王冠と転校生 5/後
「健太郎」
理央が俺の方へ来ようとする。
その腕をいきなり磐梯が掴む!
「理央、行くなッ」
「は、離せ!」
「理央!」
駆け寄ろうとした俺の目の前に曲刀が振り下ろされた!
だから危ねえんだよ、この野郎!
「寄るな下郎!」
「理央が嫌がってるだろ、離せよッ」
「ふん、これなるはたった今より我らが勝敗を分ける盾、気安く触れるでないわ!」
「だったらお前もその手を離せ!」
理央を、こんなに可愛い理央を、よりにもよって勝者が得る盾と同列に例えるだと?
ふざけるなよこの野郎!
さっきの一撃から推測される曲刀の範囲外より一気に踏み込み間合いを詰めるッ!
蹴りを繰り出し、返す刃の一撃から身を捻って逃れ、そこからもう一発蹴り込んで理央を捕らえている腕を跳ね除けた!
「理央ッ」
反対側の腕を掴んで理央を引き寄せ、磐梯から距離を取る。
少し強く掴んじまった、痛かったかな? 痣になっていないか心配だ。
「大丈夫か?」
「あ、ああ」
「貴様ぁッ!」
磐梯は曲刀を振り上げ俺に襲い掛かってくる!
お前に理央は渡さない!
「阿男!」
突然作業室内に怒号が響き渡った。
―――理央だ。
とんでもなく怖い顔をしている。
「やめろ」
おお。
こ、こんな剣幕初めて見るぞ、磐梯の野郎も頭上に剣を振り上げたまま固まっている。
全身から伝わってくるほどの怒りを漂わせて、怖い。
俺も思わず息を呑む。
磐梯はゆっくりと曲刀を下ろし、そのまま怯えた様子でじりじりと後退りしていく。
「これ以上、無様を晒すようであれば、天ヶ瀬の後継として容赦しない」
これが本気で怒った時の理央。
ううッ、絶対怒らせないようにしよう!
磐梯の曲刀なんかよりよっぽど殺されそうだ、俺まで緊張して心臓がバクバク鳴ってる。
「阿男!」
「ぐッ」
一喝された磐梯は、悔しそうに俺をキッと睨む。
「今は退く、だが必ず貴様に身の程を思い知らせてやる!」
捨て台詞を吐くと同時に身を翻し、そのまま磐梯は作業室を飛び出していった。
―――片手に曲刀を握り締めたままで。
「な、なあ理央」
恐る恐る呼びかけると、ふっと理央の気配が和らぐ。
よかった、いつもの雰囲気だ。
小さく溜息を吐いて「なんだい?」と俺を見上げる姿は、むしろ少し疲れて見える。
「大丈夫か?」
「それは君の方だ、まさか命を賭けるなどと、しかも僕のために」
「そんなのは当たり前だろ」
「何故?」
「お前を譲ってたまるか、男には負けられない勝負ってものがあるんだ」
理央は俺をじっと見つめて、小さく「バカ」と呟く。
言ってくれるなよ。
好きなんだからしょうがないじゃないか。
「まあいい、ならば僕も、君を全力でサポートしようじゃないか」
「えっ」
「健太郎」
理央が俺の手を両手で持ってギュッと握る。
うわあ、柔らかい。
ど、どうしたんだ、理央?
「僕が、君を王にしてやる」
「ふえッ!?」
「赤き薔薇の宝冠は、その頭上にこそふさわしいと皆に知らしめるんだ」
「り、理央ッ!?」
「いいな? 健太郎」
「ひゃ、ひゃいっ」
理央が俺をプロデュース!?
お、俺ッ、一体どうなっちゃうのーッ!!
―――そんなわけで、俺の命と理央を賭けた紅薔薇の宝冠を巡る勝負の幕が上がった。
まさかこんなことになるとは。
あの野郎、磐梯め、言いたい放題好き勝手しやがって、恋敵としても容赦しない。
絶対に目にものを見せてやる、覚悟しやがれ!




