友情と転校生 1
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Round/Friendship
理央から貰った情報を頭に叩き込んで、皆の個人情報が記載された書類はしっかりシュレッダーにかけておいた。
とはいえ、文化祭までのたった三週間で、全部どうにかするっていうのは無理な話だ。
まず時間が足りない、それに俺がどうこうしたところで結局は本人の問題だから、一朝一夕で解決するわけがない。
だから優先順位をつける。
何を置いてもまずは女の子だ、野郎は悩みくらい自分でどうにかしろ。
余力があれば多少は気に掛けてやる。
友達だしな、それくらいはしてやってもいい。
さて、その女の子の中でも、手っ取り早いのはクラスメイトだ。
虹川、清野、愛原。
普段から他の子達より関わることの多い三人の悩みから対応していこうと思う。
でも一人ずつだと取れる時間がかなり限られるんだよな。
効率なんて考えるのは薄情で嫌だが、今回ばかりはやむを得ないと割り切るしかなさそうだ。
―――昨日の話に戻ろう。
俺と理央は前回同様、昼過ぎに登校して、俺だけまた保健室で待機することにした。
そして放課後になり、理央からの呼び出しで作業室へ行き、似たような流れで磐梯との勝負が決まった。
今のところ順調だと思う。
これなら磐梯は前回と同じ手を使ってくる可能性が高い、つまり、対抗策が上手く効果を発揮するだろうって状況だ。
理央の方でも別の懸念に先んじて対処してくれるらしい。
だが具体的なことについては教えてくれなかった。
まあ理央のすることだからな、俺のためにしかならないはず。俺達は一蓮托生、共に困難に立ち向かっていくパートナーだ。
―――パートナー、いい響きだ。
いずれもっと深い意味でのパートナーになってみせる、その為にも文化祭、いや、紅薔薇王の称号を今度こそ必ず勝ち取ってやるぞ!
(さてと)
そして今に至るわけだが。
まだ朝のHR前、早速行動開始しようと思ってはいるが、どう動くべきか。
急に話を切り出しても不審がられるだろうし、それ以前にデリカシーに欠ける。
こういうことは慎重に進めないとな。
だけど時間は限られているわけで、はあ、悩ましい、どうしたものか。
「健太郎!」
背中をポンッと叩かれる。
「なーにたそがれてるんだよ?」
「清野」
清野は「ガラじゃないぞ」なんて言ってニコッと笑う。
癒されるなあ。
「もしかして何か悩んでる? よかったら話聞こうか?」
「いや、もうすぐ文化祭だなーと思ってさ」
「おっ! そうそう、それだよ!」
しゃがみ込んだ清野は俺の机で腕を組み、その腕の上に顎を乗せてうーっと唸る。
「逆転メイド喫茶なんて都合いいと思ったのに、女子の何人かが客引きでメイド服着せられることになってさぁ」
「そうなのか?」
「そうなの! 色物だけじゃ花がないとか何とか、それで仕方なく女子だけでくじを引いたんだよね」
「へえ」
「―――で、リンは外れを引いちゃったんだよね」
清野の肩に手を置きながら、虹川が話に混ざってくる。
「だけど私も外れを引いたから、リンと一緒にメイド服を着て客引きをすることになったんだ」
「マジか」
「なんだよ健太郎、人の不幸がそんなに嬉しいか」
ふて腐れて睨んでくる清野に「違うって」と返す。
そんなわけないだろ、学内の男を代表して断言するぞ。
「清野も虹川さんも、メイド服を着るんだろ?」
「まあね」
「あと、愛原さんも着るよ」
「おっ、おおッ! やった!」
「は?」
勢い余ってガッツポーズで天井を仰ぐ。
有難う、神よ。
三人のメイド姿、間違いなく可愛い、絶対に見たい。
「何? 何なんだよ健太郎、はっきり言いなよ」
「三人のメイド姿なんて絶対可愛いに決まってる、男は全員釘付けだぞ、千客万来待ったなし!」
近くにいた聞き耳を立てていたらしい野郎どもが大きく深く頷いた。
そうだよな、分かるよな?
俺達の心は今一つになっている。
「ちょ、ちょっと、なに興奮してるのさ」
「うわぁ、今からすっげえ期待する! 楽しみだなあ」
「はぁ?」
「もう、健太郎君ったら」
二人の反応は微妙だが、構うものか。
この喜びを、俺は男として素直に表現したい!
「バーカ!」
痛ッ! って、何だ?
清野にいきなり頭を叩かれた、それもかなり強く。
「私にメイド服なんて似合うわけないだろ、健太郎のアホ!」
「えっ、ちょっと、リン?」
「フンだ!」
ええと、怒らせた?
戸惑っていると、虹川が「ごめんね?」と謝って、足早に去っていく清野の後を追う。
なんで? だって清野はメイド服似合うだろ?
あ、でも―――そうか、思い出した。
清野の悩みは(最近体つきが女らしくなってきたこと)だったな。
つまり性的なものに戸惑いを感じているから、メイド服にも否定的、ってことだろうか?
俺としては胸も尻もデカければデカいだけいいって方だが、運動部の清野は胸なんかあっても邪魔みたいなことを前に言っていたような。
そして虹川の悩みは(周りに気を遣い過ぎること)
あと愛原の悩みは(対人関係が苦手で赤面症なこと)だったな。
よし!
それなら、全部まとめて解決するいい方法を思いついた!
「清野!」
席から立って追いかけると、清野は俺をキッと睨んで教室を出ていく。
ちょ、ちょっと待て、もうすぐHRだぞ。
虹川も慌てて「リン、待って!」と後を追う。
「待てよ、清野!」
「ねえリン、教室に戻ろう?」
俺と虹川が呼んでも清野に立ち止まる気配はない。
だったら強制的に足を止めてやる!
「清野、デートしよう!」
声を張って告げると、清野はやっと足を止めてくれた。
だが振り返って「は?」と怪訝そうな顔をする。
「今度の日曜、虹川さんと相原さんも一緒に!」
「え、なんで?」
「くじ引き負けちまったんだろ? その残念会やろうぜ、俺の奢りで!」
ポカンとする清野と、虹川も俺の傍で同じように目を丸くしている。
少しの間があって、不意に虹川がプッと噴き出した。
「なに、それ」
「皆で美味いもん食ってさ、元気出して、で、文化祭を盛り上げていこう!」
「本当にいいの? 健太郎君」
「勿論、喜んで奢らせていただきます!」
ジーッとこっちを見ていた清野がニヤッと笑う。
急に走ってきて俺の背中を! ッだぁ! お、思いきり叩きやがって、痛ぇッ!
「健太郎、男に二言は無いな?」
「な、ない!」
「よーし、じゃあ女子三人プラス下僕の残念会決行だ!」
「ちょっとリン、下僕って」
くそぉ、好き勝手言いやがって。
だけど機嫌を直してくれてよかった、それに美少女三人とデートさせてもらえるなんて、むしろ喜んで奢らせていただきますって話だ。
前に五月女も『推しに払う金は惜しむな』と言ってたしな。
早速二人はどこの店へ行くか、愛原にも相談しよう、なんて話を始めている。
うんうん、俺も目的を果たせるかもだし、結構結構。




