魔術と転校生 1
LOOP:4
Round/Nasty
ハッと目を開く。
起き上がり、そのまま暫く呆然とした。
朝だ。
多分、またループした。
あれが夢じゃなかったら、俺は勝負に負けて、また磐梯に殺されたんだ。
だが、どうして。
あの時一体何が起きた?
確か文化祭前日の帰り道だった、急に頭が痛くなって、気付いたら目の前で奴が紅薔薇王に選ばれていた。
そして俺は殺された。
訳が分からない、いつ翌日になっていたんだ、俺はどうやってあの場所へ行った?
なんで俺が負けた。
勝ちはほぼ確定していたのに、皆も俺を応援してくれていたのに。
枕元の携帯端末から着信音が聞こえてくる。
理央だ。
混乱したまま通話ボタンを押す。
『健太郎』
「理央、俺」
『状況を整理しよう、今から君の家へ伺ってもいいか?』
「あ、ああ」
『では後ほど』
通話が切れてから、端末で日時を確認した。
磐梯が転校してきた日の朝だ。
やっぱりループしたのか。
つまり俺は本当に殺された、あの出来事は夢じゃなかった。
―――どうして。
ふらつきながらベッドを降りる。
まずはシャワーを浴びよう、酷い寝汗だ、こんなに臭くちゃ理央に嫌われちまう。
脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入ってシャワーを浴びた。
今回もループできたことだけは本当に有り難い、改めてどこかの魔女に感謝だ。
でも、今、混乱して、それ以上に落ち込んでいる。
俺もそうだが、多分皆も、俺が勝つと確信していた。
協力するって言ってくれたのに、勝ったのはあいつ、磐梯だった。
つまり皆はあいつに票を入れたってことだ。
なんでだよ。
本当は誰も俺に投票する気なんてなかったってことか?
上辺だけ調子を合わせておいて、当日には俺の無様な姿を嗤うつもりだったのか。
そんなわけあるか。
クラスの奴ら、仲のいい女の子達、理央のファンクラブの子達だって、そこまで性根の腐った奴は絶対にいない。
何かがおかしい、何が起きた?
くそ、考えても分からない。
まだ少し頭も痛い。
―――そうだ、あの時もずっと頭痛がして、俺に一体何が起こったんだ?
汗は流したが、頭を乾かす気力が湧かなくて、取り敢えず服だけ着る。
洗面台の鏡に映った俺は酷い有り様だ。
男前が台無しだな。
紅薔薇王にも選ばれなかったし、所詮こんなものか。
―――玄関から来客を告げるチャイムが聞こえてくる。
理央だ。
重い足を引き摺って玄関へ向かい、ドアを開ける。
表に立っていた理央が一瞬大きく目を見開くと、不意に苦しげに顔を歪めた。
「健太郎ッ」
え?
伸びてきた両腕が背中に回る。
服越しの体温、柔らかな感触と、仄かに薫るいい匂い。
俺、抱きしめられて、る?
ポカンとしていると、そのまま家の中へ促された。
理央に付き添われてリビングへ行き、ソファに座るよう言われたから腰を下ろす。
見上げると、俺の濡れた髪をくしゃりと撫でて「まずは髪を乾かそうか」と優しく微笑んだ理央は、どこかへ行ってしまう。
暫くして戻ったその手にはドライヤーが握られていた。
「熱かったら言うんだよ」
そう言って電源を入れたドライヤーで俺の髪を乾かし始める。
触れる手の感触が優しい、気持ちいい。
髪を乾かす合間に、時々そっと慰めるように頭を撫でてくれる。
「酷い目に遭ったね」
―――そうだ。
あの時、お前の声を聞いた。
「理央」
「なんだい?」
「俺、どうなったんだ?」
俺に起きた不可解な出来事の訳までは流石に理央も分からないだろうが、当日何が起きたかは知っているはずだ。
見上げると理央は「うん」と頷いて少し黙り、どこか困ったような表情を浮かべる。
「君に、伝えなければならないことがある」
「ああ」
「だがその前に、こんな荒唐無稽な話を聞かせる必要はないだろうと伏せておいただけで、他意はなかったと弁明させて欲しい」
「え?」
どういう意味だ?
よく分からないが、理央はきっと俺を裏切らない。
薫の時も一緒にループを乗り越えた俺達だ、そこは絶対だと信じている。
取り敢えず頷くと、ホッとした様子で理央は小さく息を吐いた。
「すまない、だがまずは髪を乾かしてしまおう、風邪をひいてしまうからね」
「うん、有難う、理央」
「どういたしまして」
「お前の手って優しいな、こうしているとすごく気持ちがいい」
理央はちょっと変な顔をして、コホン、と咳払いする。
調子がいいと思われたかな。
だけど本当のことだ、それにわざわざ世話を焼いてくれているし、甘えさせてもらおう。
お陰で少し元気が出てきた。
頭もさっきよりはまともに働くようになってきたし、理央がくれるパワーってやっぱり凄い。
それにしても磐梯、あの野郎。
具体的には分からないが、恐らく何かしらの裏工作があったに違いない。
そして俺は敗北し、殺される羽目になった。
一体何をした?
文化祭当日、奴はどんな手を使って紅薔薇王の王冠をかすめ取ったんだ。
「よし」の声と同時にスイッチを切る音がした。
理央は使い終わったドライヤーを簡単にまとめて、ソファの前にあるローテーブルに置く。
「そういえば、ドライヤーの場所よく分かったな?」
俺の髪の乾き具合を確かめてから隣に座った理央に尋ねる。
理央は軽く肩を竦めて「少々家探しさせてもらった、すまない」と苦笑した。
「別にいいよ、乾かしてくれて有難う」
「うん」
「それで」
俺から話を切り出すと、理央も真顔になって頷く。
「ああ、あの日起きたことだな、僕はあらかた状況を把握している」
「そうか」
「だがその前に、君に告げておくべきことがある、さっきも言ったが荒唐無稽な話だ」
それは何だ?
理央は「ひとまず全て聞いてから、不明な点は尋ねて欲しい」と前置き、話し始める。




