第四話:不器用な彼女
自分の率直な想いを、言葉を選ばず伝えると、それは相手を傷つけることになりかねない。
大切なことは批判ではなく、そこからの改善なのだ。
ゆえに前向きに相手がなれるように。
言葉を紡ぐ必要がある。
「例えば……『ネクタイは毎日使うものだから、プレゼントされると嬉しい。でも実は柄物より、無地が好きなんだ。今度、一緒に紳士服のお店に行こうか。自分のお気に入りの服、ネクタイ、靴、帽子、ハンカチ、ステッキを君にも見せたいな』――こんな感じで話すことができれば、彼女にとっても願ったり叶ったりなのでは?」
「そういうことですか……!」と令息はヘーゼル色の瞳を輝かせる。
「今の言い方であれば、確かに角は立たない。それに自分の好みをリーゼに伝えることもできる。彼女も次の誕生日プレゼント選びには……困らないわけか」
「そうなってくれるのではと思います。婚約者はあなたのことが好きなのでしょう。もし形式上の婚約者であれば、毎年同じもの贈ってくると思います。花束とワイン……みたいな形で。毎年趣向を凝らしているのは、あなたに好かれたいという表れだと思います。でもお互いに遠慮しあい、話し合う時間を持っていなかったのでは?」
これには思い当たるのだろう。令息が自身の手をぎゅっと握りしめた。そこで私は穏やかに語りかける。
「婿養子だから何も言えない。その考えを変え、自分の想いを伝える。伝えられた婚約者は、目から鱗が落ちる――でしょう。あなたの変化に、彼女も応え、変わるのでは? 強制される変化ではありません。気付きを与えられ、変わるんです。それであればストレスにはなりませんよね」
「そうですね。私も……今、ウィリス嬢から聞いたことは、すべてが気づきでした。難しいことではないのに。視野が狭くなっていたのか、気づけませんでした。でも『そうだったのか。リーゼはそんな風に思っていたのかもしれない』と気付いてしまうと……。不器用な彼女を愛おしく思います」
そこで令息が優しい笑顔になる。
ここで最後の仕上げだ。
「過去の誕生日プレゼントのことは一旦忘れ、二人の中で笑い話に出来たら解決です。きっとこれからの誕生日は、待ち遠しくてならない……そうなるといいですね」
「はい! そうなるよう、頑張りたいと思いました!」
良かった、と思う。
ここに来た時はウンザリ顔だった令息が、清々しい表情になっている。
「では手紙はなしでいいでしょうか」
「いえ、ぜひお願いします!」
「?」
首を傾げる私に令息は、ハキハキとした笑顔で話し出す。
「学校が休みの日曜日に、会いたい。話す時間を作って欲しい――そんな手紙を書いていただけますか」
「承知いたしました。その手紙、お任せください」
◇
「ミルリア。どうしたのかしら? ロールキャベツは大好きだったわよね? 春のキャベツは甘いって、毎年喜んで食べていたのに。しかも領地とは違うのよ。ちゃんと真ん中にたっぷりお肉が入っているわ。ソーセージが三分の一だけ入っているんじゃないの。それなのに……どうしちゃったの?」
午前中の代筆業が終わり、ミルリアと二人の昼食。
これまた春からの、新しい日常だった。
ギルがいないことを最初、ミルリアは寂しがり、一時期昼食で食べる量が減ったこともある。
でも今は元に戻っていたはずなのに。しかも大好きなロールキャベツを用意してもらったのに。
ミルリアの食が進んでいない。
心配し、怒るのではなく、その理由を尋ねると……。
「だってお姉様、今日のティータイムは、揚げパンを沢山食べられるのでしょう?」
「!?」
「ウォーレンお姉さんが遊びに来るから、お姉様は揚げパンを沢山作るって言っていたでしょう? しかもいつもとは違う揚げパン! シナモンシュガー、ココアパウダー、ナッツパウダー、かりかりチーズパウダーもあるんでしょう? あと溶かしたチョコレートをかけたものも作るって。お昼をしっかり食べたら、揚げパンを沢山食べることができないもん!」
揚げパンについて話すミルリアは、朝のエントランスで見せた令嬢ではない。領地にいた頃のミルリアに戻り、食いしん坊が全開になっている!
それはそれで可愛らしくもあった。
この世界では子供が早く成長することを求めるが、私としてはミルリアはいつだって愛らしく可愛いミルリアでいて欲しい。
そうではあっても。
揚げパンのために昼食で食べる量を我慢する。
これはよろしくない。
揚げパンはあくまでティータイムのデザート。
昼食のたっぷりキャベツはちゃんと食べて欲しい!
「ミルリア。揚げパンは一人、多くても二本までよ」
「えー! 沢山種類があるのに、二つしか食べちゃダメなの!?」
泣きそうな顔の上目遣いに、ミルリアが将来、沢山の令息を泣かせる存在になるかもしれない……なんて想像してしまう。
「いろいろな味のパウダーを小皿に用意するから、ちぎった揚げパンをつけて食べるの。そうしたらいろいろな種類を味わえるでしょう」
「すごいわ、お姉様、天才!」
「チョコレートはチーズフォンデュみたいに、トロトロのものを用意するから、そこにつけて食べられるわよ。ちょっとずついろんな味を楽しむの。だから昼食はちゃんと食べないと」
これには「はーい!」と大きく返事をすると、ミルリアはロールキャベツにかぶりついた。














