第八十一話:我慢……?
感動の再会のハグになるのかと思った。
だがレイノルドは伸ばしかけた腕をすっと引っ込めたのだ!
「わざわざこんな所にまで来ていただき、ありがとうございます。何よりもきちんと自分から説明をせず、申し訳ありませんでした」
「何か事情があったのですよね。こちらも何があったか話したいですし、それに昼食を作ったのです。一緒に食べませんか?」
「このいい香りはウィリス嬢の手料理なのですか!?」
貴族は料理を使用人に任せるものだ。
レイノルドが驚くのも無理はない。
領地では、何だかんだでマチルダが頑張ってくれていた。私もここまでしっかり料理する姿を、レイノルドに見せていない。
「お恥ずかしながら領地でのあの生活ですと、料理は自分でも作らないといけなくて」
「違います! そういう意味ではありません。ウィリス嬢の手料理を、まさかここで食べられるとは思わず。嬉しいんです!」
頰を高揚させたレイノルドが腕を伸ばす。
今度こそ「嬉しいです」のハグがあるかと思ったら……。
レイノルドはまたその腕を引っ込めたのだ!
抱きつくわけではなく、ハグなのに。
そう思うがとりあえず椅子をすすめようとして、もう丸椅子がないことに気がつく。するとウォーレンは、あっという間に積まれた薪に魔術を使い、椅子を用意してくれた。
私は急いでレイノルドの分の昼食も準備する。
その間にレイノルドは、ウォーレンに自己紹介。毒の調合と聖剣に対する御礼を伝えていた。
結局、ウォーレンは令嬢姿のまま、レイノルドと会話をしている。
レイノルドは間違いなく、ウォーレンを女性だと思っているだろう。そこを訂正するべきかどうか悩むが、そこでジーク団長とウォーレンは、喧々諤々としていたことを思い出すと……。
ウォーレン本人が明かさないなら、そのままにしておこう……と判断する。
「毒と聖剣もそうですが、こんなところまで出向いてくださり、本当に心から感謝しています。ドレスで不便はありませんか? 大丈夫ですか?」
するとウォーレンは、私に話したのと同じことを伝えている。つまりはドレス丈を魔術で短くして、ブーツを履いていると。
その様子を見て、何となく思ってしまう。
同じ質問をジーク団長がウォーレンにしたら……。
ウォーレンは、噛みつくような答えをしただろう。例えば「余計なお世話です」とぴしゃりと言いそうだ。でもウォーレンはレイノルドに対しては大人しくしている……と、思う。今のところは。
そして私の方の準備は完了。
トレイに食事を載せ、テーブルへ運ぶ。
「セドニック副団長、お待たせしました。普段、屋敷で召し上がる料理に比べると、お粗末なものですが……」
「そんなことはありません。限られた食材で、頑張って作ってくださったのです。自分は栄養が摂れればいいと、干し肉はそのまま、ジャガイモをゆがくぐらいしかしていません。魚は久々に口にします。とても嬉しいです」
そう口にしたレイノルドの表情。
心から嬉しいと思っていることが、伝わってくる。
それを見た私は、胸がジーンと熱くなってしまう。
ウォーレンもそうだが、レイノルドもまた、誰かの手料理を欲していたんだ。
手料理……暖かい料理よね。きっと。
「それに、こちらのウォーレンさんが、ウィリス嬢の料理を口にしている時の顔を見ていたら……心が込められた料理と分かりました。自分の分まで用意いただけて、光栄です」
これを聞いたウォーレンは「副団長はいい奴ですね」と瞳をうるっとさせる。
どうやらウォーレンとレイノルドは、ウマがあうようだ。
こうして三人で食事を再開することになった。
といってもウォーレンと私はほぼ食べ終わり、紅茶を飲むことになる。
その紅茶を飲みながら、ここに至るまでの経緯を話した。
全てを聞いたレイノルドは大いに驚く。
「そうだったのですね。博物館の古い剣のことは知っています。まさか本物の聖剣だったとは。驚きましたが、良かったです。キングとの追いかけっこには、疲弊していたので……。これで決着をつけられます」
「キングに毎晩追われ、夜明けと共に休む日々だったのですか?」
紅茶を飲みながら尋ねると、レイノルドは頷く。
「月は満月に向け、満ちています。日に日にキングの力が強まり、攻撃が熾烈になっていますが、こちらの武器は一切通らない。足止めにはなっても、傷ひとつつけられないのですから……。仲間の騎士達が掘ってくれた落とし穴だけが頼りですが、それもほぼ使い尽くし……。既に閉塞感が漂っていたので、本当に今日お二人が来てくださったことに、心から感謝しています」
そう語るレイノルドは、既に昼食を食べ終えていたので、私は紅茶を出すため、彼のすぐ横に立っていた。
「……感謝しています」と告げたレイノルドは、顔をあげ、その美しくグラデーションしている瞳で、私をじっと見た。
その目を見ていると、副団長として、一人の騎士として。弱音を吐けず、厳しい日々を送っていたことが伝わって来る。
思わず抱きしめたい気持ちになるのは、母性本能?
ここはぐっと我慢すると。
「……どうしてお二人はそんなに我慢し合うのですか?」
「「えっ」」
ウォーレンの問いに、レイノルドと私は声を揃え、「えっ」と反応してしまう。
まさに今、私はレイノルドを抱きしめたい気持ちを我慢していたので、言い当てられた気持ちになり、ドキッとしていた。
「喜びや感謝を伝えるのに、ハグをすることは、別におかしなことではないですよね?」
ウォーレンの指摘に、それはその通り……と思いつつ、さっきの自分の気持ちを振り返る。
レイノルドに対し、私はハグではなく、何というかいたわりたく、抱きしめたい気持ちになっていた。
こんな気持ちになるのも、おかしいことではないのかしら……?
その一方でレイノルドは、確かにハグを二度、ためらっていた。
私の場合はハグではなく、抱きしめるだから、躊躇するのは仕方ないと思う。
未婚令嬢が異性にむやみに抱きつくのは……世間的にも白い目でみられるから。でもレイノルドの場合、あれはハグだったと思うから、なぜやめたのか。
私も不思議でならなかった。
するとレイノルドはその理由を話し始めた。














