第八十話:昼食
没落同然の日々では。
今回用意した昼食は、ご馳走に分類された。
貴重なバターが使われているし、少し堅いが、パンは小麦で作られているのだから。
この場にギルとミルリアがいたら、喜んで食べてくれただろう。
とはいえ。
レイノルドの屋敷でお世話になるようになってからは、白パンが当たり前になり、野菜だけの食卓から、肉と魚と野菜がある食卓に変わった。一度の食事で口にする品数も、うんと増えたのだ。
それを考えると、私が用意した昼食は、たいしたものではない。
だが……。
「領主様、とても美味しいです。このバターと香草のバランスもとてもよく、川魚の身に、ソースの味が良く馴染んでいます。パンはスープにつけて食べても美味しいです。ですがこのバターソースにパンをつけても、絶品! さらにこのスープ! 干し肉から出た旨味が、スープに深みを与えています。ジャガイモもニンジンもちゃんと柔らかい。幸せです……」
そこまでの料理ではないのに。
ウォーレンのこの評価を聞くと、とてつもないご馳走を用意できた気持ちになってしまうから不思議だ。
それに。
可愛らしい令嬢姿でウォーレンにウルウルされると、なんだか抱きしめてあげたくなってしまう!
「このリンゴのコンポートも、蜂蜜の優しい甘さが心に沁みます……! このままでも十分楽しめますが、パイやタルトにしても絶対に美味しいですよ!」
「もしかしてリンゴのタルトやパイが好きなの?」
「自分で作ったパイやタルトなんて、特に好きでも嫌いでもないです。でも領主様が作るなら、何でも喜んでいただきます!」
可愛らしい令嬢顔で、頰を赤くするウォーレン。
よほど手料理に飢えていたのね。
その時だった。
汚れた炭焼き小屋の窓の向こうで、動く人影が見えた。
曇りガラスかというぐらい、窓は汚れている。
目の錯覚かもしれないが……。
「ウォーレンさん、外で何かひ」
そこでいきなりドアが蹴破られる勢いで開き、ブワッと風圧を感じた。同時にムスクの甘い香りも感じる。風圧をやり過ごし、目を開けると――。
「抵抗を止め、両手を上げ、伏せろ!」
弓矢を構えたレイノルドがそこにいる!
あの紺碧と空色にグラデーションした美しい瞳と目が合う。
だがその瞳は戸惑っている。
レイノルドは一度瞬きをした後、押し殺した声で告げた。
「君達はこんなところで、何をしているのですか? 令嬢とそれを護衛する女騎士。しかもその隊服は、王族を護衛する近衛騎士のもの。所属と名前を告げていただけないでしょうか? 身元がはっきりするまで、申し訳ないですが、この矢を下ろすわけにはいきません。たとえお二人がレディであろうと」
なるほど!
レイノルドはこの場所に、まさか私がいるとは思わない。しかも私は指摘通り、近衛騎士の隊服をきている。ゆえに私のことを、エレナ・ウィリスと似た女騎士と理解したようだ。
だが王族を護衛する近衛騎士が、なぜこんなところにいるのか。さらに令嬢姿のウォーレンを見ても、把握している王族と一致しない。王家の遠縁なのか。そうだとしてもなぜこんなところにいるのか。疑問で頭はいっぱいだろう。
「セドニック副団長」
私の声を聞いたレイノルドが、さらに混乱しているのが伝わってくる。声もまた、私そのものなので、混乱は深まるはずだ。
「エレナ・ウィリスです、セドニック副団長」
「!」
レイノルドは驚愕の表情を浮かべ、まだ信じきれないようだ。やはり王都から離れたこの場所に、突然私が現れたことは……信じられないことなのだろう。
ここはウォーレンを紹介するしかない。
「こちらの魔術師であるウォーレンさんに、ここまで連れてきてもらいました。もちろん、魔術を使って。ここへ来たのは、これを届けるためです」
近衛騎士の隊服には、ウエストポーチのようなものが装備されていた。そこに茶色の瓶に入った毒を入れていたので、それを取り出す。
「キングを倒すための毒です。これもウォーレンさんが用意してくれたんです。それに聖剣は、騎士団本部の隣の博物館にありました」
目線を、暖炉のそばの壁に立て掛けた聖剣に向ける。聖剣を包む布には、アルセン聖騎士団の紋章も入っていた。
レイノルドの顔に「信じられない」という驚きが浮かぶ。
「この聖剣を見つけてくれたのも、こちらのウォーレンさんです」
そう言ってレイノルドの顔を見た瞬間。
「本当にウィリス嬢なのですね?」と、問われた。
すぐに私は笑顔で伝える。
「セドニック副団長、ずっと心配していたんですよ。ギルもミルリアも。ジョルジュ達、使用人のみんなも!」
「心配をおかけし、申し訳なかったです!」
その瞳に涙を浮かべたレイノルドは、その腕を伸ばし……再会のハグかと思いきや……。














