 謎なんだけど」
「私は主に絵を描いたり、造形をしたりしているわ」
「ふーん、そういやさ、この間なんかイベントやったんだって?」
「個展を開いたの、とても楽しかった!」
「へえ、どれくらい見に来たの?」
「十日間の開催で、七千人くらいだったかしら」
十日で七千!?
ってことは一日あたり七百人も来場したってことか、す、凄い。
朝稲も「へえーっ!」と目を丸くする。
「杉本、人気じゃん!」
「ウフフ! 朝稲さんも人気者でしょう? この前リブレリーで貴方を見たわ」
「えっ、どこ?」
「書店よ、雑誌の表紙を飾っていたじゃない」
「ああ、アレね」
それは俺も見た。
女の子向けのファッション雑誌で、朝稲がお洒落な服を着てポーズを決めていた。
あれ凄く良かったよな、モデルの朝稲は普段の朝稲と印象が違う。
可愛いところは変わらないんだが、オーラというか存在感というか、とにかくそういうのが半端なくて格好いい。
「まあ、アタシもそれなりに人気あるからね」
「シュペール! 素敵ね」
「ちょっとやめてよ、ねえケン?」
「俺からすれば二人とも凄いよ」
こんな有名人たちと友達だなんて鼻が高い。
二人もまんざらでもない様子で、やっぱり凄いよなあ。
「褒めても奢りはナシにならないよ! ほらっ、早く早くッ!」
朝稲が俺の腕をギュウッと抱きしめる。
―――実を言うとさっきからあたっているんだが、いいのか?
って! 杉本まで反対側の腕に抱きついてきた!
お、お、女の子二人に挟まれていい気分、いい匂い、遅刻したのにこんなご褒美いいんだろうか。
ふと脳裏に理央の姿が浮かんだ。
違う! こ、こ、これは決して、浮気では。
俺は親父とは違うから! 信じてくれ理央、不可抗力だ、だって跳ね除けるわけにいかないだろ!
理央ッ、ごめんって、理央ーッ!
気付くともうフラシンの前だ。
入店待ちの行列ができていて、俺達もその最後尾に並ぶ。
待っている間、回ってきたメニューを眺めつつ、先週末のデートの話を聞かれるまま答えていると、いきなり朝稲が「なにそれ!?」と大きな声をあげる。
「ちょっとケン、アンタ、アタシと杉本とは絶対に違うのを頼みなさいよ!」
「いいけど、何で?」
「しぇ、シェアするからに決まってるっしょ! せっかくだし色々と楽しみたいから! それだけ!」
「なるほど、そうだな、俺も色々試したい」
「フン、まあ当然よね」
「それなら私も健太郎と朝稲さんとは違うメニューを頼むわ、三人で食べさせ合いっこしましょう」
「うぐッ!」
朝稲、急にどうしたんだ、顔が真っ赤だぞ。
よく分からなくて杉本を見ると、杉本は杉本で何かを期待するような目を俺に向けてくる。
何なんだ、一体。
まあでもとにかく、それぞれ別のものを頼むことには賛成だ。
流石の俺でもパンケーキのセット三つなんて食いきれないかもしれないしな。
三種類の味を一度に楽しめるのはお得だ、是非そうしよう。
ようやく俺達の番が来て、店内へ案内された。
待っている間に決めておいたメニューを頼み、来るのを待つ。
朝稲と杉本は二人で一つのパンケーキ、プラスドリンクをそれぞれ一つずつ。
二種類頼まないのか。
まあ女の子は少食だもんな、ここのパンケーキって皿に五枚くらい盛った上からクリームを山ほど絞ってあるし、一人一皿だと別の意味でも障りあるんだろう。
俺は違う種類のパンケーキを一皿と、あと美味そうなバーガーもあったからポテトのセットにして、ドリンクも頼む。
「ケン、そんなに食べられるの? アンタここのパンケーキ舐めてるでしょ?」
「食えるよ」
「ウソ、来てから後悔しても知らないからね」
「健太郎の雄姿、楽しみだわ、頑張って!」
杉本、応援ありがとう。
そして朝稲、心配は無用だ、何故なら俺は既にこの店に何度も来たことがある。
―――主に薫が注文して、食べきれなかった分を処理する係として。
あいつ「カワイ~ッ」なんて頼む割に食いきれなくて、毎度世話を焼かされたよな。
今となっては懐かしい思い出だ。
向こうではどうしているだろう、俺がいなくて不便しているんじゃないか?
いつかまた、こうして薫ともパンケーキを食いに来られるといいな。




