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ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第四章

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第九十話:じわじわと理解する

 私はレイノルドの言葉を吟味することになる。


 ここは天国ではない?

 キングを倒したのはレイノルド?

 ウォーレンが魔術を使い、私を蘇生した?


 一瞬、信じかけた。

 でも分かっている。

 ここは天国で、すべてが私のご都合主義に従ってくれるのだ。


 実は私は死んでいない。

 キングを倒したのはレイノルドだった。

 寸でのところで私は、ウォーレンの魔術で助けてもらえた……そうだったらいいと、きっと私が無意識でも思ったことなのだろう。


 これが現実ならどんなによかったか。


 魔術師でもない私だって分かる。

 魔術がすごいことを。

 解毒も回復も治癒もできるポーションを、魔術師は作り出せる。


 それでも、失われた命を取り戻すことは、無理な話。


 つまり死人を蘇らせることは、さしもの魔術師でもできないこと。


 よって私が実は生きている……これはあり得ないことだ。


 あり得ないこと……。

 今だってそうではないか。


 ハグではなく、こんな風に強くレイノルドは私を抱きしめてくれている。


 騎士であるレイノルドが、みんなの前でこんな風に抱きしめるはずがない。私が心のどこかでそうされたいと願ったから、天国のレイノルドは応じてくれただけだ。


「セドニック副団長、ありがとうございます」


「ウィリス嬢……」


「回復のポーションを飲みますね。……でも多分、飲まなくて平気だと思います。聞いても理解できないと思いますが、この天国では、私が願った通りになるんです。だから」


「領主様!」


 ウォーレンがつかつかとこちらへ近づき、ギルとミルリアの後ろに立った。


「気付けのポーションも飲みますか? とてもすっぱくて、一気に意識がスッキリしますよ? 領主様は生きています! わたしと約束しましたよね? 『この先、私が生きている限り。ウォーレンさんが望むなら、揚げパンを作ります。急ぎの用事がない限り』と言いましたよね? パンケーキはいただきましたが、肝心の揚げパンはまだです。領主様に昇天されては困ります! ゆえに特殊な魔術を使ったんです。精霊の使う特殊な力と魔術を融合させ、あの世とこの世の狭間にいた領主様を、こちらの世界へ引き戻しました」


「すごいわ、ウォーレンさん。というかさすが天国ね。あり得ない奇跡の話だわ」


「違います、あり得た奇跡の話です。わたしは知る人ぞ知る賢者の魔術師。そういう特殊な魔術もいくつか使えるんです!」


 ウォーレンさんが興奮気味にそう叫ぶと、ギルも口を開く。


「姉様、この魔術師の言うことは本当だよ。僕もこの説明を何度も聞いている。たださすがに特殊な魔術の詳細なんて、聞いても理解できなかった。でもこれだけは言える。このウォーレンさんのおかげで姉様は死なずに済んだんだよ」


「そうよ、お姉様! ここは天国ではないわ。だって……お父様とお母様、いないでしょう……?」


 ミルリアの言葉にドキッとする。

 お父様とお母様……。

 いない……なんてことはないと思う。

 二人は天国に向かったのだから、会えるはず。


 そこで私は強く心の中で念じる。


 お父様、お母様、会いに来て――と。


「ウィリス嬢。ご理解いただけましたか? ポーションをお飲みください」


 ハッとしてレイノルドを見る。

 両親が姿を現わすことはなかった。


 じわじわと理解する。


 ここは……天国ではない。


 で、では、なぜ、レイノルドはハグではなく……。

 ……そうか。

 彼は男性で力もある。

 あれぐらいは彼の中では、ハグの一つなのね。


 というか……現実なの……?


 ギルとミルリアを見ると、こくりと頷く。

 まるで私の心の中の問いが、伝わったかのように。


 その瞬間。


 猛烈な恥ずかしさに襲われる。


 何度も。

 何度も「ここは天国」と言ってしまった。

 それに心残りの一つが、レイノルドとハグできなかったこと――と言ってしまったことも、とても恥ずかしい……! しかも天国だから、自分の願った通りになる――なんてことまで口にしている。


 あまりの羞恥心で、両手で顔を覆うと……。


 再びレイノルドに抱きしめられていた。

 さっきとは違い、ふわりと優しく抱き寄せられている。さらに頬が彼の左胸に触れることで、その鼓動が感じられた。


「自分の説明が足りず、混乱を招いてしまいましたね。申し訳なかったです。でもこうやっていると、自分の鼓動が聞こえませんか? ……少しせわしないのは令嬢を抱き寄せているからで、そこはお許しください。ただこの鼓動を感じることで、命を実感できませんか」


 私に鼓動を聞かせるために抱き寄せたのね。


 そして確かに聞こえる。

 トクン、トクンと感じるレイノルドの鼓動。

 確かに彼が生きてここにいると実感できる。


「……実感できました」


「良かったです。ではポーションを飲んで、もう一度休んでください。今はお昼前なので、昼食はみんなと一緒に食べましょう。そこで何があったのか、お聞かせします」


 微笑んだレイノルドがゆっくり体を離し、私は静かに頷く。


 さりげなく自分の胸に触れ、自分自身の鼓動も確認する。


 生きている、私――。


 涙が出そうになるが、それは回復のポーションと共に飲み干す。その上で笑顔でみんなに告げる。


「お騒がせしました。心配をかけてごめんなさい」


 ギル、ミルリア、ウォーレン、レイノルド。

 そしてジョルジュも。


 安堵の笑顔になった。

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