第五話:噂に名高いあのパン
「領主様、これが噂に名高い揚げパンなんですね……!」
魔術師ウォーレンは、今日も令嬢姿で登場。
そして目の前に並ぶ揚げパン、シナモンシュガー、ココアパウダー、ナッツパウダー、かりかりチーズパウダー、甘い香りを部屋に充満させているチョコレートフォンデュを見て、金色の瞳を煌めかせる。
「ええ。各種パウダーはちぎったパンをつけて召し上がってください。チョコレートフォンデュは、フォンデュフォークに揚げパンを刺して、たっぷりチョコレートをつけてどうぞ」
「あああああ、生きていて良かったです! 昼食も食べていないので、ペロリといけそうですよ!」
「あー、ウォーレンお姉さん、ダメなんだよ~。お昼はちゃんと食べないと! ちょっとずつ、いろんな味を楽しむんだよ」
「えええええ、そうなのですか!?」
ウォーレンが目を丸くする。
「ミルリア。ウォーレンさんに『お昼はちゃんと食べてきて』って、伝え忘れていたの。だから許しあげて。ウォーレンさんは大人だし、お腹ぺこぺこだから」
「仕方ないですわね。ウォーレンお姉さん、お姉様が失礼しました。好きなだけ、召し上がって」
ミルリアは急に令嬢となり、ウォーレンに揚げパンを勧める。
ウォーレンはこのミルリアの変貌ぶりに驚きながらも、早速揚げパンに手を伸ばす。
「まだ温かい……! まずはこのまま食べてみます!」
「薄く砂糖をまぶしているので、そのままでも美味しいですよ」
私の言葉にウォーレンは笑顔になり、パクリと揚げパンを頬張る。
「……! 素朴な味わいで、見た目より脂っぽくなく、これは……美味しいです!!!!!」
「それを聞けて安心です。ぜひ各種パウダーをつけ、味の変化も楽しんでください」
「はい! そうします!」
そう返事をした後のウォーレンは、ものすごい勢いで揚げパンを食べる。それを見た私は慌てて追加の揚げパンを用意することに。
「お姉様! チョコレートフォンデュにストロベリーをつけると、これもすごく甘くて美味しい~!」
「贅沢な食べ方よね。ラズベリーもつけてみるといいわよ」
「うん、やってみる~!」
ウォーレンとミルリアとの三人での楽しいティータイムの時間が流れて行く。
◇
ティータイムで満腹になったミルリアは、20分のお昼寝タイムになった。私はウォーレンと紅茶を飲みながら、領地の様子を教えてもらう。
「屯所の建物はものすごいスピードで建てられ、さらには移住者も増え、沢山の飲食店もできました。あ、その飲食店の一つ。デープという移民のお店。これがすごいんです。串焼き肉を回転させながら焼き、薄くスライスしてパンにサンドして提供するとのこと。ソースも珍しい味わいで、価格も良心的で美味しいと、既に評判です」
亡命目的で不法入国し、キング討伐に巻き込まれ、一人生き残ることになったデープ。レイノルドとも話し、ウィリス領の領民として受け入れを決めた。
彼は元いた国ではレストランを経営していたという。
そこで母国の料理を出すお店を作ることを提案したところ……。
「ありがとうございます! 生き残れた奇跡に感謝し、救っていただけた恩に報いることができるよう、精一杯頑張ります!」
デープはそう言うと、冬の間にウィリス領へ向け出発。そして有言実行でお店を開店させた。しかも既に評判もいいのだ。
私は家族を母国から呼び寄せることができるよう、手続き書類を用意。ウォーレンから渡してもらうことにした。
「飲食店もそうなんですが、村に劇場も建設中なんですよ! しかもこけら落とし公演はオペラ! 村人は皆さん、無料招待になるそうです。しかも演目は領主様と副団長が主人公で、魔獣討伐を描いた一大スペクタクルなんだとか」
これにはもう苦笑するしかない。
だが村人からすると、知っている人物が演目なのだ。
とても楽しみにしているという。
「王都からアルセン聖騎士団の皆さんが赴任するのを、今か、今かと村人一同、待ちわびている状態です。そして村は間違いなく発展していますよ、領主様!」
これを聞いた私は安堵する。
両親が突然亡くなり、領地を引き継ぐことになった。
でもその直後に流行り病もあり、村はいつまで経っても極貧状態。
領民には苦労をかけたと思う。
ここでようやく彼らの暮らしが少しでもよくなってくれると思うと……。
嬉しくなる。
「みんな、領主様に会いたがっていましたよ。ミルリア嬢、ギル令息の顔も見たいと」
ウォーレンのこの言葉には胸が熱くなる。
「バカンスシーズンに入れば、ギルの学校も休みになるわ。そうなったら領地にも……顔を出したいわ」
とはいえ、バカンスシーズンになったら……という宿題はいくつもある。
鉱山の採掘状況も視察しに行くことを計画していた。
レイノルドの妹アニスも留学先から帰国するので、会おうと話している。そしてレイノルドがバカンスシーズンにどれだけ休みをとれるのか……。
領地に戻る時間、あるかしら?
王都から相応に距離がある。
「大丈夫ですよ。その時はわたしが協力します。領主様には、沢山揚げパンを食べさせてもらいました。魔術を使えば、往復の移動はあっという間ですよ!」
ウォーレンが笑顔で提案してくれた。














