虚構と転校生 4
「そろそろ俺達も帰るかぁ」
クラスメイトの一人が外を眺めて言う。
「そうだな、後の準備は明日の朝に回すか、間に合うだろ」
「おい、キングもだけど、お前らもメイド服忘れんなよ? 忘れたら罰としてスク水着用だからな」
「げえーっ!」
「絶対無理、死んでも持ってくる」
「俺はずっとロッカーに置いてあるぜ」
「しわになったメイド服の奴もスク水着用とする、接客舐めんな」
「マジかよ!」
やれやれ。
俺も床から起き上がり、凝った肩をほぐしつつリュックを取りに行く。
「そういやキング、お前が転校生と勝負するのって、奴と天ヶ瀬のいざこざに巻き込まれたからなんだろ?」
不意に五月女から尋ねられ、立ち止まって「おう」と返事した。
事実は違うが、それをこいつらに説明する必要はないからな。
「最近天ヶ瀬と仲良くしていたせいだよな、災難だったな、しかも負けた方は転校なんて無茶苦茶だぜ」
「まあ俺は転校しないだろうし、別にいいんじゃないか?」
「おっ! 言うなあ、でも確かに!」
傍で俺達の話を聞いていたクラスメイトも頷いて笑う。
ここにいる全員、俺の味方って雰囲気が伝わってきて心強い。
「安心しろよ、キングはお前だ、俺達はお前に票を入れるぜ」
「ま、大磯がいなくなったらつまんねーしな」
「それに俺はまだ虹川さんや清野さん、愛原さんとお近付きになる切欠を作ってもらっていない!」
「おっ、そーだそーだ! 大磯いい加減合コンセッティングしろよ、いつも断りやがって」
「ついでに藤峰チャンの連絡先も教えろ、お前ばっかりズルいんだよ!」
「あーあ、こんな奴がキングだなんて、ますます箔が付くのか? ムカつく」
「けど転校生がキングになるよりマシじゃね?」
「それはそう」
「しゃーない、今年はこいつをキングにしてやろうぜ、消去法で」
「一応クラスメイトだしな」
なんだ、最後の方、素直に喜べないコメントが聞こえたんだが?
まあいい、とにかく勝ちさえすればこっちのものだ。
こいつらも憎まれ口を叩きはしても、俺を応援する方法で団結しているようだし、本当に有り難い。
「勝てよ、健太郎!」
「応援してるぜ」
「ついでにクラスの売り上げにも貢献しろよ」
「そうそう、目標額達成したら女子も一緒に焼き肉食い放題に行く予定だから、勝って俺らの役に立て、キング!」
「お前らは! もう! 素直に俺を応援しろ! なんだ、ちょいちょい余計な一言を混ぜ込みやがって!」
足ダンしながら文句を言ったら、野郎どもは俺を見て楽しそうに笑いやがる。
ったく! このツンデレどもめ!
でも逆の立場なら俺も似たような感じだったろうし、まあ許そう。
男ばかりで和気あいあいとしている最中、見回りに来た教員が「お前らまだ残ってるのか、さっさと帰れ!」と怒鳴り込んできた。
ヤバい、他の奴らも俺同様に急いで荷物を持って教室を出る。
「じゃーな、また明日!」
「寝坊すんなよ」
「メイド服忘れるんじゃねえぞ、スク水だからな!」
「お疲れ~」
校舎を出て散り散りバラバラに、何人かはつるんで帰るようだが、俺は方向的に一人だ。
街灯が照らす道を歩きつつ、何となく薫にメッセージを送る。
時差があるから返事は明日になるかもしれないな、明日は画像もたくさん撮って送ってやろう。
今日はもう飯を作る気力もなくて、途中でコンビニに寄る。
晩飯を買い込み、買い物袋片手にまた家路を辿っていく。
空には星が幾つも瞬いて、綺麗だなあ。
明日もきっと晴れる。
―――そうしたら、後夜祭に理央を誘おう。
後夜祭にはちょっとしたジンクスがあるんだ。
そして俺には計画がある。
キングになって、勝負に勝ったら、いいゲン担ぎにもなりそうだ。
先に連絡入れておこうと携帯端末を取り出して、ふと思った。
もしも明日、俺が負けたとして、また磐梯に殺されたら、またループするんだろうか。
ループ自体は最早疑問に思わなくなってしまった。
多分理央が言っていた魔女の仕業だろう、それでいいと納得している。
でもループが起こるかどうかについては確信が持てない、今度こそ本当に死んで終わりって可能性もある。
そもそも死ぬことを前提にものを考えるのは健全じゃない。
俺は死にたくないし、死ぬのって本当にきついから、なるべくなら勘弁して欲しい。
でも俺はまた死んだ。
あの転校生野郎に殺された。
奴はどうして理央に執着するんだろう。
元は理央の妹の婚約者候補だったって話だが、その絡みで兄貴の理央に惚れて、親しく付き合っている俺が気に食わないから殺す?
理由としては一応筋が通っているが、何となく釈然としないんだよな。
大体どうして男同士で仲がいいってだけで『誑かした』なんて話になるんだ?
その理屈で行くと、俺は五月女や他のクラスメイトの野郎共も誑かしたってことになるぞ、怖すぎるだろ。
野郎なんかどうだっていい。
理央だけは別だが。
傍らをサアッと夜風が吹き抜け、不意に妙な気配を覚える。
辺りを見渡しても誰もいない。
それなのに、どこかから誰かの視線を感じる。
なんだ?
声、か?
外国語、ヒンディー語みたいな声が風に乗って聞こえる。
妙な抑揚で、まるで呪文―――うッ!
な、何だッ、急に、頭がッ!
あッ、たま、がッ! 割れるように、痛いッ!
何度も何度も脳みそを固いもので直接ブッ叩かれているみたいだ。
まともに立っていられない。
なんだ、これッ!
しゃがみ込むと同時に視界が傾ぐ。
そのままグルグル、グルグルと回り始めて―――何が起きている?
景色がどんどん移ろい、でもそれが何かも分からない。
俺はどうしたんだ。
頭が痛い、一体何が、うぅッ、まるで訳が分からな、いッ!
「おめでとうございます!」
声と共に突然視界が開ける。
眩しい光が降り注ぐ、ここは、講堂の、舞台上?
客席には大勢の観客がいて、割れんばかりの拍手が鳴り響いている。
夢?
いや、これは、現実?
「本年度の栄えある紅薔薇王には、磐梯 阿男さんが選ばれました!」
―――は?
呆然とする俺の前で、佇む磐梯の肩に緋のマントが掛けられ、頭上には輝く王冠が載せられる。
な、なんで?
だってあいつは、それに俺は、どッ、どうして!?
紅薔薇王となった磐梯は、蔑むような目を俺に向ける。
そしてまたどこからともなく抜き放った曲刀の切っ先をこちらへ向けた。
「勝敗は決した」
違う!
咄嗟に訴えようとするが、またッ、頭がッ!
「疾く、死ね」
振り下ろされる刃と、直後に赤く染まる視界。
嘘、だろ?
なんで、こんなことに。
「健太郎ッ!」
ああ、理央の声だ。
―――ごめん。
俺、勝てなかった。
あんな野郎に負けるなんて、どうして、なんでだよッ、チクショウ!
嫌だ。
死にたくない、嫌だ、理央。
―――理央ッ!




