第二話:運のいい三男だったはずが
毎年のように婚約者から誕生日に贈られてくるプレゼント。
剥製は狩りの戦利品として、大型の鹿や熊は貴族の間で人気であり、ギフトとして贈られることがあった。対して小動物。野ウサギの剥製は……ニッチである。しかも令嬢から令息へ野ウサギの剥製を贈るというのも、かなり珍しい。
そしてネクタイ。
ギフトとしてネクタイの選択自体は悪くないが、これは相手の好みをよく知った上で選ぶ必要がある。選んだ本人としては「きっと喜んでもらえる。いい柄だわ」と思っても。贈られた相手の感性からズレたらそれで終了となる。シンプルな無地のネクタイを好むのに、柄入りであるだけでも地雷となるのだ。ネクタイをギフトで選ぶ場合は、相手をよく知ってからが正解だった。
下手くそな刺繍入りのハンカチ。
もしもそれまでに贈られた誕生日プレゼントにこの令息が満足していたら。その年、たまたま贈られたギフトが刺繍入りのハンカチであり、その刺繍が下手くそでも……「この下手なところがリーゼらしくていいよ」と笑い話で済んだかもしれない。
だが令息は生焼けの手作りクッキーでお腹を壊して寝込んだ過去もある。婚約者の手作りには警戒感もあるだろう。そこで下手くそな刺繍入りのハンカチを贈られたら……ウンザリしてしまった。それが正直な彼の気持ちだろう。
さらに香水。
これはネクタイと同じで、相手の好みからわずかでもズレると終わる案件。普段、相手が使っている香水をあらかじめ把握し、それをプレゼントするならいい。今使っている香水がなくなれば、そのまま使えるからだ。
ところが。
「自分がつけて欲しいと思う香水だから」とプレゼントするのはリスキーである。「多分、気に入ると思う」という感覚で贈るのは、NGな品の一つなのだ。
香水については前世でも“スメハラ”(スメルハラスメント)という言葉があるぐらい、センシティブなもの。地雷を踏みたくなければ、香水をギフトとして選ぶ際は慎重にしたいところ。
ということで令息が毎年の誕生日を怯えている理由は理解できた。
問題はここだろう。
「言えるわけないじゃないですか! 私は婿入りの身なんですよ? リーゼを怒らせ、婚約破棄でもされたら困ります」
将来、男爵家を継ぐために、婚約者を怒らせたくない。
だからこの十二年間。
楽しいはずの誕生日を憂鬱になりながらも我慢してきた。
「これまで我慢していたのに、今回、誕生日プレゼントに対する不満を打ち明けることにしたのですか?」
「違います。先程も言った通り、私は立場上、リーゼに何か言えるわけがないんです。だから手紙では、不満を打ち明けるのではなく『誕生日プレゼントはもういらない』と伝えるつもりなんですよ。用意するのも大変だろうし、リーゼは年下でまだ学生なんです。『余計なお金を使わせたくない』――これなら角も立たなないし、いい口実になりますよね?」
口実として『余計なお金を使わせたくない』は、相手の反論を封じるもの。学生であることやお金の負担を考慮したなど、一見、相手を思いやるように見える。だが実際は違うわけだ。それに……。
「学生……と言っても、その期間は限られていますよね? 卒業し、花嫁修業の身になったら『もう学生ではないから遠慮しないで。誕生日プレゼント、贈るわ!』となりませんか?」
「そ、それは……」
「今回、婚約者に送ろうとしている手紙は、一時しのぎにはなっても再燃するでしょう。それにお二人の間の問題の本質は、誕生日プレゼントではないですよね?」
令息がハッとした表情で私を見る。
「政略結婚であり、ご自身は立場が弱いから、意見できない――これが今の悩みの本質では? ここを解決しない限り、一生悩みは続くと思います。今は誕生日プレゼントで済んでいますが、いざ結婚となれば、結婚式を挙げますよね。結婚舞踏会も開くでしょう。そうなったらそこで意見が、婚約者と食い違うかもしれません。なんとか結婚して、結婚生活がスタートしても。日々の生活の中で、価値観の違いが生じた時。ずっと我慢なさるのですか? 離婚されると男爵位を継げないからと」
「それは……。でも、だったらどうしろと言うんですか!? 私は婿養子になる身なんです!」
「そうですよね。その考えに固執されるなら。何もしない方がいいです。誕生日プレゼントはいらないなんて、手紙を送るべきではないでしょう。我慢を続けるしか、波風が立たない方法はありません」
人間、ある考えに囚われている時。
その考えから脱するのは簡単なことではない。
これは一種のショック療法。誰にでも通用するわけではない。相手の思考や話し方、傾向を見極めた上ですることだ。
そしてこの令息にはこの方法が有効と判断した。
「ご自身は婿養子という弱い立場。婚約者の言いなりになるしかない。そう十二歳の時から考えており、その価値観を変えられないなら、諦めてください。我慢をして、墓場に入るその時まで、従順でいるしかないでしょう。もしそうではない方法を望むなら。ご自身の意識を変えるしかありません」














