友情と転校生 3
「それじゃ、俺も取ってくるよ、先に食べていいからな」
「うん、いってらっしゃい」
「じゃー遠慮なく、いただきまーす!」
「い、いってらっしゃい、健太郎君」
さて俺も、皆の分はともかく、俺自身の料金分は元を取らせてもらう!
バイキング形態で並べられたフルーツ、スイーツ、そして軽食。
ふむ、流石に唐揚げは無いが、フルーツカレーがあるぞ。
それにフルーツパスタ、ケーキもマストだな。
あっ、このシフォンケーキは―――理央が好きそうだ。
理央、今頃どうしているだろう。
事前にデートの計画を伝えたら『頑張って』なんて応援してくれたが、本当はちょっとくらい妬いて欲しかった。
まあ贅沢を言っても仕方ない。
そもそも俺と理央はまだ恋人ですらないわけだし、今日のデートは磐梯との勝負にも掛っている。
動機が不純な以上、俺個人の願望まで持ち込むのは流石に欲張り過ぎだ。
きっと理央にも怒られる。
今日は他のことはなるべく考えず、三人と楽しく過ごすことにだけ集中しよう。
「ただいま~っ」
「おっ、おかえり健太郎」
「わあ! 健太郎君もたくさん食べるんだね、ケーキにフルーツ、それにパスタやカレーまで!」
「す、すごい、ね」
俺が両手に持つプレートを見て虹川と愛原は目を丸くする。
「でも」と虹川がクスクス笑った。
「男の子だね!」
「おう!」
「なんだよそれ、私には食べ過ぎなんて言ったくせに」
「リンは健太郎君ほど大きくないでしょ、一日あたりの適切なカロリー量は身長と体重、それに性別で変わってくるんだから」
「いいの! 今日はカロリー制限はナシ!」
「もうっ」
虹川と清野のやり取りに、愛原と一緒に笑う。
だが確かに食べ放題でカロリーの話はナシだ。
気の済むまで腹いっぱい食べるのがここへ来た目的だからな。
「ねえ、健太郎のそれ、美味しそうだね」
「ん?」
このチョコレートケーキか、食べたいなら少しあげよう。
一口大に切り分けて、フォークで刺して清野に向ける。
すると何故か「えッ!」と目を丸くされた。
あ、いかん。
俺が使っているフォークをそのまま使ってしまった、未使用のフォークと替えよう。
「あ、悪」
謝ってフォークを下げる間もなく、清野はパクッと食い付いてきた。
いいのか?
このケーキそんなに食べたかったのか、向こうにまだあるぞ。
「おいひい」
「ちょっと、リン! 行儀が悪いよ?」
「だってぇ、健太郎が食べろってくれたんだも~ん」
「もう!」
そういや、薫もよく俺のを一口欲しがったよな、懐かしい。
お陰で条件反射というか、欲しがられたら分けるのが身に沁みついてしまった。
この店は食べ放題だし、今に限ってはどれだけねだられても気にならない。
「あ、そうだ、このさくらんぼのケーキ、俺が取りに行ったときに丁度出ててきたんだけど、愛原さんのネックレスを思い出して取ったんだよな」
今度はカトラリーケースから新しいフォークを取り出して、ケーキを一口大に切り分ける。
フォークでサクッとさして愛原の方へ向けた。
「はい、どうぞ、食べてみてくれ」
愛原は目を真ん丸にして、俺とケーキを交互にしっかり三度見した後で、エイッとばかりにフォークに食い付いた。
なんだか可愛い、雛に餌を与える親鳥になった気分がする。
「あっ、あの、健太郎君!」
「ん?」
虹川が何故か顔を真っ赤にしながら、俺のカレーを指した。
「わ、私もそれ、味見させて欲しいなー、なんて」
「いいぞ」
「あっ新しいスプーンを出さなくてもいいよ、私、気にしないから、それに汚れ物が増えるし」
虹川は気にしないタイプか、清野と同じだな。
確かに虹川のプレートにはスイーツとフルーツばかりで、口直しに辛いものが食べたくなったんだろう。
とは言え、このカレーは甘口だけどな。
使っていたスプーンでカレーを掬って虹川に向ける。
虹川はやたら身構えてパクッと食い付き、ニッコリ笑った。
「おいひい」
「ちょっとぉ、ミキぃ?」
「えへへ」
「人のこと言えないでしょ! ねえ健太郎、今度はそっちのチーズケーキ一口ちょうだい!」
「お前の皿にも乗ってるだろ」
「いいから! さっきのフォークで! 早く!」
「お、おう」
なんだかよく分からないが、食べ放題で人に集るな。
自分で取りに行くのが面倒なのか?
流石にそれくらいの労力は惜しむなよ、俺の奢りなんだし。
その後も、ねだられてちょいちょい俺の分を虹川と清野に食べさせてやった。
愛原だけ放置は可哀想だから、頼まれなかったが愛原にも。
幸い嫌がられなかった、というか、愛原も喜んで食べてくれた。
俺は三人の子だくさんパパになった気分だ。
そうなると当然ママは理央だよな。
まあ今ここにはいないし、男同士だから概念的な話ではあるが。
しかし、これってデート、なのか?
制限時間いっぱいまでフルパラを満喫して店を出る。
はあ、腹いっぱいだ。
色々食べたし、楽しかったし、満足、満足。
「は~食べたなあ、お腹がはち切れそうだよ」
「私も、ちょっと苦しいかも」
「う、うん、楽しくていつもよりたくさん食べちゃった」
「愛原さんも? 私もだよ」
「私も! なんと言っても健太郎の奢りだったしね」
三人も満足してくれたようでよかった。
誘った甲斐があったな。
「それじゃ、腹ごなしに軽く走ろうか!」
「食べてすぐ動くと体に悪いよ」
「えーっ」
まったく清野は、虹川さんや俺はともかく、愛原さんもいるんだぞ。
まあでも、腹ごなしに少し歩くのも悪くないな。
「それじゃ、ショップを見に行かない?」
虹川の提案に、愛原が嬉しそうに頷く。
「うん、私も見に行きたい」
「よかった、あ、そうだ、ええと」
「なに?」
「あのね、愛原さんのこと、メグちゃんって呼んでいい?」
えっと驚いた愛原は、モジモジしてから虹川に「うん」とはにかんで頷いた。
虹川もホッとしたように笑顔を見せる。
その横から清野が「じゃあ私も! 私はメグって呼ぶ!」なんて身を乗り出してくる。
「あ、あの、虹川さんもその、メグって呼んで」
「じゃあ私のことはミキって呼んで、ね?」
「う、うん!」
「私はリンでいいよ、メグ!」
「分かった、その、ミキ、ちゃんと、リンちゃん」
ちょっと困った様子でもにょもにょと答える愛原に、虹川と清野はニコッと笑い返す。
フルパラに行って三人の間に友情が芽生えた瞬間だな。
俺はその橋渡しができたのか、やっぱり誘ってよかった、感無量だ。




