友情と転校生 6
ベンチから立ち上がる虹川を見て、俺も腰を上げる。
「なあ、ちょっと疲れたしさ、ここらでお茶にしないか」
「おっ! 賛成! 私シレーナがいい!」
あのホイップモリモリのフラッペ風カプチーノを出す店か。
女の子って好きだよな。
けど俺も、あのカロリーの爆弾みたいな飲み物が定期的に恋しくなる。
「この前シーズン限定のが出たばっかりなんだよね」
ウキウキと話す清野に、虹川も「知ってる、私も気になってたんだ」と便乗する。
「愛原さんもシレーナでいいか?」
「う、うん」
「よし、じゃあ行こう」
四人で歩き出してすぐ、ウサギのぬいぐるみを抱えた虹川が俺の背中をツンツンとつつく。
視線を向けるとニコッと微笑みかけられた。
なんだかこそばゆい気分だ。
俺の手前を歩く清野はワンピースのスカートを軽やかに揺らして、愛原もラッピングされた包みを大事そうに抱えている。
今日のデートは大成功だな。
後で理央にも報告しよう、みんな満足してくれたみたいだって。
俺もめいっぱい楽しませてもらった。
「あ、そうだ、ねえ健太郎、今度も奢ってくれたりする?」
「こらリン」
「へっへへ~ッ」
「今度は奢らない、フルパラで腹いっぱい食っただろ」
「えーケチ」
「まあサイドメニューくらいなら奢ってやるよ、スコーンとかケーキとか」
「やった!」
もう、と呆れる虹川は、俺に「いいの?」と訊いてくる。
「いいよ、けど一つまでな、虹川さんと愛原さんも、フードも頼むなら一つまでなら奢るよ」
「私はいいよ、今日はもうたくさんもらったから、ちょっともらい過ぎちゃったかもだし」
「わ、私も」
「じゃあ私だけケーキ奢ってもらおっと、何にしようかな~」
「リンったら」
本当に清野は遠慮ってものを知らない。
でもまあ、虹川や愛原は俺に気を遣っているんだろうから、勝手にクッキーでも買って分けよう。
本当にいらないって言うなら俺が食べればいいし。
シレーナへ行って、一息ついて、その後も暫くあちこち店を見て回った。
俺は皆に気付かれないよう、こっそりハンカチを買ってラッピングしてもらう。
これは理央に。
ループしたから関係なくなっちまったが、あの時くれたハンカチのお礼だ。
はあ、家宝にする予定だったのに、今更だけど残念だな。
気付くと時刻は夕方近くなり、そろそろお開きにしようかって流れになる。
今日は本当に沢山遊んだなあ。
久々のウィンドウショッピングも楽しかった、そのうちまたこの四人で出掛けられるといいな。
「はぁ~あ! 今日は楽しかったぁ!」
ショッピングモールを出て、夕焼け色に染まった街を歩く。
清野のワンピースも茜色だ。
「そうだね、私もすっごく楽しかった! 皆、有難う」
「う、うん」
微笑む虹川に、愛原も頷く。
俺も大満足だ。
「ねえ、ところでさ、私達駅前のバス停からバスに乗る予定だけど」
「健太郎君は?」
「俺は散歩がてら歩き」
駅から家まで徒歩の距離だ。
それに夕飯の買い物をしにスーパーに寄らないとだしな。
「じゃあ、今だね?」
「そうだね」
「う、うん」
三人は目配せし合って頷き合う。
一体なんの話だ?
「「「せーの!」」」
同時に掛け声を上げて、清野が俺に何か差し出してくる。
綺麗にラッピングされたこれは、もしかして俺へのプレゼントか?
「最後は健太郎のだよ!」
「私達もプレゼントし合ったから、これは君へ」
「ぜ、全員で選んだんだよ」
「だから絶対気に入ると思う!」
断言する清野に、虹川と愛原がフフっと笑う。
「有難う!」
俺まで貰えると思ってなかった、嬉しいな、なんだろう?
受け取って包み紙を開くと、中から洒落たペンケースが出てきた!
「おっ、格好いい、これってもしかして革製か?」
「合皮だけどね」
虹川が肩を竦める。
それを受けて清野も「そーそー、そんなに高いもんじゃないよ」なんて俺に気を遣ってくれる。
「健太郎の分も私達で出し合って買ったから、有難く受け取って」
「ふふッ、今日はたくさん有難う、凄く楽しかった」
「う、うん、私も、楽しかったよ」
清野、虹川、愛原が、それぞれ俺に微笑みかけてくれる。
「こういう服もさ、たまには悪くないよね、スカートって足元がスース―するけど動きやすいし」
「ふふっ、リンに似合ってるよ」
「ミキちゃんのうさぎさんも可愛いね」
「それを言うならメグのエプロンとミトンでしょ、ぜーったい似合うよ!」
「う、うん」
「動画楽しみにしてるよ、今からワクワクしちゃうかも」
「えへへ、お友達から貰ったって、自慢してもいい?」
愛原に訊かれた虹川と清野が声を揃えて「勿論!」と答える。
俺も大きく頷いた。
はにかんで笑う愛原と一緒になって、四人で笑い合うと何だか気持ちが一つになったみたいだ。
「それじゃね、健太郎、私達そろそろ行くよ!」
清野が言うと、虹川と愛原も俺を見上げる。
「また明日ね、健太郎君、気をつけて帰って」
「あ、あの、また明日、学校で会おうね」
「おう! 皆も気をつけて帰れよ」
はーい、と三人の可愛い返事が揃う。
バス停へ向かって歩き出す皆と、別れて歩き出しながら途中何度も振り返り手を振った。
本当に楽しい一日だった。
何だかんだ俺まで満足させてもらって、本来の目的は無事に果たせたんだろうか。
それを知る術はないけれど、きっと大丈夫だろう。
だって、清野はワンピースを着て楽しそうにしていた。
虹川はうっかり泣かせたけれど、その後『スッキリした』と言っていた。
愛原は虹川と清野と前以上に親しくなった様子だった。
ミッション無事完了!
俺にとっては三人の笑顔が何よりの報酬だ。
さて、と。
一応理央にも連絡しておかないとな、多分気にしているはず。
詳しい話は明日の昼にでも飯食いながら伝えよう、その時にハンカチも渡すぞ。
―――理央。
いつか理央とも、こんな風にデートしたりできるだろうか。
前に遊園地やスポッチ、水族館に行ったりしたけれど、そうじゃなくて、二人きりで出掛けたい。
それを叶えるためにも文化祭で今度は必ず磐梯に勝たなければ。
特別審査員に選ばれた友達は、あと九人。
そのうち女の子は四人。
野郎は知らん。
俺の目的のためではあるが、同時に皆のために、頑張って少しでも悩みを軽くしてやるんだ。
リュックから携帯端末を取り出しつつ、夕日に紛れて小さく息を吐いた。
まだまだこれから。
気の抜けない状況が続きそうだ。




