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魔術と転校生 3

「それで、胸騒ぎがして君を探したが、どこにも見つけられなくてね」


俺を探し回っている最中、理央はとんでもない話を聞いたそうだ。


「今回に限って、投票のシステムが変更になったそうだ」

「えっ!」

「詳しい理由は不明だが、一般投票とは別に、特別投票枠というものが設けられていた」

「特別投票?」

「そう、文化祭運営委員が選抜した十二名の生徒にその権利が与えられていた」

「なんだよそれ」

「彼、彼女らの一票は、一般投票で百票分の価値を持つ」

「ひゃ、百!?」


ハイパーインフレじゃないか!

現在の光輝学園の総生徒数は、およそ三千人。

文化祭を見に来た外部客を足しても、当日校内にいた人数は三千数百人程度で、四千まではいかないと思う。

だがその全てが投票に参加するわけじゃない。去年までの総投票数を調べた感じでは、多い時でも三千弱程だった。

そこへたった十二人で千二百票?

場合によっては投票の意義さえぶっ壊れるぞ、今期の運営委員は何を考えているんだ!


「じゃ、じゃあ、もしかして俺は、その特別投票のせいで奴に負けた、ってことか?」

「そうだね、阿男は件の十二名を魅了の術で操り、他の者達には薬を盛って投票自体を忘却させた」

「なッ!」

「その結果、あいつは君に圧勝して、紅薔薇王(クリムゾン・キング)の宝冠を賜ったというわけさ」


あンの野郎!

薬だ術だと卑劣極まりない! それが奴の流儀だからって、受け入れられるものか!

そもそも、正々堂々の勝負に他の奴らを同意も無しに巻き込む根性が許せん、完全に腐ってやがる!

俺達を見下しているからこその所業だろう。

その辺りも含めて奴を絶対にギャフンと言わせなければ、この腹の虫は収まらない!


「許せねぇ」


唸る俺の隣で、理央は静かに紅茶を飲む。


「理央、頼む、また力を貸してくれ」

「いいよ」

「俺は、今度こそ絶対に、奴に勝つ!」

「勿論だとも、なにせこの僕がプロデュースしたというのに、君が勝利しないなどと納得いくものか」


それは、ちょっとその、凄い自信だな。

思わず振り返って見ると、理央も上目遣いに視線をよこしてクスッと笑う。

冗談か、可愛い。

俺を励ましてくれたのかもしれない、本当に優しい奴だな。


「だが、当日の君の不調については、僕の側にも落ち度があった、これに関しては完全に失態だ、反省している」

「え?」


そういえば、投票云々以前に俺自身にもおかしなことが起きていた。

文化祭前日の帰り道、呪文みたいな声が聞こえて、頭が割れるほど痛くなって、そこから何も分からなく―――気付いた時には講堂の、舞台の上だった。


「どういう意味だ?」

「君の不調は阿男の呪いだ、もっとも、君は無意識下で抵抗して、自我の崩壊は免れたようだが」

「は?」


の、呪い?

自我の崩壊は免れたって、どういうことだよ。

洒落にならない。


「ええと、話がよく分からないんだが、それで理央に何の落ち度があるんだ?」

「僕なら防げた」


そうきっぱり告げてから、理央はハッとした様子で「いや」と視線を泳がせる。


「流石にそれはない、かな、とにかく感知すら遅れた、その可能性を視野に入れていたにもかかわらず、だ」

「そ、そうか」

「僕の未熟も君が苦痛を味わう一因となってしまった、すまない」

「いいって! なんだかよく分からないけど、理央はまた俺を助けに来てくれただろ?」


俺を見上げて「健太郎」と呼ぶ理央の目が潤んで見える。

いまいち話の内容が掴みきれないが、とにかく理央は悪くない。悪いわけがないんだ、こうして俺を心配して駆けつけてくれたんだから。

俺は信じる。

理央を、そして理央を愛している俺自身の心を信じる。


「大丈夫だよ、理央、有難う」


そう言ってそっと髪を撫でる。

理央は長いまつげを伏せて「うん」と頷いた。

ちょっとドキドキする。

な、なんか、今日の理央、普段以上に可愛くないか?


「健太郎」

「ど、どうした?」

「改めて話を戻そう、君に起きたこと、当日の出来事を踏まえ、ここからは対策を練ってあの時の二の舞にならないよう、今度はこちらがイニシアチブを取るぞ」

「おお!」


普段の頼もしい雰囲気に戻った。

格好いいな、やっぱりお前はそうでなくちゃ!


「勝とう、今度が改めて本当の勝負だ」

「おう」

「僕と君で、あいつにたっぷり土をつけてやる、いいね?」

「任せろ!」


改めて惚れ直すなあ。

いつも俺を力付けてくれる、ああ、好きだ、理央。


「それで、具体的な案についてだが―――」


理央が離し始めようとしたその時、俺の腹がグゥ~ッと鳴き声を上げる。

おぅッ!? う、嘘だろ、今かよ! 空気読め腹ぁッ!

思いがけなかったようにキョトンとした理央が不意にクスクスと笑いだす。

可愛い。

い、いや、恥ずかしい、格好悪すぎる俺、今もう死にたい。


「普段の調子が戻ったようで何よりだ」

「す、すまん」

「いや、僕も食事はまだだから、少々空腹を覚えている」


なんだと!?

理央も腹が減ってるのか、それは一大事じゃないか!


「俺、すぐ飯作るよ!」

「え?」

「あーっと、前と献立がほぼ同じなんだが、構わないか?」

「勿論、あの日君が焼いてくれた赤魚も、炊き込みご飯も、煮物も、とても美味しかった」


よーし! 俄然やる気が湧いてきた!

何はともあれ腹ごしらえだ、腹が減っては戦は出来ぬってな。

話は飯を食いながらにしよう。

今回も理央のために、美味い飯をたくさん作るぞ!


俺が料理を始めると、理央は自分でリモコンを弄り、動画配信サイトで映画を選んで視聴し始めた。

ふふ、前に教えたことが活かされていて嬉しい。

こんな風に少しずつ、お互いの知識や情報をすり合わせていけるといいよな。

もっと理央のことが知りたい。

俺のことも知って欲しい。

理央ともっともっとたくさん思い出が欲しい、ずっとこうして一緒にいたい。

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