虚構と転校生 3
そのうち教室に担任が入ってきて、ようやく膠着状態は解け、皆それぞれ自分の席に着く。
磐梯だけは席に着いても変わらず俺を睨み続けて、間に挟まれる格好になった女の子を怯えさせていたが、担任から「磐梯、前向け」と叱られていた。
フン、アホめ。
そうやって精々評判を落とし続けるといい。
お前は文化祭当日に改めて身の程を知るだろう、その時に後悔したって遅いからな。
あと三週間で、文化祭。
本格的に準備も始まり、誰もが浮足立っている。
俺も、磐梯との勝負は抜きにして、純粋に楽しみだ。
今年は薫がいないから盛り上がりに欠けるんじゃないかと思っていたが、まさか俺がその穴を埋める形で話題に上るとは思いも寄らなかった。
紅薔薇王を巡る対決は皆の間ですっかり話題のタネだ。
正直、娯楽扱いされるのは不本意だが、おかげで俺の名前が知られ、票の獲得に繋がるなら悪いことばかりでもない。
俺が紅薔薇王に選ばれたら、薫は自慢に思ってくれるだろうか。
きっと褒めてくれるよな。
俺もお前から誇られるような奴になりたい。
色々な意味で、この戦いは絶対に負けられないんだ。
―――そして、文化祭開催までの期間中。
俺は票獲得のため、なりふり構わず奔走した。
時に親切の大盤振る舞いで恩を売り。
時に運動部から求められるまま体を貸し与え、って、エッチなことじゃないぞ? ただの助っ人だ。
頼まれること自体は前から結構あったんだが、面倒で大抵断っていたんだよな。
文化祭後に行われる試合に参加するって約束で、野球部、サッカー部、バスケ部、バレー部、噂を聞きつけた奴らがここぞとばかりに押し寄せてきた。
はあ、だが票を得るためにはやむを得ない。
理央に話したら応援に来てくれるらしいから、そこだけは唯一の救いだ。モチベーションも上がるしな!
その理央は、俺をプロデュースすると告げてきた通り、本当にあらゆる面から惜しまず力を貸してくれた。
主にはアドバイス、そして疲れて荒んだ俺のメンタルケアも、これが一番助かった。
昼は毎日手作りのおにぎりを用意してくれて、理央のおにぎりって愛情を感じるというか、温かい味がするんだよな。
食えば元気一億万倍だ。
俺は理央がいれば何でもできる気がする。
まさに愛の力だな、全てを凌駕する俺だけのとっておきのパワーの源だ。
しかし、磐梯の野郎。
俺が紅薔薇王になるべく東奔西走している最中、奴は何も行動しないどころか、大抵昼前には早退していなくなってやがった。
まともに勝負する気がないのか?
転校生なんて、ただでさえ名前も顔も知れ渡っていないのに。
理央も、磐梯のアホは帰宅後、今世話になっている天ヶ瀬の別邸でゴロゴロ過ごしていると呆れていた。
だが同時に、何かしら卑怯な手を使ってくるかもしれないと懸念していたが、俺としてはバカにされているようで業腹だ。
必死になる必要なんか無いってか? 自惚れやがって、ああいうヤツは実際に痛い目を見ないと分からないんだ。
相変わらず俺には態度が悪いし、他のクラスメイトだってまともに相手しない。
いずれその報いを受けるといい。
所詮学園のミスコンだからって甘く見ているんだろう。
こっちには積み重ねてきた実績がある、最早俺にとって磐梯如き敵にあらず。
文化祭当日が楽しみだぜ。
お前の泣きっ面、存分に楽しませてもらうからな。
―――あっという間に日々は過ぎ去り、いよいよ文化祭前日となった。
「つ、疲れたぁッ!」
片っ端から引き受けた雑用がようやく一段落ついた!
誰よりもよく働き、誰よりも頑張った俺、全ては俺と理央の愛ある未来のために。
床に大の字になって倒れていると、クラスメイト達が寄ってきて「よしよし」「お疲れ」と撫でたり小突いたりして労ってくれる。
いや、小突くのはよせ。
「偉いぞキング、最近のお前の株は爆上がりだ、女子も感心してたぜ」
「えっ、マジ?」
「おーマジマジ、うちの部の後輩もお前のこと格好いいって騒いでたよ」
「俺も! ダチが絶対お前に投票するってさ、よかったな、大磯!」
五月女を筆頭に、皆が嬉しい言葉をかけてくれる。
やっぱり努力は身を結ぶんだな。
気の早い奴らは今から『キング』なんて俺を呼ぶし、明日の結果に期待が高まるってものだ。
「しかしキングよぉ、明日はメイド服着て接客だが、大丈夫か?」
「票が減るかもしれねーぜ?」
「大体、男女逆転メイド喫茶なんて今更だろ、藤峰がいないなら、俺は普通に女子の可愛いメイド姿が見たかった!」
全く同感だ、今からでも変更できないものか。
そもそも、これは薫がいる状況で、大勢の下心から持ち上がった企画だった。
けれど目当ての薫は海外へ留学してしまい、最後の希望だった理央も何だかんだ女子を味方につけて執事枠を勝ち取り、もはや色物の様相を残すばかりだ。
女子の執事姿はともかく、野郎のメイドなんてニッチ過ぎる需要、どれだけの集客を見込めるか。
理央がメイド服を着てくれないなら、俺は虹川や清野、愛原のメイド姿を愛でたかった。
外はすっかり陽が暮れて、女の子達は夜道が危ないって理由で日暮れ前に帰ってもらったから、今の教室には男しか残っていない。
理央も家の人が迎えに来て帰っちまったし、磐梯は今日も当然のように昼過ぎにはいなかった。
あの野郎、結局一度も準備すら手伝わず、どういうつもりだ。
明日は絶対にメイド服を着せてやる、せめて客寄せとしてこき使うからな、覚悟しておけ。




